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第十六話

「うっ……」


 ノクトは意識を取り戻すとそこは石造りの独房だった。


 体を動かそうとするも体が自由に動かない。


 ノクトは自分の体を見ると両手には異様に太い手枷で繋がれている。両足にも鎖と足枷が繋がれていた。


 どうにか上半身を起こしたノクトはなぜこの状況になったのか思い返す。

「たしか俺は……」


 そこからノクトは今までの事を思い出す


 盗賊にアンリを攫われエドワードと共にアンリを探した。


 アンリと共に盗賊連中を見つけたノクトは盗賊を一網打尽にした。


 そこに悪魔が現れノクトが魔王の子孫である事、アンリがかつて魔王を討った英傑の転生者である事を告げた。


 エドワードがノクト達のところへ来てノクト達を助けたが他の悪魔達の手でエドワードは殺されアンリは連れ去られた。


 ノクトは家に戻ると家は火事で跡形もなくなっていた。


 そんな時紺色の男性が現れてから後の記憶がなかった。


 起こった事を思い返していると、独房の外から誰かの足音がした。


 足音の方向を見ると紺色の外套に紺色の髪と瞳に精悍な顔立ちの壮年の男性。

 間違えない。ノクトが記憶の中で一番最近会った人物だ。


「ここはどこだ?」

 ノクトは紺色の男性に質問した。


「王宮の地下牢だ」

 紺色の男性は端的に答えた。


「王宮?」

「そうだ。お前にはこれから王と元老院の面々が集まる高等法院に来てもらう」


 紺色の男性はノクトに今後の予定を話すと独房の鍵を開けた。

 紺色の男性はノクトに近づくとノクトの首に鈍色の首輪をはめて鎖を通した。


「何するんだよ」

 ノクトは首輪と鎖を付ける紺色の男性を睨みつけた。


「高等法院に向かう途中逃げられても困るからな。予防の一環として付けさせた」

「よく言うぜ」


 ノクトに元々付けられている手枷や足枷は普通の金属でできていない。拘束した者の魔術を封じる術式が書き込まれている魔力絶縁体の金属でできた特注品である事は一目でわかった。


「では行くぞ」


 紺色の男性は首輪の鎖を引っ張る。ノクトは成す術もなく紺色の男性が引っ張る方向へついていく。


 地下牢の階段を上るとそこには石造りの螺旋階段が更に立ちはだかる。


「高等法院はこの上だ」


 紺色の男性に引き連れられるノクトは紺色の男性と共に螺旋階段を上る。


 上っていくも一向に景色が変わらず、どこまで上ったのか分からない。

 小一時間階段を上ったのだろうか。


「高等法院はまだなのか?」

ノクトは一向に目的地に着かない事を紺色の男性に質問した。


「もう少しだ。高等法院に着く前に言っておくが、これから会う人達は国の最高権力者達だ。一つでも無礼があればその場でお前の命はなくなる。ほんの少しでも長く生きたいなら無礼な真似をしない事だ」

「どうせ死ぬのは決まっているんだ。それが少し早かろうが遅かろうが変わりなんてない」


 紺色の男性が言った注意をノクトは皮肉で返す。


 螺旋階段を上っていくと階段の上から光が差し込んでいく。

「高等法院へ着くぞ」


 紺色の男性が言うと目の前にとても広大な空間が広がった。


 円柱状に開いた空間が広がる大理石の造りでその周りの壁には席が広がる。


 席は階層ごとに分かれていて全部で五階層。


 一番上の五階層には今まで見た事のない荘厳で高価な椅子——玉座がある。


 玉座に座っているのは煌びやかな王冠を被り、指には豪華な宝石が散りばめられた指輪をしている。顎に蓄えている白髭はその者の威厳を表している。


 玉座に座る国の最高権力者の頂点——王はノクトを見下ろしている。


 ノクトは目の前にある壇上に引っ張られた。


「レイノス。ご苦労だった」


 王は紺色の男性レイノスに労いの言葉をかけた。


 レイノスは深々と腰を下げて頭を垂れる。


「もったいなきお言葉です。レイモンド王」


 レイノスはレイモンド王の言葉に感謝の意を込めて返事をする。


 レイモンド王の右横にいる法衣を着た男がこちらを見下ろした。


「それではこれから魔王討伐会議並びに先刻王宮予見者が予見した魔王の末裔の身柄の処分について会議を始める」


 法衣を着た男が会議の開始を告げると他の階層にいる元老院が声を発した。


「そこにいる魔王の末裔は三日前悪魔達の手によって力の封印が解かれました。本来の予定よりはるかに早い解除は国にとって危機でしかありません。叛旗を翻す前に一刻も早く処刑するのが良いかと」


