第四十三話(裏)
「どうやらそっちの騒動は終わったようね?」
シャルがネイラルグの記憶を改竄していると後ろから声が聞こえた。
「ミラーさんも話が終わったみたいですね?」
シャルは地面に横になっているネイラルグの記憶を改竄している最中で後ろにいるミラーに話しかけた。
「えぇ。込み入った話は終わったわ。それもこれもあんたのおかげよ。シャルロット」
いつもシャルに対してお礼の言葉を言わない強気な言葉を口にするミラーはここまで素直に吐露した。
「ここまで来られたのもシャルロットがいなかったらよ。私一人では絶対にここまでたどり着かなかった」
「急にお礼を言うのはミラーさんらしくないですね?」
「そうね——」
後ろでお礼を告げたミラーにシャルは違和感を覚えた。
いつもの強気なやり取りとも感謝する思いもミラーの言葉に籠っている。けれどそれ以外の何か違和感も感じ取れた。
「——私は幼い頃に次の《写し鏡》の依り代になるため、ミラー・ガブリエルの名を賜った。その後は学園に入り込むために偽名を使った。私が生まれてきた時の名付けられた名前を知ってる人は私しかいない」
今の状況に関係のない話をし始めたミラーはシャルに話し出した。
「本当にどうしたのですか?」
「これで最後だから、あんたに親に名付けられた本当の名前を教えるわ——」
いつもしない会話をしてくるミラーの雰囲気がいつもと違う事にシャルは後ろにいるミラーの方に振り返る寸前、シャルの背中に鈍い感触が奔った。
「——私の名前はレイラ。レイラ・オルコット。私の本当の名前を知ったからにはあんたとはお別れよ。シャルロット」
背後に感じる鈍い感触と痛みにシャルはそのまま地面に倒れた。
「……どうして……こんな……」
シャルは地面に倒れると後ろにいるミラー、いやレイラに視線を向けた。
シャルの背中には赤黒いナイフが刺されていた。
「あんたはもう用済みよ。さようなら。シャルロット」
背中に刺されたナイフの感触と鈍い痛みすら感じなくなったシャルはすぐにナイフの刃に麻痺毒が塗られている事を察した。
「教授も言ってたけど、あんたは詰めが甘い。簡単に私を信用したから、私に後ろから刺されるのよ」
わずかに視界に映るレイラはひどく冷たい表情を浮かべていた。
レイラが決別の言葉を告げた後シャルの甘さを口にするとシャルの傍からレイラは離れていった。
シャルの視界に映るレイラの手には赤い魔石が装飾された手鏡を手にしていた。
「《写し鏡》も手に入れた。私の知りたかった真実も知れた。だからあんたとはこれで本当のお別れよ——」
レイラが手元からナイフを抜いて明後日の方に投擲した。
投擲されたナイフの先には何者かの影がいた。投擲されたナイフに影は最低限の動きで躱してナイフの柄を掴み受け止めた。
「——やっぱり本物はそこに隠れてたのね。本当に敵に回したくはなかった」
ナイフと受け止めた影がレイラの方へ歩き出すとナイフに刺されて地面に倒れたシャルの姿が霞のように消えていった。
「私もあなたが敵に回るのは本意ではないです」
影が姿を現すとその姿を現したシャルが手に一本の紺碧の細剣を握っていた。
「なぜ私を殺そうとしたのですか?ミラーさん、いやレイラさん?」
「そんなのあんたが一番理解してると思ってたわ。私達はこの《写し鏡》を探していた協力者。それを手にした今、あんたと共に行動する意味はなくなった。これからあんたとは《写し鏡》を奪い合う敵になる。だから私は邪魔者のあんたを殺してでもあんたを退ける」
レイラの言葉にシャルは依然と淡々とした表情を浮かべたままだった。
「やっぱり、最期の敵はレイラさんになるのですね?」
「そうよ。あんたの取る洗濯は、私を殺して《写し鏡》を手に入れるか、私に殺される負け犬になるのか。どちらかしかないわ」
レイラも冷たい表情を崩さずにシャルへ話した。
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