第十一話(裏)
シャルが新しい部屋に足を踏み入れると今までの部屋と全く違い星のように輝く宝石が全く埋め込まれていない黒ずくめの部屋だった。
そして部屋の中には誰もいなかった。
「誰もいないだけど?」
後ろから歩いてきたプサイとシグマに尋ねた。
「少しだけ待っていてください。すぐ集まります」
プサイがそう言うと黒の外套を羽織っている様々な体格、身長の異形の顔を持った悪魔達が煙が霧散して消えていく一連の動きを巻き戻したようにむさんしていた煙が収束していき体が形作られていく。
現れた悪魔達は一様にシャルの方を向く。
「この少女が魔王様が所望していた一人ですか?」
「ええ。もう一人はシグマが例の場所に連れて行きました」
「仕事が早いな。シグマ」
「当たり前だ。すべては我が主のためだ」
悪魔達の会話にシャルは何のことを話しているのは見当もつかなかった。
しかし悪魔達の会話で自分以外にもここに攫ってきた人物がいる事だけは理解できた。
「ねえ。私以外にもここへ連れてきたって言ってたけど誰を連れてきたの?まさかノクトまで⁉」
シャルは先程プサイが会話の中で出てきたノクトの名前から反射的にノクトの名前が出てきた。
「ノクト様はまだ連れて来ていません。魔王様がまだその時期ではないと申していましたので、おそらくノクト様が本来の力を使いこなしてからだと思います」
初対面の悪魔がシャルの質問に答えた。シャルは悪魔の言葉に耳を傾けるつもりはなかったが、もしそうだとすると誰がここに連れてこられたのか気になった。
「じゃあ、誰をここに連れてきたの?」
「英傑の転生者だ」
「その英傑?って何?誰を連れてきたのかちゃんと教えて」
シグマの答えた英傑について何も知らないシャルにとってシグマの返答の意味が全く理解できない。
「その話をするなら饒舌なこいつを復活させてからの方が早い」
シグマは魔法陣を黒い床に展開した。展開された魔法陣から白く燃え尽きた灰のようなものが山のように現れた。
「プサイ。贄は用意したんだろう。早くここに出せ」
「相変わらずですね、シグマ。悪魔使いが荒い」
シグマの呼びかけに渋々答えたプサイはシグマと同様に魔法陣を床に展開した。プサイが展開された魔法陣から光の粒子が収束し光の粒子が人間の体に変わった。
シャルも見覚えのある人の体だった。白い甲冑を纏っていて頭は何かに叩きつけられて脳天が割れていた。シャルを襲おうとしていた甲冑の男性の遺体だ。
シャルは咄嗟に目を手で隠した。
脳天の内容物が零れそうになっていてあまりにもグロテスクだった。
「いくら死体でいいとはいえ、もっときれいに殺せなかったのかプサイ」
「この者が私の話を遮ろうとするから手っ取り早く殺したまでです」
シグマとプサイは人を殺す事をに何の罪悪感を感じることなく会話をしていた。
プサイが用意した甲冑の男性の遺体にシグマは魔法陣を展開した。それと同時にシグマは灰の山にも新たに魔法陣を展開した。展開された二つの魔法陣から黒い炎が火柱となって遺体と灰の山を盛大に燃やし出した。
黒い火柱は遺体を丸のみにして燃え続ける。そしてあっという間に遺体が骨や灰も残らず跡形もなく燃やし尽くした。一方灰の山を漏らしていた黒い火柱は白かった灰が序どんどん黒く色づき人型のシルエットに変わっていった。遺体が跡形もなく燃え尽きたと同時に灰の山はこの部屋にいる悪魔と同じ黒の外套を羽織った異形の顔を持つ人型に変わった。
「復活の儀、ありがとうございます。シグマ」
黒い火柱から現れた悪魔がシグマに感謝を述べた。
「感謝は後でいい。イプシロン、彼女に英傑の事から諸々関わる事を教えてやってくれ。我は口下手である。饒舌なお前が話す方が彼女も分かりやすいだろう」
「私の事を理解していて助かります。ではこの少女に伝える事としましょう」
黒の火柱から復活した悪魔——イプシロンはシャルに歩み寄る。
シャルは知らず知らずのうちにイプシロンが歩み寄る度に一歩ずつ後ろに下がっていた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫です。私は本当の事しか話しませんので」
イプシロンの甲高い声には不思議な不気味さがはらんでいてシャルは本能的に恐怖を感じた。
しかし今シャルに話す事が嘘か誠かは聞いてみないと分からない。シャルは恐怖を耐えてイプシロンを見た。
「話を聞く気になってくくれましたか。ありがとうございます。では語りましょう。この世界の真実を——」
イプシロンはシャルにお礼を言うと英傑について、魔王について、聖典について、そしてノクトにも語っていなかった真実を語った。
それを聞いたシャルはこの世の真実の不条理さに、自分達に背負わされた理不尽な運命に絶望した。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んでくださり誠にありがとうございます。
明日も投稿しますので良ければ読んでください。