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第二十話

 闘技場の中央は円柱状の空間が広がり天井が吹き抜けで日光が燦燦と差し込む。


 レイノスはノクトと闘技場の中央に着くとノクトとの距離を取った。そして腰に携えている聖剣を引き抜いた。


 レイノスが引き抜いた聖剣はエドワードが悪魔と戦った時の聖剣と違い、光が何一つ反射しない漆黒という言葉では物足りない程黒い剣だった。


「聖剣を抜け。その聖剣はかつて勇者が愛剣としていたとされる由緒正しい剣だ。それは剣が認めた者だけ引き抜く事を許される。それ以外の者が柄を握ろうとするだけで、聖剣自体がその者の命を奪おうとする」


 レイノスはノクトに渡した聖剣の詳細について話す。


「そんな危険な物を渡すなよ!」


 ノクトはレイノスが渡した聖剣に異議を唱えた。


「はぁ。お前は魔王の血族の前に勇者だろう。その勇者の紋章は飾りか?」


 レイノスはノクトの発言に呆れていた。

 ノクトが勇者であれば命を奪うような危険な聖剣でも引き抜けるはず。


 ノクトは聖剣の柄へ恐る恐る手を伸ばす。手が柄に触れてノクトはびくりとするが何も起こらない。確認した後ノクトは柄を握る。握っても何一つ変化がなかった。


 ノクトは安堵の息を漏らす。


「握れたぐらいで安心するな。握るくらいなら俺にもできた。鞘から引き抜く事もできる。その聖剣が厄介なのは勇者の紋章を持つ者でもその聖剣の聖剣術が使えるか分からない。その聖剣の聖剣術を使えないなら弟子入りはないな」


 レイノスの挑発じみた言葉にノクトは少し苛立ちを覚えた。


「聖剣を引き抜いて聖剣術を使えればいいんだろ!」


 ノクトは柄を握った聖剣を鞘から引き抜いた。

 ノクトが引き抜いた聖剣は白と黒の斑模様が印象的な刃をしていた。しかも白と黒の斑模様が命を持つかのように勝手に斑模様が動く。


「その聖剣は引き抜いた人によって刃の色や模様が異なる。それに聖剣術も変わる特殊な剣だ」


 レイノスはノクトが引き抜いた聖剣の特徴を伝える。


「で、聖剣術はどうすれば使えるんだ?聖剣を触った事もないから教えてくれよ」


 ノクトはレイノスに聖剣術の使い方を尋ねるとレイノスは深いため息を吐いた後口を開いた。


「聖剣術は聖剣に意識を集中させて聖剣の力を感じ、力の範囲をイメージすれば使える」


 ノクトはレイノスが言った聖剣術の使い方を聞いた後、聖剣に意識を集中した。意識を聖剣に集中していくと聖剣の力が徐々にノクトの手に伝わってきた。二つの相反する力が交じり合うことなく渦を巻いている感覚が手に伝わる。


