第三十五話(表裏)
「それを話すにはまず魔王がまだ人間だった頃の出来事から説明する必要があるわ」
「構わない。俺はお前達の言ってる『より良い世界』を知りたい」
アンリが言葉を紡ぎ出すとノクトは真剣な眼差しで見る。
「魔王がまだ人間だった時、魔王は人々を救うために世界中を旅していた魔術師だった。その旅で魔王は流行病や貧困で苦しんでいた人々を救っていた。けれど尽きる事のない病気や貧困に苦しむ人々と王宮で裕福に暮らす人々の格差は広がる一方だった」
アンリは過去の魔王について話し出しとノクトは何も口を開かずに話を聞いた。
「だから魔王は新たなに世界をより良くするために法を見直して新たに誰もが平等に暮らすための法をつくった。最初の方は魔王の改定した法で貧困層の暮らしは良くなっていった。けれど魔王の改定した法を悪用する輩が出てきた。その法で人々から蜜を啜り国民を苦しめた。けれそ改定した法の穴を掻い潜り裁かれない人物がいたの」
「その人物はどうなったんだよ?」
「魔王が法の代わりに裁いたわ。けれど裁いたはずの魔王は今まで信じていた人々から侮蔑の視線を向けられた。そして法を掻い潜った者に嵌められた事に気付いた。そして魔王は国から追われる立場になった」
アンリは陰りの表情を浮かべてノクトに魔王の歴史を語る。
その間ノクトは陰りを見せたアンリの表情を見入った。
「その記述は聖典にない。それとは別に魔王が正解に仇なす存在として記述されていた。それが聖典の記述の虚偽に気付いた瞬間だった。今存在する聖典は正解をより良い世界へ導く書物ではない。私達魔王側と勇者側を戦わせるために誘い込む罠だったの」
アンリの言った言葉にノクトは眉をひそめた。
「それは俺も悪魔から聞いた。けどその悪魔達はジジイを殺した事には変わらない。そんな奴を信じろってのか?」
「ノクトの気持ちも分かるわ。けど私もシャルも魔王の考えに賛同した。魔王はこの聖典を書き換えて私達を戦わせようとした者達を倒し、聖典の原本を見つけて本当の世界を手に入れる。それが魔王が、私達が望む『より良い世界』よ」
アンリが説明し終えると、アンリの瞳に魔王の魔力が再び宿った。
「アンリの話を聞いて理解できたか?ノクト?」
「あぁ、だが今の話を聞いている限り、今回お前が倒した敵以外にもまだ他の敵もいるのか?」
「そうだ。今回我が倒した敵は一人だけではない。まだ聖典を書き換えた者達はいる」
語り手が魔王に変わるとノクトは眉をひそめたまま魔王が倒した敵以外にも敵がいる事を察した。
「お前の言いたいことは分かった。けどお前の言う『より良い世界』は俺にとって今のこのクソった麗奈正解とあまり変わらない。アンリやシャルを苦しめてまで手に入れたい世界なんて俺は望んでない」
ノクトは魔王に向けて自分が思っている考えをはっきり伝えた。
「それでいい。我の望みが成就できればお前に殺されても良い」
魔王の言葉は冗談ではなく本気で言っている事をノクトは察した。
お疲れ様です。
本日も読んで頂き誠にありがとうございます。
これからも投稿していきますので良ければ次話も読んで下さい。