第一話(裏)
『ご苦労だった。シャルロット』
「大したことはしてないわ」
漆黒に染まる壁の隅々に夜空に浮かぶ星のように埋め込まれた魔力を纏う魔石が妖しく輝く部屋の中でシャルは目の前にいる魔力だけの存在の魔王からのねぎらいの言葉を受けていた。
シャルは手に《写し鏡》を持ちながん労いの言葉をかけた魔王に対してそっけない返事を返した。
「それに労いの言葉ならミューの方にかけて。全身ボロボロになるまでノクトに遊撃していたのだから」
シャルはあくまでノクトに始終遊撃をかけて注意を引いていた事を魔王に伝えた。
魔王はシャルの言葉を聞くと何も言わずに人型の魔力の体の頭を小さく頷いた。
『それは知っている。シャルと話す前に意識の中で感謝は伝えてある。それに《写し鏡》を手にできるのはシャルロットだけだ。そして検証をしたのもシャルロットだ、十分に労って差し支えない仕事だ』
魔力の体ではどういった表情で伝えているのか分からないが、頭の中に語り掛ける魔王の声は穏やかな声音だった、
シャルはあまりしっくりとしないような表情を浮かべていた。
『何か気に入らない事があったか』
「……そんなことはないわ」
魔王の質問に明らかに何かを気にしている様子のシャルは若干苛立っているように見えた。
『今何を考えているのか言い当ててやろう。ノクトの事であろう』
「…………」
図星のようだった。
シャルはノクトの話題を上げた魔王の言葉に眉をひそめた。
『今回の作戦はシャルロットが率先して行動せざるを得ない。今のように精神を波立たせると失敗に繋がってしまう』
「分かってるわ」
『我に注意されている時点でシャルロットは理解できていないという事は分かっているのか?』
魔王の忠告にシャルロットは苦汁を舐めた表情を浮かべる。
『今回の作戦で我の完全復活がかかっている。ここまで尽力してくれたシャルロットのためにも失敗はできないのだ。その事を念頭に行動してほしい』
「……分かった。これから気を付けるわ」
そう言うとシャルは魔王のいる部屋から出て行った。
シャルと入れ替わりで魔王のいる部屋に入ってきた悪魔——ミューは魔王の傍に着くとすぐに跪いた。
「今回の作戦、私の力不足で完遂できず申し訳ございません。魔王様」
『気にせずとも好い。《写し鏡》が正常に起動できると分かっただけでも収穫だ』
ミューが深々と跪きながら謝罪を口にすると魔王は気にしていないような様子で穏やかな声でミューに声をかけた。
『それより最初にノクトを狙ったのはシャルロットの意向か?』
「はい。その通りでございます」
魔王の質問に粛々と答えるミューは依然と丁寧な言葉遣いで話す。
「シャルロット曰く最後にノクト様と顔を合わせるのが嫌なそうです」
『それもそうだろうな』
ミューの答えに魔王は納得したような言い方で言葉にした。
『ミューよ、これからもシャルロットと共に作戦を完遂できるように支援をしてくれ』
魔王の指示にミューは頭を下げた状態で返事を返す。
「御意のままに」
そういったミューは羽織っている外套の黒い炎が全身を包み姿を消した。
お疲れ様です。
本日も読んで頂き誠にありがとうございます。
これからも洋行していきますので良ければ次話も読んで下さい。