第三十六話(表裏)
鋼色の炎が徐々に収まっていくとノクト、魔王、シャルは空中からゆっくりと床へ落下する。
床へ着地したノクトと魔王はシャルの体を貫いた聖剣を引き抜いた。
聖剣を引き抜かれたシャルは着地した床にそのまま倒れる。
「シャル!」
シャルの体から聖剣を引き抜いたノクトはすぐに倒れるシャルの体を抱えた。
聖剣を引き抜いた箇所から血が流れて顔色が徐々に青ざめていた。
「……大きな声出さないで。……傷に響くから」
ノクトに抱えられたシャルは息も絶え絶えで声を抑えるように忠告した。
「……これも最初から……分かってたでしょ?」
消え入りそうな声で話すシャルにノクトは渋面する。
この空間へ来る前、ここにいる全員に伝えた通り、シャルが人柱になって傍観者を移す気を与える役目を果たした。
「ここからは私達の役目です」
シャルを抱えているノクトの背後から悪魔の一体が声を出すとシャルとノクトを囲むように悪魔は並ぶ。すると悪魔達の足元から魔法陣が浮かび上がった。
浮かび上がった魔法陣の上に立つ悪魔達の体が徐々に光の粒子に変わっていくとシャルの体を包むように動き出す。
光の粒子がシャルの体を包むとシャルの体を貫いた聖剣の跡が時間が巻き戻るように塞がっていく。
シャルの体にできた傷口が塞がっていくと同時にシャルの青ざめた顔色が徐々に生命力のある朱が混じっていく。
シャルの顔色が戻っていくその時、シャルの傷口から黒い文様が浮かび上がった。
黒い文様が浮かび上がるとシャルは途端に悶えだした。
シャルは急に走り出した激痛に自身の手で体を押さえて苦悶の声を漏らす。
「シャル⁉」
ノクトは急に悶えだしたシャルに驚愕した。見るからに調子が悪化している。
「まさか!」
魔王はシャルの傷口から浮かび上がった黒の文様を近くで見た。すると魔王は苦虫を噛み潰したような表情浮かべる。
「シャルはどうなっているんだ⁉」
「間違いない。シャルロットは呪いを掛けられている」
魔王の答えた言葉にノクトは絶句する。
「しかもこの呪いは人ひとりの命を容易く奪う厄介な類の呪いだ。おそらく散り際に傍観者がシャルロットに掛けたのだろう」
冷静に状況を口にする魔王は言葉の端々に焦りが滲んでいた。
「それじゃ、早く呪いを解かないと!」
「呪い自体は解呪はできる。しかしそのためには人柱が必要になる」
魔王が口にした言葉にノクトは言葉が詰まった。
人柱。つまりシャルを助けるには誰かの命を贄にしなければならない。
魔王の言葉の意味を理解したノクトを含めた他の勇者達は驚きの表情を浮かべる。
「だったら俺が——」
「ここは我が人柱になろう」
ノクトの言葉を遮るように魔王は自身が人柱になる事を口にした。
お疲れ様です。
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