第七話(裏)
刺突する寸前、シャルは恐怖で目を閉じた。
そして時間が経ち目を開けると剣はシャルの頬をかすめていた。
剣がかすめた頬から血が滴る。
「次に嘘を吐くようなら今度は喉元を突き刺すからな。本当の事を言え!」
甲冑の男性はシャルが扉に施された仕掛けを知っている前提で話をしているがシャルにも扉の仕掛けについて何も分からなかった。
これでは自分も知らないと再度伝えても信じてもらえず理不尽に殺されてしまう。その恐怖でシャルは言葉が発せず震えが止まらない。
「早く言え!」
甲冑の男性はシャルが扉の仕掛けについて何も話さない事に苛つきを隠し切れず怒声を放つ。
再び突きの構えをする甲冑の男性の顔にはいくつもの青筋が浮かんでいた。
次にシャルが扉の仕掛けについて黙秘をするようなら本気で喉元を突き刺す気だ。
シャルはこの理不尽な状況を恨んだ。そしてこの状況を覆す力がない自分の非力さを同時に呪った。一縷の希望、みんなが帰ってきて甲冑の男性を撃退する事を祈った。
シャルは眼を瞑り神に祈った。
“この状況から助けてください!”
そして甲冑の男性は一向に黙秘を続けるシャルに痺れを切らし、構えた剣を動かそうとした瞬間、胸元に激痛が奔った。
「ぐぶっ!」
シャルは片目を開けて苦悶の声を漏らした甲冑の男性を見ると、甲冑の男性の背中から甲冑ごと黒い剣が貫通していた。甲冑の下から赤黒い液体がすごい勢いで滴り落ちる。
甲冑の男性はそのまま力なく倒れた。甲冑の男性が倒れこむと甲冑の男性の体で見えなかった後ろの人物が見えた。
炎のように揺らめく黒い外套を羽織り、仮面のように無機質な表情は人間離れした冷酷さを感じる。そして人間と似ても似つかない小枝のように細い全身の人物が甲冑の男性の後ろに立っていた。
「五月蠅い人ですね」
後ろの人物は甲冑の男性を虫ケラを見るような憐れみを含んだ目で見下ろしていた。
「私達の獲物を勝手に殺さないで頂きたい」
後ろの人物は甲冑の男性を貫いた黒い剣を引き抜いた。引き抜いた傷口から尋常でない量の血が溢れ出す。
黒い剣を引き抜いた後ろの人物は剣を引き抜いた手から魔法陣を展開し黒い剣が光の粒子に変わり魔法陣の中へ吸い込まれていく。黒い剣の姿が跡形もなくなると魔法陣が消えていく。
魔法陣が消えると息も絶え絶えの甲冑の男性が自分を刺した後ろの人物を睨んだ。
「き……貴様…は誰……だ………」
甲冑の男性は苦悶を堪えて声を絞り出す。
「貴方が知る必要はありません」
後ろの人物は甲冑の男性の質問に拒否の意を伝えると甲冑の男性を無視してシャルに歩み寄る。
「なるほど。確かに英傑の転生者と瓜二つだ。しかし英傑とは比べ物にならない程非力な神聖力と魔力だ」
後ろの人物は品定めするようにシャルを舐め回すように見る。
見られているシャルは得体の知れない者がこちらを見ている事に、甲冑の男性に剣を突きつけられた時とは別の恐怖が全身を満たす。
「あっ……あなたは誰……ですか?」
シャルは全身を満たす恐怖を押し殺し声を絞り出した。
「私はプサイ。貴女方の言葉を借りると悪魔と呼ばれる者です」
後ろの人物——プサイはシャルに自己紹介をした。
甲冑の男性はプサイから悪魔という単語が聞こえると睨んでいた目が更に険しいものとなった。
「っ……悪魔だ……と⁉」
甲冑の男性は敵意剥き出しの目で睨むが、プサイが振り向き甲冑の男性を見る目は哀れな者を見る目のままだった。
「中級騎士如きの貴方が私の話の邪魔しないで頂きたい」
プサイは甲冑の男性の頭を勢いよく踏み付けた。
踏み付けた頭はあまりの力で脳天が割れた。脳天から大量の血と脳天の中身が溢れ出した。
その光景にシャルは目を逸らした。
「これで邪魔者がいなくなりました。では話を続けましょう」
プサイはシャルと話をしようとするが今広がる凄惨な光景に目を向けられないまま怯えていた。
「この様子では話を聞ける状態ではないですね。申し訳ないですが——」
プサイは脳天を踏み割った甲冑の男性を片腕で担いだ。
小枝のように細い腕とは思えない腕力で軽々と甲冑の男性を担いだ。
プサイは担いだ腕とは逆の手をシャルに向けた。プサイの手に魔法陣が浮かび出す。
魔法陣が展開されるとシャルの意識が遠くなっていく。
「——眠って頂きます」
シャルはプサイの魔術によって意識を失い床に倒れた。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
二話連続投稿の二話目ですがいかがですか?
明日も投稿しますので次の読んで頂けると幸いです。