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第十三話

「アンリが?」


 ノクトはイプシロンの話に半信半疑だった。


 先程まで状況証拠だけは十分だったイプシロンの話が急に絵空事のように根拠のない話だからだ。


 それにイプシロンが話した歴史が本当だとしてもアンリが英傑の転生者である証拠がない。


「証拠はあるのか?そもそもてめえが話している歴史だって本当って証拠もない。アンリが英傑の転生者であるのも証拠はない」


 ノクトはイプシロンを睨み問いかける。


「証拠ならありますよ」


 イプシロンはそう言うとノクトの後ろに寝転ぶアンリの腕をつかみ宙吊りにする。


 そして男がナイフで割いた服の胸元を広げる。


 その行動に激昂しかけるノクトだがアンリの異変に気付いた。


 アンリの胸元に魔法陣のような円形の中に幾何学的な文様が描かれていた。


「これは神秘の力に愛された勇者の紋章です。しかも胸に紋章があるのは後にも先にも英傑のみでした。これが証拠です」


 魔術を嗜んでいるノクトには分かった。この文様はノクトにも解読できない程高度な魔法陣であること。この魔法陣自体にも神秘的な力が宿っていることが分かった。


 ノクトはイプシロンが言った事が真実である事を理解した。


「分かってくれて嬉しいです。では次の話ですが——」


 イプシロンが話を続けようとした瞬間、胴体に銀色の刃物が貫いた。


 イプシロンは煙のように霧散して消えた。


 イプシロンが消えて宙吊りになっていたアンリは地面に落ちそうになる。


しかし誰かが受け止めた。アンリ達の養父——エドワードが助けに来た。


「ジジイ…」


 ノクトは全身が脱力した。


「ノクト。遅くなってすまない。大丈夫だったか?」


 ノクトを心配するエドワードはノクトの様子を見て一足遅かったことを知る。


 人間離れの魔力に先程までの怪我が嘘のように塞がった回復力。


 完全に封印が解けてしまった。


 エドワードが唇を噛んだ。


「一足遅かったですね」


「悪魔めっ…」


 聖剣で胴体を貫かれ消えたはずのイプシロンがいつの間にか林の木の上に立っていた。


 エドワードはイプシロンを忌々しげに睨みつける。


「ノクト様の封印は解きました。ついでに今後封印できないよう細工もしたので力の再封印は不可能です」


 イプシロンは高揚した声音でエドワードにノクトの封印について話す。


「それに国が民衆に隠していた聖典の不備についても話しました。ノクト様は無宗派でしたのであまり理解できていませんでしたが、その少女が魔王様を討った女の転生者であることは伝えました」


 エドワードの表情が更に険しくなる。


「アンリの正体を知っていたのか」


「当たり前でしょう。私は情報収集が趣味なんです。それも魔王様を討った忌々しい女の転生者となれば尚更です」


 エドワードの表情が険しくなるたびにイプシロンの歪んだ口角が異常な程上がっていく。


 そしてイプシロンは掌から魔法陣を浮かべ光の剣を生成する。


「今度は手加減しません。ここで死んでください」


 木々の枝が揺れる音がすると、ノクト達の周りの木々に複数のイプシロンが立っていた。


 全部で七体。


「それが貴様の正体か。体をいくつも分裂することができる。しかも一つ一つが実体を持ち魔術も使用できる。悪魔らしい忌々しい力だ」


 聖剣を構え直すエドワードは聖剣に意識を集中させる。


「言ってなさい。勇者ではない貴方が勇者の聖剣を十分に扱えると思いません。そのまま私に串刺しにされるのを黙って待っていなさい」


 するとイプシロン七体が一斉にエドワードに襲い掛かった。


 エドワードはイプシロン七体に囲まれないように高速で移動する。


 近接でエドワードに光の剣で斬りかかるイプシロンに中距離から光の球体を操り攻撃するイプシロン、遠距離から光の槍を高速で射出するイプシロンがエドワードに攻撃を仕掛ける。


 近接して剣戟を繰り広げるイプシロンは一体。

 中距離で光の球体を操るイプシロンは二体。

 遠距離から光の槍を射出して攻撃するイプシロンが四体。


 イプシロンの攻撃は熟練の騎士でも不可能な程統制が取れていた。


 常人なら近距離で鍔迫り合いになっている味方と敵に躊躇なく中遠距離から攻撃など普通はしない。

 

 連携ができていても万が一攻撃が当たるかもしれず危険だからだ。


 しかしイプシロンは個々の攻撃を互いが完全に把握しているかのように近距離で剣戟を繰り広げていても中距離、遠距離の攻撃を近距離の自分に当てずエドワードを狙って攻撃している。


 完全な連携といえるイプシロンの攻撃を聖剣の剣捌きと魔術による防御、神聖術による怪我の回復によって互角に戦っている。


 しかしイプシロンに対して決定的な攻撃を与えられず防戦一方になっている。


 さすがのエドワードでも七体もの手練れともなると不利のようだ。


「どうしました?先程の威勢が嘘みたいに防戦一方ですね。そろそろ楽にしてあげますよ」


 イプシロン七体はエドワードを囲んだ。


 そしてそれぞれ掌から魔法陣を浮かべ光の槍を生成する。


 囲まれたエドワードは聖剣に意識をさらに集中させる。


 エドワードが持つ聖剣に纏う聖なる気配がどんどん強くなっていく。


「何をしようともう遅いです!」


 イプシロン七体はエドワードに向けて光の槍を射出した。


 光の槍はあまりに速く魔術を起動する余裕はなかった。


 エドワードの体に光の槍が突き刺さる——


 その直前聖剣からものすごい衝撃波が放たれ光の槍を打ち落とし、イプシロン達の体に触れた瞬間、イプシロンの体が灰のように変わりどんどん崩れていく。


「まさかっ!聖剣術‼勇者の聖剣を使いこなせるはずがっ!」


 イプシロン全員が灰のように変わり崩れていき地面に散った。


「誰が勇者の聖剣を使いこなせないと決めたんだ。悪魔が」


 エドワードは体中が灰に変わっていくイプシロンに侮蔑交じりに言った。そして一番近くにいたイプシロンに近づき、砕け散っていくイプシロンの体に追い打ちで聖剣を突き立てる。


 イプシロンは聖剣が突き刺さった瞬間急激に体が灰化し跡形もなく地面に散った。


 エドワードは聖剣に着いた灰を振り払い聖剣の切っ先を天に向けた。


 聖剣の切っ先から聖なる気配が収束していく。収束していく聖なる気配は可視できる程圧縮される。


 圧縮された聖なる気配は複数の鏃に形状変化する。


 そして残り六体のイプシロンに向かって射出される。鏃状の聖なる気配はイプシロンの体に突き刺さり急速にイプシロンの体を灰化させる。


「してやられました。まさか勇者の聖剣の聖剣術を使えるとは予想外でした」


 灰化していくイプシロンは悔しさを感じさせる声音でエドワードに言った。


 エドワードは天に掲げた切っ先を地面に突き刺した。


 イプシロンとの戦闘でかなり消耗しているのだろう。肩で息をしていた。


「でも私が言った事をゆめゆめ忘れないでください。私が一人でここに来ると思いますか?」


 イプシロンは完全に灰化する前にエドワードに言い捨てた。


お疲れ様です。

tawashiと申す者です。

今回も読んで頂き誠にありがとうございます。

本日は二話連続投稿しますので続けて読んで頂けると幸いです。

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