第十二話(裏)
イプシロンの話が終わりしばらく経ちシャルも状況を呑み込めてきた。
シャルはイプシロンが語った真実を頭の中で整理がついてきたが顔色はまだ青ざめていた。
「少しは話を呑み込ましたか?」
イプシロンはシャルの様子を見て声をかけた。
まだ顔色が青ざめているシャルだがイプシロンを見て返答した。
「何で私達がこんな運命を背負わないといけないの?」
その声は悲痛と苦悩が入り混じった聞いていて心が締め付けられそうな声音だった。
心なしかシャルの瞳が潤んでいる。
「それはこの世界がノクト様含め魔王様の血族や眷属を絶対悪として聖典を改竄した人物に言ってください。私達もその人物のせいで仲間を何体も滅ぼされました」
イプシロンも今までなく怨嗟の混じった声音で話す。
「私達悪魔は真実を語りました。そして私達はこの世界をより良いものにしたい。その決意は伝わったと思っています。今度は貴女の意見が聞きたい」
イプシロンの後ろから他の悪魔がシャルに問いかけた。
「あなた達悪魔はノクトの目の前でお養父さんを殺した。アンリを攫った。そんなことまでしてほしい平和って何?」
シャルは悪魔達を睨んだ。
「お養父さんが築いた平穏を壊そうとしたのは国が最初でしょうけど、最終的に平穏を壊したのはあなた達悪魔じゃない!そんな事をする人達なんか信用できない!」
シャルは声を荒げて悪魔達に憎悪の意を告げた。
「勘違いするな。我らは貴公の姉である英傑の転生者が双子のどちらか、判別するために姉妹揃ってここへ連れてきただけだ。そして我らが必要なのは英傑の転生者だ。英傑の転生者でないと分かった以上貴公に用はない」
シグマはシャルを威圧するような凄みを含んだ声音でシャルの言葉を断ち切る。シグマの言う通りシャルはあくまで英傑の転生者がアンリとシャルのどちらかを判別するために連れてコラてただけ。シャルが英傑の転生者でないと分かった以上ここにいる意味はない。
「そんな事を言うのはいささか物騒ですよ、シグマ」
「そうである。まだ我々は彼女に訴えていない事があるのだ」
シグマの後ろから今まで話していた悪魔達とは不気味な声質とは違う心から癒される声質の声が聞こえた。
シャルは声のする方向を見ると黒い外套を羽織っているが体が煙のように動き実体がないように見える悪魔が二体いた。
「アルファ、オメガ。不完全な状態でよく来たものだ。本来なら貴公らは要安静状態なはずだ」
シグマは後ろにいた悪魔——アルファとオメガに心配の言葉をかける。
「このような大事な時に穴を開ける事などあってはならぬからな」
アルファと呼ばれた悪魔がシグマの言葉に返答した。その声は落ち着きを感じさせる優しい声だった。
「私達は彼女の意志をまだ聞いていません。ここまで来る事ができる人間は今までいませんでした」
オメガはまるで聖母を思わせる心が浄化されるような落ち着いた声でシグマを窘める。
「シグマが脅かしてすみません。私達はこの部屋までに辿り着いた貴女に興味があります」
「どういう事?」
オメガの言葉に疑問を抱いたシャルは質問した。
「先程私も言ったと思いますが普通の人間がここまで来る事は例外を除いてあり得ないのです」
シャルの後ろからプサイがシャルの質問に個体た。
「探知魔術を使えば確かにこの空間の仕掛けには気づくでしょう。しかし、貴女は大前提を見逃しています」
「その大前提って何?」
プサイの回りくどい話にシャルは単刀直入に質問した。
「この空間のすべてに施された仕掛け全てが例外を除いて悪魔以外の者が触ると正常に起動せず仕掛けに触った者は死んでしまうという事です」
プサイが言った大前提——悪魔以外が触れると通路の開閉でなく触れた物を殺す罠になる。
その大前提にシャルは気づかないまま仕掛けを掻い潜りここまで来た。
「しかし貴女はそんな仕掛けを正常に起動させてここまで来ました。それができるのは悪魔か悪魔の魔力や神聖力と適合できる人間のみです」
プサイは部屋に施された仕掛けの全貌を語った。
「この空間に施された仕掛けに拒まれずここまで来る事のできた貴女に問います——」
オメガがシャルに問いかける。
「——貴女は人々を、この国を、この世界をどうしたいですか?」
その問いかけにシャルは少し下を向いて考えた。
この世界の真実を知ってシャルは絶望した。
大事な家族であるエドワードに平気で残酷な命令を下す国、魔王の血族というだけで世界から殺される事が平和のためになるという聖典を崇拝する信徒、アンリを魔王を討つための道具としてしか見ない世界。そんな事のために自分達の平穏を奪われた。
シャルはこの世界の真実を知った上で出した答えは——
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んでくださり誠にありがとうございます。
寒い日が続いてこれからもっと冷え込むようなので体を崩さないよう気を付けないといけませんね。
これからも投稿していきますので良ければ読んで頂けると幸いです。