 ノクトは相反する力を聖剣に纏うイメージを頭の中で想像した。


 聖剣を見ると白と黒の気が刃から噴き出しすごい勢いで渦巻きながら剣の周りに纏う。


「よし!」


 ノクトは想像通りに聖剣から出てくる気を操る事に成功して心の中で喜んだ。


「喜ぶのはまだ早い。聖剣術を使えても弟子入りさせる訳ではない」


 レイノスは聖剣術を使えて浮かれ気味のノクトに釘を打った。


 ノクトはその言葉を受けて自分の背を正し剣を構えた。


「どこからでもかかって来い」


 レイノスはノクトに戦闘開始の合図を告げた。


 ノクトはレイノスの周りの空間に集中した。

 レイノスの周りから風が収束しだす。それも両手の指で数えきれない程の風の収束点が展開された。


 魔王の力を解放される前より風の収束させる時間が格段に短縮され、威力も上がっている事をノクトは実感した。


 そして一瞬に近い時間で収束・圧縮した風の塊をレイノスに向けて射出した。

 風の塊がレイノスに当たる寸前レイノスが一瞬で姿を消した。


 風の塊は虚空を貫き地面を穿つ。穿たれた地面は風によって土の破片と土ぼこりを巻き起こす。以前より格段に威力が増した事は確認できたが的には命中しなかった。


 ノクトは消えたレイノスを目視で探すといつの間にかノクトの右側に立っていた。


「上級魔術師の試験で出される課題の風魔術か。それも掌からでなく的の周囲から魔術を起動させるとは、さすがエドワードから魔術を習っただけはある」


 レイノスは顔色一つ変えないままノクトに言った。


 ノクトは声が出ない程驚愕した。

 風の塊が完全に生成するまでの時間はごくわずか。しかも攻撃するタイミングを感付かれない程高速で攻撃したはずなのに躱された。しかも目で追えない程の動きで。


 ノクトは風魔術が命中しなかった事から意識をすぐ切り替え、レイノスを睨む。


「だが、対人戦は慣れていないようだな。次の動きの予兆までは気が回らなかったようだ」


 レイノスはノクトが気に留めていなかった癖を一目で見極めていた。


「次はこちらから行くぞ」


 レイノスがその言葉を発した直後、ノクトの視界からレイノスが消えた。そして次の瞬間ノクトの鳩尾に手に持つ聖剣の柄尻で突いた。


 ノクトは鳩尾に叩きこまれた柄尻の衝撃で苦悶の息を漏らした。

 レイノスはノクトに柄尻を突きつけて背中を丸め怯んだ後、すかさずノクトの顔に拳で殴りつける。


 殴られた勢いでノクトは吹き飛ばされる。地面に蹲るノクトの口に鉄の味が広がる。ノクトの口内が切れて血が口元から垂れる。


「なんだ?あれだけ息巻いておいてこの程度か」


 レイノスは表情を崩さずノクトを挑発した。

 ノクトはレイノスに悟られないよう地面に蹲ったまま魔術を起動した。


 レイノスの足元に魔法陣が瞬時に展開され、即座に魔法陣から劫火が噴き出し火の柱が立つ。しかしレイノスは魔法陣が展開された直後、魔法陣が展開された範囲を最小限の動きでで移動して魔術を躱した。


