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第十四話

 エドワードはイプシロンを倒した事を確認するとノクトに歩み寄る。


「ノクト。無事か?」


「なんとか無事だ」


 エドワードとイプシロンの戦いの間ノクトは眠っているアンリと木の陰に隠れていたため無傷だった。


「それよりジジイに聞きたいことが山ほどある」


 ノクトが聞きたい事——イプシロンが話したノクトの正体、魔王の存在、エドワードが今までノクトを育ててきた目的、それ以外にもノクトが聞きたい事は両手で数えきれない。


「それは国の機密で言えない」


 ノクトはエドワードの返答に苛立ちを覚えた。


「機密機密って、そんなに俺に言いたくないことがあるのかよ!あの悪魔が言ってた事。俺が魔王の子孫で近い未来、人間達に仇名す予見を見たからジジイが俺を殺す事も隠すのか!」


 ノクトの言った事にエドワードは眉をピクリとさせる。


「ジジイはいつもそうだ!大事な事は俺に教えないでジジイ一人で解決しちまう!ジジイはそれが正しいと思ってるみたいだが、それは俺にとってはジジイの自己満足の何物でもないんだよ!俺がいつそれを望んだ⁉あぁっ‼」


 ノクトはエドワードに抱いていた不満を激昂しながら吐き出した。


「俺が魔王の子孫である事は今の俺が一番理解できる!普通の人間が絶対に得られない魔力を底なしで蓄えているこの状況は普通じゃない!それを知っててジジイは魔王と相討ちになるための道具として育てた事も分かったんだよ!」


 ノクトはエドワードに理解できた状況に対しての怒りをぶつけた。


「落ち着けノクト」


エドワードはノクトを落ち着かせるために手を伸ばす。


「本当の親でもないくせに何様だよ!今まで魔王と一緒に死ぬために育てていないなら悪魔がいた時点で否定したはずだ!そんな事のために育てたジジイは俺にとって悪魔以上の外道だ!」


 エドワードの差し伸べた手を払って感情的になって言った事にノクトは我に返った。


 いくら自分が凄惨な目的のために育てられたからってエドワードに当たるのは八つ当たりでしかない。


 ノクトは我に返った後自分が言った事を後悔した。


 エドワードは何一つ言い返さなかった。


 それはノクトの言った事が本当の事で否定できないことを意味する。


 エドワードも分かっていた。


 身寄りのない子どもを魔王と相討ちになるために育てている自分はこの上ない外道である事。それを国の命令と言って何一つ異議を唱えない自分はノクトの言う通りだ。


 ノクトとエドワードは無言のまま時が経つ。


 この沈黙を破るように黒い影がノクトとエドワードの前に突然現れた。


 黒い影の周りから黒い衝撃波が発生しノクトとエドワードは吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされたノクトとエドワードは木々に叩きつけられた。


「誰だ⁉」


 エドワードは自分達を吹き飛ばした張本人に問いかけた。


 黒い影はイプシロンと同じ炎とも煙とも受け取れる動きをする黒い外套を羽織っている。しかしイプシロンと違い、赤子のように身長が異常に低い。顔はイプシロンと似た人間と異なる異形の顔だがイプシロンより寡黙な雰囲気を感じる。


「イプシロンから聞いていなかったのか?」


 イプシロンの甲高い声とは違いものすごい重低音の声で黒い影は話した。


「我はシグマ。これ以上は語る必要はあるまい」


 黒い影——シグマは最低限の会話をする。


 シグマは掌から魔法陣を浮かべると灰化して散っているイプシロンの体に魔法陣が展開する。

展開した魔法陣はイプシロンの灰化した体をを吸引していく。


 吸引された灰は跡形も消えて見る影もない。


「イプシロンを灰化させるとは。流石他国にまでその名を轟かせた騎士なだけある」


 シグマはイプシロンの灰化した体を吸引し終えた魔法陣を消しながらエドワードの腕に称賛する。


「しかしイプシロンとの戦いで相当疲弊している様子。これでは自分を守ることだけで精一杯だろう」


 シグマの言う通りエドワードはイプシロンとの戦いで顔に疲労の色が見える。更にシグマが発生させた黒い衝撃波が原因かエドワードは右肩を抑えている。


 抑えている左手には右肩から噴き出ている血で赤黒く染まっている。


 一方ノクトは叩きつけられた衝撃で体中がきしみ動けなくなる。


「手荒にしてすまぬ。ノクト様」


 シグマは眠っているアンリに手を向ける。するとアンリが眠っている地面が漆黒の沼に変わる。


 アンリは漆黒の沼に沈んでいく。


「アンリに何するんだ!」


ノクトはシグマに怒鳴りかける。


「すまぬが今のノクト様には言えぬ。時が来たら伝えよう」


 シグマは申し訳なさそうな声音でノクトに伝える。


 アンリは漆黒の沼に沈み切り姿が見えなくなると漆黒の沼が消えていく。


 吹き飛ばされたエドワードは左手で聖剣を持ち、シグマの元へ一気に間合いを詰める。


 そしてシグマを聖剣で一閃する直前——遥か遠くから光の槍が飛んできてエドワードの背中を貫いた。


 エドワードは光の槍が貫いた瞬間、口から大量の血を吐き出し力なく地面に倒れた。


「ジジイ‼」


 ノクトは体中の激痛に逆らい体を動かそうとする。しかし動かそうとするも体は少しずつにか動かせられない。


「随分と遅かったなタウ」


 シグマは光の槍が飛んできた方向を向いて見えない相手に話す。


「いいじゃなか。その男の息の根を止められたんだから」


 シグマが向く方向から不気味な音色の声が聞こえる。


「それよりシグマ。目標は回収できたの?」


「問題ない。黒の沼に保管した」


「では今回の目的は達成したから退散しましょ」


 タウと呼ばれる声の主の気配が消えるとシグの足元に漆黒の沼が現れシグマは漆黒の沼に沈んでいく。


「ではノクト様。またの再会の日まで暫しの別れだ」


「待ちやがれ‼」


 シグマはノクトに別れを言うとノクトは体中の痛みに逆らいシグマに飛び掛かった。


 しかし一歩遅かった。


 シグマは漆黒の沼に潜り切り姿を消した。そして漆黒の沼は跡形もなく消えた。


 ノクトは先程まであった漆黒の沼があった場所に膝を付いた。


 そして目の前にいる血まみれのエドワードの顔にノクトは手で触れた。


 手には今までにない不気味に冷えていく体温と吐血した血の滑りだった。


 その時ノクトは実感してしまった。


 エドワードが二度と戻らぬ人になってしまった事。


 実感してから自分がエドワードといた日常を思い出す。


 ノクトはその思い出を思い返しながら空を見た。


 空はいつの間にか黒い曇天になっていた。


 そして地面に水滴が落ちた。ひとつ、またひとつと落ちていき徐々に強く大きい水滴が更に落ちていく。


 雨雲に変わりすごい勢いで雨が降ってきた。


 雨雲を見るノクトの顔に当たった雨水は頬を伝い大粒の雫となり零れ地面に垂れていく。


 その雫は雨水にしては温かった。


お疲れ様です。

tawashiと申す者です。

連続投稿の二話目を読んで頂き誠にありがとうございます。

明日も投稿しますので気が向いたら読んでください。

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