第十七話
「大丈夫ですか⁉」
悪魔が姿を消してから数分が経過してホホはラザフォードに心配の声をかけた。
「あぁ、一応無事だが……」
ラザフォードの言うようにラザフォードの体は無傷だった。それゆえに腑に落ちなかった。
今までの悪魔であれば自分達の目的を邪魔する勇者であるラザフォードが身動きの取れなかった隙に一斉に攻撃して殺す事など容易いはずだ。
それをせずにシャルの持っていた手鏡によって何かをされた。その何かについては詳細な情報がない。しかし直感的にラザフォードはかなり危険な状況にいた事だけは把握した。
「これは由々しき事態だ。早く国へ伝えなければ」
悪魔達の狙いまでは分からないがラザフォードの左目の紋章に用があったのは戦いの中で理解できた。シャルの手鏡で溢れた光の束も手鏡の中へ吸い取られた光景を見てもそれは自明だ。
ラザフォードは指笛で周囲の鳥を呼び寄せると一枚の紙を懐から取り出した。紙の中心にラザフォードは戦いの最中にできた傷口から血を触り血判を押した。
すると血判の中央から左目と同じ複雑な文様が浮かび上がった。
ラザフォードは血判が押された紙を呼び寄せた鳥の足元に括り付けた。足元に紙を括り付けた鳥にラザフォードが言語化できない呪いを口にすると紙を括り付けた鳥は空へ羽ばたいていった。
「何をしたんですか?」
「王都に今の状況を伝えるための伝書だ。敵の狙いはわからんが、勇者の紋章を狙っていた。そうなれば、残りの三人も狙われる」
ホホの質問にラザフォードは答えると王都へ飛んでいった鳥を見送った。
「俺達はすぐにノクトに聖剣を届けよう。王都にいる勇者も手紙が届けば十分警戒するはずだ」
「分かりました。はやく聖剣を届けないと、先生は悪魔を討つ手段がないですからね」
「そうだ。もっともノクトは聖剣がなくても悪魔だけなら魔術で相手できる。問題なのは」
「悪魔側にいる人間の女性ですよね?」
ラザフォードが言わんとしていた事をホホが先に口にするとラザフォードは真剣な眼差しをホホに向けた。
「あぁ。ただでさえノクトとその女は旧知の仲だ。油断した隙を狙われればノクトは一瞬でやられてしまう」
ラザフォードもノクトの実を案じているようで、特に旧知の仲であるシャルとの再会で大きな隙を与えてしまうのではと考えてしまっている。
「だがノクトもあれから成長したはずだ。すぐに隙を作るようなことはないだろう。けれど念には念を入れてだ」
そう言うとラザフォードは再び指を咥えて指笛を拭いて鳥を呼び寄せた。呼び寄せた鳥の脚に血判を押した紙を括り付けて呪いをかけて空へ飛ばした。
「これでノクトにも情報が届く。届くまでに狙われていない事を願いたいが」
ラザフォードの願いは空しく、ノクトに伝書が届くころにはノクトはすでにシャルの襲撃を受けていた。
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