第十四話
「……大丈夫か、……ノクト」
うつ伏せで倒れているラザフォードは全身の痛みを堪えながら同じく倒れているノクトに声をかけた。
ラザフォードに声をかけられたノクトには声が届いていないようで、何一つ返事がなかった。
傍観者によって魔力を吸収された影響か、ノクトは目が虚ろになっていて呼吸も浅かった。
「しっかり……して下さい。……ノクト」
ラザフォードとと同じくシルフィーは地面に倒れながら全身に奔る痛みを堪えてノクトに声をかける。
シルフィーの呼びかけにもノクトは答えない。
その時ファルコは渾身の力を振り絞って膝を押さえて立ち上がった。
重い脚を動かしてノクトの傍まで来るとファルコはノクトの傍に座り手をかざした。
するとファルコの手に刻まれた紋章が強く輝き、ノクトにかざした掌から淡い光がノクトに降り注ぐ。
「何をしているのですか?勇者ファルコ?」
シルフィーは倒れているノクトに手をかざしているファルコに何をしているのか尋ねた。
「こいつの体を治癒しています」
ファルコがシルフィーの質問に答えるとシルフィーはふと思い出す。
かつてファルコと共に魔王の魔力を護衛する旅の中で悪魔達との戦闘後、力尽きたシルフィーはファルコに治癒を受けた。
その時と同じようにファルコはノクトに治癒を施している。
だが、治癒を施しているファルコの姿にシルフィーとラザフォードは目を大きく見開いて驚いた。
ノクトを毛嫌いしていたファルコがノクトに治癒を施しているのだ。二人が驚くのも無理はない。
「僕がこいつを治癒しているのがそんなに驚きですか?」
ファルコは驚きの眼差しで見ているシルフィーとラザフォードに話した。
「えぇ。正直意外過ぎて他に言葉が思いつきません」
シルフィーは素直な感想を口にすると、ファルコは苦笑した。
「本当に、何でこいつを助ける事になるなんて思いませんでした」
苦笑するファルコは勇者の力でノクトを治癒しているとラザフォードはファルコを見た。
ラザフォードは全身の痛みを堪えながら体を起こすとラザフォードに話す。
「傍観者にノクトが捕まった時といい、今まで毛嫌いしてたノクトを助ける?」
ラザフォードの言葉にファルコは鼻で笑う。
「本当にどうかしてますよね。今でもそう思っています。ですがこいつがいなければ敵に対抗できません。それは僕でも理解できています」
自虐じみた表情と言葉を発したファルコは掌から淡い光を出し続けた。
今まで傍観者を倒すのにノクトの力がなければ今頃勇者は全滅していた事は毛嫌いしているファルコでも理解していた。
「けれどまさか、あれだけ口酸っぱく注意していた勇者シルフィーが一番驚いているのは意外でした」
ファルコは倒れているシルフィーの方を見た。
今までノクトとファルコの仲を気にして注意していたシルフィー自身が今の状況に一番驚いているのは一目でわかる。
「こいつを治癒し終わったら次はあなたです。勇者シルフィー」
ファルコはシルフィーを見て次にシルフィーを治癒する事を伝えた。
「それは構いませんが、あなたの方こそ大丈夫なのですか?」
「僕は大丈夫です。今は安静にして下さい。勇者シルフィー」
そう言うとファルコはノクトの体の治癒を続けた。ノクトの体に残っていた怪我はいつの間にか治癒していて顔色も徐々に良くなっていた。
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