 また魔術を外したノクトは苦虫を噛み潰した表情をする。


 ノクトは体を起こして聖剣を構えた。

 聖剣に纏う白と黒の気をレイノスに向けて放つイメージを浮かべる。

 ノクトの聖剣に蓄えられる白と黒の気が濃なり渦巻く勢いが強くなる。


「はあぁ!」


 聖剣に蓄えられた気が一気に放出されレイノスに向かって猛進する。

 猛進する聖剣の気がレイノスに命中する瞬間、レイノスは躱した。


 躱された聖剣の気は猛進する速度を変えず闘技場の内壁に直撃する。

 内壁に直撃した直後、ものすごい爆風が巻き起こり、放った本人であるノクト諸共レイノスを吹き飛ばした。


 レイノスは爆風で吹き飛ばされた直後、地面に聖剣を突き立てて爆風から身を守りつつ体勢を立て直す。


 ノクトは聖剣の気が起こした爆風に吹き飛ばされ、聖剣の気が直撃した反対側の壁に叩きつけられる。


 壁に叩きつけられたノクトは激痛が奔ったと同時に歓喜に震えた。


 蓄えた気を放っただけでこの威力。この力があればレイノスに傷一つ付ける事は簡単だ。

 ノクトは叩きつけられた壁から離れ、再び聖剣に気を溜め始めた。


 聖剣に白と黒の気がすごい勢いで渦を巻きながら収束していく。先程放った聖剣の気より口径を小さく圧縮するイメージを浮かべた。


 聖剣が蓄えた白と黒の気がどんどん濃く鋭くなる。そして聖剣から蓄えた気をレイノスに向けて放った。


 放たれた気は前回放たれた気より圧縮され高速で猛進する。


 ノクトが聖剣の気を溜めている間レイノスは躱す動作をせず手に持つ聖剣を構えた。ノクトが放った聖剣の気がレイノスに命中する瞬間、レイノスは構えた聖剣で一閃する。

猛進する聖剣の気がレイノスの聖剣の一閃により跡形もなく霧散する。


「この程度か?」


 レイノスはノクトが放った聖剣の気など気にも留めず言う。


 ノクトは唇を噛んだ。ノクトは空に複数ン魔法陣を展開させる。そして魔法陣からレイノスに向かって霊撃が一斉に放たれる。


 雷撃の雨をレイノスは足捌きで躱し、躱し切れない雷撃は聖剣の剣戟により防ぐ。

 ノクトの雷魔術が一撃も命中しないまま魔法陣が消えた。


「魔術の起動速度、魔法陣の展開速度、魔力変換効率、どれも一流だが、魔術師同士の戦いでは決定的な欠点がある。何だと思う?」


 レイノスはノクトに問題を出した。

 ノクトはレイノスの問題を考えた。

 しかしノクトは問題の答えが浮かばなかった。


「答えはお前が高等魔術を起動する時、魔法陣が目視できる事だ。それと俺に一番最初に攻撃した時も視線が一瞬俺ではなく俺の周りを見た事もだ——」


レイノスはノクトの魔術の欠点を告げる、


「——一流の魔術師同士の戦いでは相手が展開した魔法陣を見れば魔術の種類、威力、範囲が露呈してしまう。だから一流の魔術師同士の戦いでは不可視の魔法陣を展開して魔術を発動させるのが定石セオリーだ」


 レイノスはノクトの魔術の欠点、可視状態の魔法陣と魔術を予兆させる仕草について語る。


「こんな感じでな」


 レイノスが言葉を紡ぎ終わった瞬間、ノクトの足元から劫火の火柱が噴き出した。


「うぐっ!」


 先程ノクトがレイノスに攻撃して躱された炎魔術をレイノスが同じ威力、同じ範囲で発動した。

 ノクトはレイノスの魔術が直撃した直後、すかさず炎魔術を停止させる停止魔術を起動し鎮火した。


 短時間とはいえ炎魔術が直撃したため、ノクトは全身に火傷を負ってしまた。

 火傷の痛みに悶えるノクトはレイノスを睨んだ。


 悶える暇も与えずレイノスは空から複数の雷撃がノクトに襲い掛かる。これもノクトが起動した雷魔術の数、威力、範囲で攻撃する。


 ノクトはレイノスの攻撃に痛みを我慢して体を起こし、聖剣の纏う気を壁のように広げて雷撃の盾にした。聖剣の気が雷撃を弾き返すが、聖剣の気の壁の外側に雷撃の一つ回り込みノクトの右肩をかすめた。

 雷撃がかすめた右肩は痺れて感覚を失った。雷撃の雨が降り止むとレイノスは口を開いた。


「これが一流の魔術師同士の戦い方だ。今のお前では俺の足元にも及ばない」

「……俺は…あんたに……傷一つ与えて…弟子入り…するんだっ!」


 ノクトは息も絶え絶えの状態でレイノスに自分の意志を伝える。


「逆に聞くが、何を目指して俺に弟子入りする?エドワードを追い越したとして、その後何をする?」


 レイノスはノクトに弟子入りの目的を聞いた。

 ノクトはエドワードを超える魔術師になる。それはエドワードが生きていた時に言っていた事だ。当時は深い事を考えず、ただエドワードに認められたいだけだった。


「ただ強くなるだけなら俺じゃなくても他を当たる手もある。痛い目に遭ってもなお俺に弟子入りを申し込んだ真意は何だ?」


 レイノスはノクトの真意を尋ねる。


「ジジイを殺した悪魔達は、ジジイとサシでやり合うほど強かった。今の俺よりも——」


 ノクトは今の自分の力量と悪魔達の力量の差を目の当たりにしている。エドワードでさえ悪魔一体倒すのに手間取った相手だ。それも複数いる。


「——だから俺が強くなって、シャルを見つける。そんでもってジジイの敵を討ってアンリを助ける。そのために俺は早く強くなって悪魔達を倒すためにジジイと肩を並べるほど強いあんたに戦い方を学ぶ必要がある」


