第十五話
雨雲が晴れた頃ノクトはようやく動き出した。
ノクトは力なく倒れこんでいるエドワードを見た。
ノクトはエドワードを連れて戻ることをせず、そのまま歩き出した。
魔術で移動すれば容易いのだが放心状態のノクトはその事を考えられなかった。
頭の中は何もできなかった自分の非力さ、最後エドワードにひどい事を言ったまま今生の別れになった事だけが頭を駆け巡っていた。
ノクトは林の中をひたすら歩いていく。見える景色は大木のみで一向に変わり映えしない。
しかしノクトは景色が変わっているかいないかなど気に留めなかった。ただこの林を抜けようとしている。
ノクトのわずかに働く思考回路がこのまま林の中にいては危険と言っていた。
変わり映えしなかったしなかった景色が一転、いつの間にか林を抜けて平原に出た。
ノクトは目の前の景色が変わった事に林を抜けてしばらくのところで気付いた。
そして周りを見ると夜の帳に包まれていた。目の前には王都郊外の民家の明かりが漏れていて地上の星空のように輝いている。
その輝きの中で一際強い橙色の輝きを放つ星が見えた。
ノクトはその星に吸い寄せられるように歩き出す。
どれだけ歩いたのかわからないが橙色の星を追って歩いたノクトの目の前にあったのは一件の民家が火事で燃えている惨状だった。その現場は隣人が人を呼んで鎮火を試みたが、どれだけ鎮火しても消えることがなく一晩中燃え続けた。
その民家はノクトが一番見覚えのある民家だ。
ここでエドワード、アンリとシャルと暮らしていた。そしてシャルとみんなの帰りを約束したノクト達の家だ。
ノクトにはこの火事を起こした人物に心当たりがあった。
ノクトは地面に膝を付いた。
その瞬間ノクトの胸中はどろどろとしたどす黒い何かが渦巻きだした。
シャルとの約束を守れなかった。
アンリを助けられなかった。
エドワードにひどいことを言ったままエドワードはこの世を去った。
何一つ守れなかった。何一つ助けられなかった。
ノクトに残ったものは自分の非力さとこの原因を引き起こした悪魔達、国の権限を持つ人間達への憎悪だった。
ノクトは後悔と憎悪で心中が満たされて右目から血の涙を流していることに気付かなかった。
家の家事が鎮火したのは日が昇る頃だった。
家の中の配置は意外にも形が残っていたが壁や柱、家具などは家事の影響で黒々とした隅になっていた。
家事の鎮火に協力していた隣人がノクトに声をかけた。
「ノクトの坊主は無事だったようだな。良かった」
ノクトに隣人の声は聞こえていなかった。全てを失ったノクトには何も響かなかった。
「あと、ノクトに面会したいと言っている奴がいるから連れてくるぞ」
隣人はそう言うとノクトの前にある人物を連れてきた。
紺色の外套を羽織っている壮年の男性。髪の色も外套と同じ紺色、瞳の色も紺色。顔つきは非常に精悍だった。
「あとはお二人でゆっくり話をしてくれ」
隣人は紺色の男性にノクトを合わせた後自分の家に戻った。
「おい、お前エドワードはどこにいる?」
後悔と憎悪に頭の中がいっぱいだったノクトは紺色の男性の声は届かなかった。
「…しかたない」
紺色の男性は右手をノクトの頭の前にかざした。右手の掌から赤い魔法陣が浮かび出た。
読心魔術でノクトの記憶を読んだ。
紺色の男性がノクトの記憶を読むと昨日からの出来事を読み取った。
「そういうことか」
紺色の男性はノクトが今の状況になるまでの一部始終を知った。
「これは国の命令だ。悪く思うな」
紺色の男性はノクトの頭の前にかざした掌から新たに魔法陣が浮かんだ。
その瞬間ノクトの意識を失い地面に倒れた。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んで頂き誠ありがとうございます。
本日三話連続投稿します。
良ければ次話も読んでください。