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第十八話

「少しは落ち着いたようだな」


 ノクトがエドワードの手紙を読み終えてしばらく経ち、レイノスはノクトに声をかけた。


 目元は赤く腫れていて鼻から鼻水が垂れていたがノクトは大粒の涙が止まり落ち着いていた。


 ノクトは流れた涙を拭き鼻水を啜る。


「手紙ありがとう」


 ノクトはエドワードが書いた手紙を渡したレイノスにお礼を言う。


「吉報だ。お前の家の跡に遺体が発見されなかった」

「それって!」

「あぁ、そうだ」


 シャルは無事だった。


 ノクトはその事実を知り安心して脱力した。


「だがエドワードと暮らしていた少女の身元はつかめないままだ」

「そうか」


 ノクトは少し落ち込んだ様子で呟いた。

「あんたに聞きたい事があるんだが」

「何だ?」


「手紙の中にも書いてあったんだが、そもそも聖典って何なんだ?」

 ノクトは聖母教が崇拝している聖典についてレイノスに質問した。


「聖典というのは聖母教が設立する前から存在していたとされるこの世界の行く末が記された神々の書とされる物だ」


 レイノスは聖典についてノクトに説明する。


「手紙にも書かれてるんだけど、聖典の内容が間違ってる可能性があるってのはどういうことだ?」


 ノクトはレイノスへ更に質問する。


「そのままの意味だ」

「だからどうしてその可能性があるってわかるんだよ?」


 レイノスの返答の意味が分からずノクトは訊き返した。


「聖典が聖母教が設立する前から存在していた事はさっき伝えたな。聖母教が設立した同時期に聖典を崇拝する他の宗教がいくつか生まれた。今その他宗教が崇拝する聖典の内容に聖母教が崇拝する聖典の内容の一部が記されていない箇所が複数あった」


「それって…」

「元々同じ聖典を崇拝しているにも関わらず宗教によって書かれている内容に穴があるのは人為的な可能性がある」


 一つの知識がいくつもの人々に伝わるも、時が過ぎて伝わった知識に差が出る事は珍しい事ではない。状況や環境によってその知識の最適解が変わるからだ。


 しかしその知識が絶対不変の内容であれば話は別だ。


 絶対不変の内容が変わるのは時が経つにつれ内容の一部が伝わらず消えていく可能性もあるが人が作為的に書き換えた、もしくは隠ぺいした可能性も考えられる。


「それに気付いた俺とエドワードは聖母教の崇拝する聖典が元々の聖典の内容と一致しているか疑問を感じた。だからあいつは国の騎士の最高位を退いて密かに聖典の不備や虚偽について調べていた」


「それで結果は」

「俺に報告が届いた時点では不明のままだった」


 レイノスは表情一つ変えずノクトに話した。


「もしかしたらあいつの家に聖典についての書類があったかもしれないが、家自体が火事で跡形もない」


 レイノスも聖典について何も手掛かりのないまま足止めを喰らっていたらしい。


「どうしてあんたは聖典について調べないんだ?」

「この国の騎士である限り聖典に疑いを持って聖典を調べると聖典から裁きが下る。だからエドワードはこの国の騎士を退いた」


「その聖典からの裁きって?」

「俺も詳しくは知らないが今まで経験のした事のない地獄を味わうことになるらしい」


 ノクトはそれを知って合点がいった。エドワードは聖典の裁きを受けないために国の騎士を退いたというのも納得がいく。


「俺は国の内情についてあいつに内密に伝え、あいつが聖典について調べながらお前達子どもを国の利己的な事情から守っていた」


 レイノスはエドワードと組んでいた事をノクトは理解した。そして新たに疑問が浮かんだ。


「あんたはジジイとどんな関係なんだ?」


 ノクトはレイノスにエドワードとの関係を尋ねた。


「俺とエドワードは騎士見習いの頃からの腐れ縁だ」

「腐れ縁?」

「あぁ。あいつはいつも俺の一歩先を進んでいた。聖剣術、魔術、神聖術、すべてにおいて騎士見習いの頃から天才と呼ばれていた」


 レイノスの語る様子が高等法院にいた時より柔らかく過去を懐かしんでいた。


「そんなあいつに一泡吹かせたい一心で努力した。そのおかげであいつと肩を並べる聖騎士になった」

「ジジイと……」


 ノクトは小声で呟いた。


「だからってあいつの野郎、見習いの頃から俺に実力を抜かれそうになると自分の雑務を俺に擦り付けて俺の修業の邪魔をしてきてくるクソ野郎だった」


 レイノスは苦々し表情で語り出した。


 なんだか今までノクトにしてきたレイノスの印象とは全然違いノクトは少し戸惑った。


「そしてあいつが生前、俺に頭を下げて頼んだ事がある」

「頼んだ事?」


 レイノスは高等法院の時のような冷徹な表情になる。


「あいつが死んだ後、あいつが育てた子ども達を弟子にしてほしいと頼まれた」

「ジジイが⁉」


 ノクトはその事実に驚いた。


「だが俺は自分が見込んだ奴しか弟子に取る気はない」


 レイノスは確固たる意志が籠った言葉を紡ぐ。


「だから弟子入りしたいならお前の意志を行動で示せ」


お疲れ様です。

tawashiと申す者です。

今回も読んでくださり誠にありがとうございます。

今度も定期的に投稿しますので良ければ次話も読んでください。

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