第十七話
「なんで俺を助けた?」
ノクトは首の鎖を引っ張るレイノスに質問した。
「高等法院の場でも言っただろう。聖典の教えでは勇者を殺してはならない。そう書かれている」
レイノスは相変わらず表情一つ変えず答える。
「それに国の最高権力者達は聖典の教えにご執心だ。聖典の教えに誤りがあっても聖典の教えが真実と思い込んでいる」
螺旋階段を下りているとレイノスは話し出した。
「どういうことだよ?」
ノクトはレイノスの言葉に疑問を覚え質問した。
「例えばの話だ。それだけ聖母教徒にとって聖典の教えは絶対って事だ。今度から気を付けろ」
レイノスはノクトの質問に答えたが、ノクトはレイノスが何かうやむやにしたように感じる。
「おそらくお前は数日後釈放される。ただしこれからは魔王を滅ぼす勇者として、その命が尽きるまで国の命令を聞かないといけなくなるだろう」
「それって予見の前と変わらないんじゃ」
「これからは国から絶対に命を狙われないと約束されてもか?」
ノクトの疑問にレイノスは答えた。
確かにエドワードのいない今ノクトが魔王の血族である以上命は狙われる。しかし勇者の紋章がある以上聖母教徒の人間から命を狙われる事は絶対ない。
螺旋階段をしばらく下ると先程の地下牢に着いた。
レイノスはノクトを先程まで入っていた独房に収監した。
独房に鍵をかけたレイノスは独房の格子越しに封筒を投げた。
「これは?」
「エドワードがもし俺とお前と会ったら渡すようにと言った手紙だ」
ノクトはレイノスが投げた手紙を拾う。
白い封筒にはエドワードの書いた字でノクトと記されていた。
ノクトは封筒を開けて中に入っていた数枚の手紙を広げ読み始めた。
“ノクトへ
この手紙を読んでいるという事は無事レイノスと会っているのだろう。
そして俺がこの世にいないのだろうな。
赤ん坊のノクトを拾ってから十年以上も一緒に暮らして秘密にしていたことがある。
ノクト。お前は聖典に記されている魔王の末裔だ。
そういえばお前には聖典を読ませたことなかったんだった。その内容は自分で確認しろよ。
ようはお前の存在はこの世にあっちゃいけないと記されている。
だけどな。俺はこの聖典に不備のある可能性があるんじゃないかと思っている。
その事についてはこの手紙を渡したレイノスに聞く方が早い。
だから魔王の血族だからというだけでお前を殺していいとは思えなかった俺は国と交渉して魔王を討つために育てるから処刑する猶予を貰えることになった。
その猶予を使って聖典の不備について調べたがこの手紙を書いている時点ではその証拠を掴むまでいかなかった。
だけどレイノスにノクトを生かすためだったら俺の名前をどんな事に使っても助けるよう頼んだ。渋々だがレイノスもこの頼みを聞いてくれた。
俺がノクトにしてやれた事が魔術を教える事と俺の手伝いで魔法薬を調合する手伝いをさせる事しかなかった。
こんなどうしようもない養父の俺ですまなかった。
もっと普通の親が教えてやれる事を俺は教えられたかわからないが、ノクト、アンリ、シャル、お前達と暮らした時間は失敗だらけだった俺にとって自慢できる時間だった。
ノクト。これからお前には理不尽な出来事が襲い掛かると思う。だがお前の目標に向かってひたむきに努力できる才能はこれから自分を見失う事なく人のために力を使うことができると信じている。
失敗だらけの人生を歩んだ俺が伝えられる言葉は多くない。
だから今まで伝えられなかった言葉をこの手紙で伝える事にした。
こんな俺と一緒にいてくれてありがとう。
エドワード“
手紙を読んだノクトは手紙を持ったまま下を向いた。
ノクトはエドワードに拾われてからの十四年間の事を思い返した。
アンリやシャルと一緒に家事を手伝っている時も。
エドワードの魔法薬の調合を手伝っていた時も。
魔術を教えてもらっていた時も。
四人全員でテーブルを囲んでご飯を食べながら喋っていた時も。
どれも幸せだった。
エドワードはノクトにとって憧れの存在で目標だった。
その憧れの存在の思いが綴られた手紙を読んだノクトは大粒の涙を流した。
自分が愛されて育てられた事。
最後まで自分を心配していた事。
そして死んでもなお自分の事を信じてくれている事。
その事に胸がいっぱいになるノクト。
ノクトはそれからしばらく涙が止まらなかった。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
三話連続投稿の三話目でしたがどうでしたか?
明日からも投稿していきますので続けて読んで頂けると幸いです。