第三十二話(表裏)
白装束の人物がシャルに向かって刺突する双剣の切っ先が貫く寸前、白装束の人物の動きが止まった。
「そこまでだ。傍観者」
傍観者の傍にはいつの間にか首元に矢イベが突きつけられていた。
傍観者の傍にいる人物は傍の床に倒れているシャルと全く同じ姿をしていた。
ノクトは目の前の光景に一瞬何のことか頭の中で理解が追い付かなかった。
そして理解できたノクトは視界に映る傍観者の首元に突きつけた剣を構えているシャルと瓜二つの少女を見た。
「……アンリ」
ノクトの視界に映るシャルと瓜二つの少女——アンリを見てノクトは目頭が熱くなった。
アンリが構えている剣を傍観者の首元を切り落とす方向へ振り切る寸前、傍観者の姿が消えた。
「なるほど。《時間停止》で攻撃を躱すのか。道理でノクトとシャルが防戦一方になっていたわけだ」
アンリはノクトとシャルを一瞥するとすでに遠くへ移動していた傍観者を見た。
「まさか魔王までここに現れるとは思いもよらなかったぞ」
傍観者はアンリを見ながらアンリの体に纏う異様な気配に気付く。
悪魔やノクトの体から溢れる魔力と同じ質なのだが、悪魔やノクトの魔力よりも禍々しく刺々しかった。
「よくぞ参られた。魔王」
傍観者はアンリとアンリの体にいる魔王を見ながらお辞儀をした。
傍観者の言葉にノクトはアンリに纏う魔力の異様でどこか親近感の沸く感覚に最初は感動していたがその感情はすぐに裏返った。
魔王に体を預けたアンリを見てノクトは絶望を感じた。
魔王は握っている聖剣を傍観者の方に向けると脳幹者は魔王を睨む。
「いくら魔王とはいえ、この私が巻けるとでも——」
傍観者が魔王達を見ながら言葉を発している途中で傍観者の右腕が切り落とされた。
「ッ⁉」
いつの間にか切り落とされた右腕に傍観者は奔る激痛と切り落とされた事象に頭が追い付かない感覚を覚えた。
「それなら我の攻撃から逃れてみせよ」
魔王はアンリの口から話すと傍観者は《時間停止》を使った。
周りの物体は何一つ動かなくなると傍観者の視界にアンリの姿が消えていた。
周りを見渡す¥してもアンリの姿が見当たらなくなると傍観者の左腕が床に転がった。
「ガッ⁉」
左腕が切り落とされると傍観者は激痛も相まって今の状況に理解ができなかった。
《時間停止》を使って傍観者を攻撃する物がいないはずなのにアンリの体を借りている魔王の姿がなく左腕まで切り落とされた。
その異常な状況に傍観者は驚きで顔を歪めた。
「これで分かったか?お前は我を舐め過ぎだ」
傍観者の背後からアンリの声が聞こえると両脚が切断された。
両脚が切断されると傍観者の胴体は床に転がった。
傍観者は激痛で歪んだ表情のまま後ろを振り返るとそこには聖剣を握って血を払っているアンリの姿があった。
「なぜ私の《時間停止》の領域内で動けている⁉」
傍観者の質問に魔王は平坦な言葉で答える。
「それはな、我もお前と同じく《時間停止》を使っているからだ」
魔王の言葉に傍観者はさらに表情を歪めた。
「これで終わりだ」
魔王は床に転がっている傍観者の胴体に聖剣を刺突した。
胴体を貫いた聖剣でできた傷口から血が広がっていくと先程まで動かなかった時間が動き出した。
時間が動き出すと周囲の物体は元通りに動き出す。
それと同時に傍観者の体から炎が覆った。
傍観者の体から噴き出す炎は切り落とされた腕と脚まで伸びる。
伸びた炎は切り落とされた四肢を引きずりながら胴体へ引っ張っていく。
「どうだ?お前がどれだけ切り刻もうがこの程度の傷で私は死ぬことはない」
傍観者は顔を歪めながらも魔王を見て不気味な笑みを浮かべた。
そんな傍観者に魔王は鼻で笑った。
「だったら試してみるか?」
魔王の言葉が言い放たれた直後傍観者を包む炎が黒く変色した。
否、傍観者の炎が黒い炎に呑み込まれ出した。
黒い炎に呑み込まれていくと傍観者の体は徐々に爛れ始めていく。
それと同時に傍観者の口から悲痛な悲鳴が放たれていきこの場にいる全員がその声を耳にした。
そしていつの間にか傍観者の声は聞こえなくなり黒い炎が消えると傍観者は灰も残さずに跡形もなく燃え尽きた。
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