第三十九話(表裏)
指先に灯る光にシルフィーは意識を吸い込まれた。
シルフィーは目を開くとそこは先程までいた塔の中ではなく、ヒストリア王国を俯瞰で見る場所にいた。
俯瞰から見るヒストリアの国民は今まで王宮の圧政で貧困に苦しんでいた生活から解き放たれて幸せに暮らしている姿が見えた。
他の国の国民も笑みが零れて幸せそうに暮らしていた。
その世界に悪魔や魔王が存在しておらず勇者も存在していなかった。
そしてシルフィーの視界に映っていた世界はどんどん遠ざかっていく。
「⁉」
視界が元の塔の中に戻るとシルフィーははっとする。
「これで分かった?あの世界こそが私達の望む世界よ」
シルフィーに望む世界を見せたシャルは淡々と話した。
「私達は裏で悪魔と勇者を操って戦わせた奴らを倒した後、同じ轍を踏まないように悪魔と勇者の存在を消す。これが私達の望む世界よ」
シャルの言った言葉にシルフィーは驚きで目を大きく見開いた。
「驚くのも無理はないわね。なにせ私達悪魔だけではなく勇者まで滅ぼそうとしているのだから」
シャルはシルフィーが驚いた様子を見てどこか納得したような口調で言葉を紡ぐ。
「でも私達みたいな存在がいるから裏で暗躍する者も生まれる。だから私達悪魔側もあなた達勇者側の存在はなくなった方がいい」
続けざまにシャルが言葉を紡ぐとシルフィーは驚きながらシャルの言っている事も納得できた。
悪魔や勇者のような力のある者がいる限り今回の傍観者のような力ある者を利用する者も現れる。
力ある者がいる限りそれを利用する物が現れる連鎖は続く。
それならその負の連鎖をいち早く止める方法。勇者や悪魔のない世界に変える。
それが一番手っ取り早い解決方法だ。
その事をシルフィーは理解した。
理解はできるが、納得できない点もある。
「本当に敵がいなくなった後、あなた方悪魔は命を捨てる気でいるのですか?」
シルフィーは恐る恐る悪魔達に尋ねた。
「もちろんです。私達はそのために魔王様から命を授かったのです。それが私達の本懐です」
悪魔は嘘偽りのない真剣な声音で答えた。
その様子を見てシルフィーは本気で命がけで悪魔達が行動していると実感した。