 ノクトが紡いだ言葉には執念に近い思いがはらんでいた。


「それが言葉だけではない事を証明できるのか?このままだと俺が一方的にお前を痛めつけるだけだぞ」


 レイノスはノクトの真意を聞いて更にノクトに問いかける。


「言葉だけじゃないって証明してやる!」


 ノクトは全身の痛みを振り払うように大声でレイノスの問いに答える。


 ノクトは聖剣に意識を集中する。白と黒の気が渦を巻きながら聖剣に纏う。聖剣から気を放出した時とは違い、蓄えている白と黒の気が刃に収束していく。

 聖剣の気が刃に収束した後、ノクトはレイノスに斬りかかる。


剣術を嗜んでいないノクトの攻撃はたとえ聖剣の攻撃といえどレイノスにとって恐れるものではない。


 レイノスはノクトの聖剣の一撃を自身の聖剣で受け止める。

 鍔迫り合いになるとノクトは聖剣に纏わせた白と黒の気の流れを強くする。受け止めていたレイノスはノクトの聖剣の気に徐々に押し負けていく。


 ノクトは更に地面に魔法陣を展開した。レイノスが躱すことのできない程広い範囲——闘技場全域に広がった炎魔術の魔法陣が展開された。


「自分諸共攻撃する気か⁉」


 レイノスが魔術を停止させようとすれば聖剣の攻撃に押し負ける。聖剣の攻撃を払う事に注視すれば魔術を停止する前に魔術が起動する。

 ノクトの自爆覚悟の攻撃にレイノスは一瞬恐怖を覚えた。


「舐めるな!」


 レイノスはノクトと鍔迫り合いになっている聖剣から力を解放した。レイノスの聖剣から衝撃波が噴き出しノクトは勢いよく吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされたノクトは壁に再び叩きつけられる。自身の聖剣の気で起きた爆風の時とは違い、ノクトは壁にたたっきつけられた部分が凹む程の勢いで吹き飛ばされた。


 ノクトを吹き飛ばしたレイノスはノクトが地面に展開した魔術が起動する寸前、停止魔術を即座に起動した。

 地面に展開した魔法陣がレイノスが立っているところからどんどん破壊されていく。ノクトの展開した炎魔術の魔法陣から火が吹き出ないまま魔法陣が粉々に破壊された。


ノクトの魔術を無効化したレイノスは壁に叩きつけられたノクトに歩みを進めた。

ノクトは壁に叩きつけられ激痛が全身に走っているにも関わらず口角を上げた。その時レイノスの後ろから風が吹く音が聞こえた。


 レイノスはノクトの狙いに気付き、その場から離れるために地面を蹴った。

 レイノスが地面を蹴ると同時に風の塊がレイノスに向かい射出される。


 レイノスは咄嗟に聖剣で風の塊を切り裂き霧散させる。聖剣で捌き切れない風の塊は体を捻じりぎりぎりで躱す。風の塊はレイノスの紺色の髪をかすめるもレイノスには当たらなかった。


 躱した風の塊は空しく地面を穿つ。


 ノクトの最後の攻撃はレイノスの剣捌きと体捌きにより風の塊を全て躱しきった。

 ノクトは全身に走る鈍痛のあまり意識を失った。


 レイノスは風の塊がかすめた髪を触ると髪を触った手に赤黒い液体が付着していた。レイノスの耳の端から血が垂れていた。ノクトの風魔術をわずかに躱せず耳の端が切れていた。


 ノクトの聖剣の剣劇と広範囲の魔術の魔法陣の展開が風魔術を発動するまでの時間稼ぎで発動させた風魔術も確実に傷一つ与えるために狙ったのならば、ノクトが仕掛けた一連の流れに感服する。


 掠り傷だが傷を負ったレイノスはノクトを見た。


「やってくれたな」


 レイノスはノクトとの戦いの中で初めて微笑んだ。


お疲れ様です。

tawashiと申す者です。

二話連続投稿の二話目です。

いつもより長くなってしまいましたがいかがでしたか?

明日も投稿しますので読んで頂けると幸いです。

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