「しかし、それでは勇者全員が揃っていない現状で魔王を滅ばすための力が足りなくなる。そこはどうする気だ」


「勇者の紋章を持つ者は現時点で三人いる。その中でも一人で紋章を二つ持つ者もいます。完全に復活していない今なら魔王を滅ぼす事は可能だろう」


「それで魔王が滅ぼせるという確証はあるのか?英傑の転生者は悪魔達の手に渡ってしまった。これでは明らかに戦力不足だ」


「それでは他国から魔王を討伐するための兵を徴収して魔王の完全復活の前に手を打つというのはどうであろうか」


「それでは他国に借りを作ってしまう。それでは魔王討伐が成功しても我が国の損失は大きいものとなる」


「世界が滅ぶのと少しの不利益、どちらを取るかなど自明なはずだ」


 元老院の面々はノクトなど眼中に入れず魔王討伐の論議を進める。


 話を聞く限りイプシロンが言っていた真実は本当のようだった。


 ノクトはこんな形で真実を確認するとは思わなかった。


「それにしてもエドワードも厄介な事を残して死んでいきましたね」


 ノクトは元老院の言葉に耳をそばだてた。


「本当です。勝手に魔王の末裔を匿い、魔王を討つためと宣って半ば強引に処刑の猶予を与え、剰え魔王の末裔に魔術を教授するとは私も最初は耳を疑いました」


「魔王の末裔に封印を施したからと普通の民衆と同じ生活をさせ、国に隠して英傑の転生者と共に暮らしていたなんてあの男は何を考えていたのか」


「あの者は国の存亡など考えていないのです。だから騎士の最高位である聖騎士をすぐ退き王宮を去るような暴挙ができたのです」


「せめて魔王の末裔の力を再封印してから死んでくれれば良かったものを」


 元老院の面々は元の論議から外れてエドワードの失態の話を広げた。


「……黙れ」

「何?」


 元老院の面々は高等法院の中央にいる人物へ一斉に視線を向けた。


「黙れつってんだよ!さっきから人を平然と道具みたいに話してるけどあんたらは何様だ!」


 ノクトは先程から繰り広げられる元老院の会話に虫唾が奔った。


 ノクトが元老院の論議を遮った瞬間後ろから頭を掴まれ大理石の床に叩きつけられた。

 床に叩きつけられた衝撃で額から出血する。


 ノクトの頭を床に叩きつけたのはレイノスだった。いつの間にか後ろに回り込まれ床に叩きつけられていた。


「国の最高執行官の面々に無礼は許さん」


 ノクトは床に叩きつけられた後元老院の面々を見る。


 元老院の面々はまるで汚物を見るかのようにノクトに侮蔑の視線を向ける。


「魔王の末裔如きが我らに反論する気か?貴様などこの世にいるだけで世界を脅かす悪でしかないのだ。復活する魔王と相討ちになる道を用意した我らに感謝するのが道理だというのに」


