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第十二話

  ノクトがアンリを背負い浮遊魔術で移動してからしばらく経つ。


 もうすぐで林を抜けるだろう。


 ノクトは先程から全速力で移動していた事と林の中で暴風を起こす程の風の魔術の使用など複数の魔術を多用した事で魔力が尽きかけていた。


 ノクトは魔力を練り直すため木々で隠れられる場所を探した。


 ちょうど身を隠せる空が開いた木を見つけたノクトは背負っていたアンリを下ろして空の奥に隠した。


 ノクトは呼吸を整え魔力を練り直す。


 尽きかけていた魔力が体中に溜まる感覚を覚える。


 ここまでくればエドワードと戦っているイプシロンはすぐに追って来れるわけがない。


 ノクトは先程まで昂っていた精神を落ち着けて魔力を練りやすく心を静める。


 瞑想して魔力を練り直したノクトは体中の魔力が半分以上溜まった感覚を覚えた。


 またアンリを背負って浮遊魔術を起動した瞬間。


 ノクトの目の前に黒の外套を羽織っている長身痩躯の悪魔——イプシロンが現れた。


「探しましたよ。ノクト様」


「うわあああぁぁぁぁーーーー!」


 ノクトは驚愕の悲鳴を上げて尻もちをついてしまった。


「そんなに驚かれると少し傷つきます。けれど、あの男からノクト様を離しました。これで——」


 ノクトは恐怖で動けなくなってしまった。


「——あの男が施した封印が解けます」


 イプシロンが両手をノクトの前に広げると紫色の魔法陣がイプシロンの掌の前から浮かび上がる。


 魔法陣から漏れ出た光の粒子が収束していく。


 光の粒子が収束して大きな光の塊となる。光の塊は更に収束して大きな鍵の形状になる。


 光の鍵が生成されるとイプシロンは光の鍵をノクトの胸に差し込んだ。


 その時ノクトは自身の体の底から何か外れる感覚を覚えた。


 そしてイプシロンは差し込んだ光の鍵を捻った。


 その瞬間、ノクトの体から幾重もの魔法陣が溢れ出す。その魔法陣全てがノクトの体から溢れ出ては自壊していく。


 魔法陣が噴き出している間、ノクトは今までに感じた事のない魔力の奔流にまるで体中が焼かれるような激痛が奔った。


 激痛が奔っている間、無尽蔵の魔力が奔流していき体中から魔法陣が溢れ出して自壊する流れが続いた。

 


 そして体中から溢れる魔法陣が徐々に減っていく。それに比例して体中を蝕んでいた激痛は治まっていく。


 最後の魔法陣が体から溢れ出て自壊した——その瞬間ノクトの体中に奔流していた魔力が嘘のように凪いだ。


 先程まで半分程度溜まっていた魔力が塵と感じる程大量で高濃度の魔力が体中に満ちている。


「どうやら封印解除は成功したようですね」


 イプシロンがそう言うとノクトに深々と頭を垂れる。


「ノクト様。あの男に封印されていた本当の力を解放しました。お気持ちはどうですか?」


 魔力どころか今までの疲労が嘘のように消えていた。


 林に入ってからアンリを探していた時にできた傷も綺麗に塞がっていた。


「落ち着いたようですし私の話を聞いてください。ノクト様」


 今までと違い真剣な声音に変わったイプシロンはノクトの目を見て話す。


「人間共は自己の幸福のために争い続けた過去がありました——」


 イプシロンは一般的に知られる世界の歴史を語りだした。



 人間は魔術や神聖術など存在しない時代から争ってきました。その目的は自身の幸福を欲し、他者の幸福を奪い続けました。


 その果てしなく続いた争いを止めるため神々が神秘の力を人々に授けました。


 それが魔術と神聖術。


 人々が争うことなく自分の力で幸福を分かち合う事を願った神々はその力を人々に授けます。


 しかし人間はその力を幸福を分かち合うためではなく人から幸福を奪うために神秘の力を利用しました。


 人々の争いは苛烈を極めた時、疲弊した人々は国と法を作り集団で生きていくことを覚えます。


 そして人々の幸福が守られました。



 数千年前から伝わる聖典にはそう綴られているらしい。


 ノクトは無宗派のため詳しい聖典の内容は知らないが一般的に広がっている内容だ。


「——この聖典の内容には不備と虚偽があります。この国と法を造った一人に魔王様がいました。そして法の穴を潜り悪行の限りを尽くした人間がいました。魔王様は法で裁けない人間を討ちました。しかし悪行に手を染めた人間は法に触れたわけではなかった。逆に悪行を起こした人間を討つために法に触れた魔王様は世界から忌み嫌われました」


 イプシロンは滔々と語る。その声音には悲哀に満ちていた。


「そして魔王様は法の力では救えない人達も救うために力を得ていきました。その力を恐れた国々は魔王様を討つことこそが真の幸福を得る神の啓示と宣い、特に神々の力の強い人間を勇者と崇め魔王様を討つために戦わせました」


 イプシロンの語り口調が変わる。


「勇者の中でも特に力を持つ女性が刺し違える形で魔王様を討ちました。そして魔王様は真の世界の幸福のため討たれる寸前に復活の儀を施しました。それと同じ時に魔王様と刺し違えた女性も転生の儀を施しました。そして——」


 イプシロンはノクトの後ろに寝ているアンリを指さした。


「——その少女が魔王様を討った人間達が崇高する英傑の転生者です」


 お疲れ様です。

 tawashiと申す者です。

 今回も読んで頂き誠にありがとうございます。

 明日も投稿遭いますので読んで頂けると幸いです。

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