第十九話(表裏)
王都へ帰省したノクト達は王宮に戻っていた。
「無事に戻ってくれて嬉しいです。ノクト」
玉座に座っているシルフィーは目の前に立っているノクト達を見た。
「それより伝えなければいけない事がある」
ノクトは懐から神々しさの中に不気味な輝きを纏う手鏡を取り出した。
シルフィーはノクトが取り出した手鏡を見て目を大きく見開いた。
「その鏡は!」
「実は——」
ノクトは精神世界の中で起きた事、目を覚ますとシャルが勇者の紋章を複写した《写し鏡》をいつの間にか手元にあった事を説明した。
ノクトの話を聞いたシルフィーは最初驚いていたが、話を聞いていくうちに冷静さを取り戻していった。
「なるほど。ではその手鏡は悪魔とは違う敵がノクトに渡したという事ですか」
「そうだ。それにこの鏡は複写した紋章を他の勇者に転写する事もできる」
ノクトはラザフォードを一瞥してからシルフィーに《写し鏡》の力を説明した。
説明した直後、ノクトは急に背筋に凍てつく悪寒と心臓を突き刺すような痛みが奔った。
『その通りだ。勇者達よ』
ノクトの口からノクトの声とは違う音域の声が出された。
ノクト自身、自分の意志とは違う声が出た事に驚愕した。
「一体何者だ!」
シルフィーはノクトの口から聞こえたノクトではない者に緊迫した声音で尋ねた。
『お前達勇者の敵であり世界の平和を願うもの、と言えば分かるだろう?』
ノクトの体を借りて言葉にする者は目の前のシルフィーの問いに答えるとシルフィーは驚嘆した。
「まさか……!魔王!」
シルフィーは目の前にいるノクトの体を借りて言葉を発する魔王は握っている《写し鏡》を一瞥した。
『その通りだ。我がお前達勇者と話しているのには一つ理由がある』
魔王はシルフィーと後ろにいるラザフォードを一瞥すると《写し鏡》をノクトの右手の紋章を映す。
右手の紋章を映した《写し鏡》は右手かの紋章から奔流する光を吸収した。
吸収した光は瞬く間に鏡面に吸い取られて左手の紋章が刻まれた。
『その《写し鏡》は勇者の紋章のような強大な術式でも複写できる法具であり他の勇者に別の勇者の紋章を転写する事もできる代物だ』
魔王はノクトの体を使い玉座に座るシルフィーに《写し鏡》を投げた。
シルフィーは魔王が投げた《写し鏡》を掴むと左手に鏡面から溢れ出した光が流れ込んだ。
流れ込む光が出尽くすと左手に吸い込まれる光の奔流はシルフィーの左手に勇者の紋章を刻んだ。
『これを渡すかわりに、我の頼みを聞いてもらいたい』
「頼み?」
魔王の言葉にシルフィーは眉をひそめて言葉を返した。
『これで勇者全員がそれぞれ持つ紋章を自分の力にできる。その対価として我の眷属の力になってほしい』
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