 ノクトに向けた元老院の言葉には侮蔑と呆れをはらんでいた。


「レイモンド王。彼奴を我らへの侮辱罪として今すぐ処刑する事を申請します」


 元老院の一人はレイモンド王にノクトの処刑を申請する。

 元老院の言葉にレイモンド王は頷いた。


「良かろう。魔王の末裔は我らの侮辱罪により極刑に処す」


 レイモンド王は死刑を宣告した。その目はノクトへの侮蔑に満ちていた。


「最後だったら聞きたい事がある。悪魔が言っていたことだが聖典の不備や虚偽ってのはあんたらは知ってたのか?」


 ノクトはイプシロンから聞いた世界の歴史が書かれている聖典に記されていない不備についてこの場にいる人間に尋ねた。


「何かと思えばとんだ世迷言を。我らが信仰する聖母教の聖典に不備や虚偽などありはしない」


「処刑の時間を稼ぐにももっと良い嘘を吐けないものか」


「悪魔の甘言に惑わされるとはさすが魔王の血族だ」


 この場にいる元老院の面々はイプシロンが言っていた聖典の不備について何一つ知らない。それどころかノクトの言った事に鼻で笑っている。


「話を戻そう。魔王の血族は根絶やす事こそが聖典が示す平和へのお導き。それすらも侮辱する彼奴は生かす意味など存在しない」


「レイノス。彼奴を早く処刑しろ」


 頭を押さえつけていたレイノスの手が離れるとレイノスは魔法陣をノクトの周りに展開した。


 魔法陣が描かれるとノクトの体が床に吸い付かれるように体の自由が利かなくなる。


 レイノスは腰に携えていた剣を鞘から抜き出した。


 そしてレイノスは剣を逆手に持ちノクトの顔を見た後ノクトにめがけ振り下ろす。


 レイノスの剣は大理石の床に突き刺さりノクトの左手の手枷を破壊した。


「血迷ったのかレイノス。我らは彼奴を処刑しろと言ったはずだが」


 元老院はレイノスを睨む。


「確かにこいつは魔王の血族で聖典の通りであればこいつを殺す事が平和に繋がると説かれています。しかし——」


 レイノスは魔術で体一つ動けないノクトの左手を掴み強引に引っ張る。


 そしてノクトが痛みに苦悶の表情を見せることなど気にせずノクトの左手の甲をレイモンド王の方向に向けた。


「——こいつの左手の甲を見てください。世界を平和に導く勇者の紋章があります」


 ノクトの左手の甲には魔法陣に似た円形の中に幾何学的な文様が刻まれている。


 アンリの胸元に刻まれているものと同じ文様自体に神秘的な力を感じる。


 レイノスの言った事にこの場にいた全員——ノクトやレイモンド王、元老院の面々は驚愕を隠せなかった。


 驚愕のあまり高等法院の中はざわつき出した。


「それにこいつの右目をご覧ください」


 レイノスはノクトの髪を掴み強引に引き上げる。


 ノクトの痛みなどお構いなしでノクトの顔をレイモンド王に向ける。


「目を開けろ。魔術は解いてやるから右目をレイモンド王に見せるんだ」


 レイノスはノクトの周りに展開した魔法陣を解除した。

 ノクトを床に押さえつけていた力がなくなり体が楽になる。


 ノクトは目を開いてレイモンド王を見た。

 レイモンド王はノクトの右目を見て更に驚愕する。


 ノクトの右目にも左手の甲と同じ文様が刻まれていた。


「右目にも勇者の紋章が⁉」


「なんということだ!魔王の血族が勇者の紋章を持つなど前代未聞だ!」


「しかも勇者の紋章を二つ持つ者などこれで三人目だ!」


 元老院達も驚きを隠せなかった。


「聖母教徒が平和を導く勇者を殺すなどあってはならない。これも聖典の教えですが、どうなさいますか?レイモンド王」


 レイノスはノクトの髪を掴んだままレイモンド王に尋ねた。


 レイモンド王は目が泳ぎ、動揺を隠せなかった。


 元老院の面々がレイモンド王に視線を向けノクトの判決を待つ。


「この者の……罪は……不問に期す」


 レイモンド王は渋々言葉を紡いだ。


 周りの元老院もレイモンド王の言葉に異議を唱えなかった。


「それでは私はこいつを地下牢に戻しますのでお先に失礼します」


 レイノスはノクトの髪を放し再び首の鎖を掴んだ。


 髪を放されて自由になったノクトをレイノスは鎖を引っ張り螺旋階段へ向かう。


 お疲れ様です。

 tawashiと申す者です。

 三話連続投稿の二話目です。

 良ければ三話目も読んで頂けると嬉しいです。

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