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第十話

 ノクトは咄嗟に目を開いた。


 目の前には血まみれの大男と血の海の床がある。


 大男の頭の中を見たノクトは大男の頭の中にいた向かいの人物がいるはずのないこちらに笑いかけた事に身の危険を感じ頭の中を見るのをやめた。


「何だったんだ……今のは」


 ノクトが発動した大男の頭の中にある特定の記憶を見る読心魔術は術者が術に掛けた対象の記憶を見ているため記憶の中に映っている人達がこちらの気配を感じる事は絶対にありえない。


 絶対にありえない事が起きた事にノクトはあまりの驚愕で声が出ない。


 大男の向かいにいた人物も大男の記憶が曖昧だった場合、顔のピントがぼやけることもあるが記憶を見ているノクトに笑いかけた瞬間にピントが合うなんてあまりにも都合が良過ぎる。


「おい!クソ野郎!酒場にいた依頼人てのは誰なんだ⁉本当に人間か⁉」


 大男の胸ぐらをつかみすごい剣幕で問いかけるが、出血多量のためか虫の息だった大男も徐々に意識が薄れていっている。目が虚ろになっていた。


 虚ろになった目が閉じようとした瞬間、急に目の奥から驚きと恐怖が噴き出した。


「お呼びですか?」


 ノクトの後ろから人間とは思えない甲高い声が聞こえる。


 ノクトは後ろを振り向くとそこには見覚えのある姿が立っていた。


 炎とも煙とも受け取れる動きを見せる黒い外套を羽織る人物は人間とは似ても似つかない異形の顔をしていた。


 よりはっきりした情報として、こちらも人間とは思えないあまりにも細い四肢は枯れ枝のよう。その割に肩幅があり身長も高い。


 全身黒服を着たその人物は先程まで大男の記憶で見ていた向かいの人物そのものだった。


 ノクトは気配なく後ろに立たれた事に驚愕した。


 先程まで空間把握魔術を展開していた。大男の記憶を覗くため空間把握魔術に魔力分配を少なくしていたが空間把握魔術は展開中だった。


 どんなに音を殺そうと、姿を見えなくしようと存在していれば把握できるはずなのにノクトの目に映る人物は空間把握魔術を掻い潜って立っている。


 それだけで只者でないと嫌でも分かる。


「ノクト様」


 目の前の人物に呼ばれたノクトは底知れない相手の雰囲気に恐怖で声どころか動く事もできなかった。


「この日を待ち望んでいました。漸くお会いすることができました」


 目の前の人物は地に膝を付いてノクトに深々と頭を垂れる。


 それは主君にかしずく従者のようだ。


「てっ……てめえ…は誰…だ?」


 ノクトは固まったからだから絞り出したような声で目の前の人物に問いかけた。


「私はイプシロンと申します。魔王様の配下で、人間の言葉を借りますと悪魔と呼ばれる存在です」


 丁寧に説明はしているがノクトには理解ができなかった。


「魔王………悪魔…………なんだそれ………………?」


 今までに聞いたことのない単語と底が知れない目の前の人物——イプシロンへの恐怖で冷静に思考が働かない。


「やはりノクト様には伝わっていませんでしたね」


 イプシロンは苦笑をしている声音でノクトに話しかける。


 その時周りにいる血まみれの男達が微妙に動いた事にイプシロンが気付く。


「まだ生きているとは。ノクト様は私の正体を聞くために正確に急所を外して攻撃をしましたね。流石です。しかし——」


 イプシロンは右手を天に掲げた。その瞬間空に魔法陣が四個浮かび上がり、魔法陣の中心から光の槍が生成される。


 光の槍が生成されるとすさまじい勢いで地に降り落ちる。


 降り落ちた光の槍は血まみれの男達に突き刺さる。


 ノクトが尋問のため急所をわざと外した時とは違い正確に急所を貫いた。


 ノクトは男達を見ると男達は力なく地面に顔を付けた。男達に生気を感じなかった。確実に死んだ。


「——依頼を全うできなかった貴方達がいると大事な会話の邪魔になります。死んでください」


 イプシロンは表情を何一つ変えず男達を瞬殺した。


「話を戻しましょう。ノクト様は自身の事について周りから騙されていたのです。ノクト様を守るためという詭弁で」


 イプシロンは男達を殺しても何一つ表情を変えなかった。


「ど、どういうことだよ?」


 ノクトの脳内はイプシロンが自分にかしずく理由も、男達がイプシロンによって瞬殺された事も、イプシロンが言っている事も何一つ理解しきれていない。


「ノクト様。貴方は私達悪魔が絶対の忠誠を誓う魔王様の血を色濃く受け継いだ魔王様の末裔です」


 イプシロンはノクトに今まで隠された真実を告げた。


「俺が、魔王の末裔……?」


 理解が追い付かない。


 ノクトはイプシロンの言っている事が理解の埒外にあり理解がまとまらなかった。


「そうです。その証拠に生前の魔王様にそっくりです。夜空のように漆黒の髪と瞳。類稀な魔術の才能。その全てが魔王様に瓜二つと言って良い」


 ノクトは思い当たる節があった。


 幼少期から色々な人を見ていたが黒髪と黒い瞳を持った人は誰一人いなかった。


 それに魔術師試験の時も自分と同世代の魔術師は片手で数える程しかおらずその全員が五等初級魔術師試験を受験していた。


 確かにイプシロンが言った事には合点がいくところがある。しかし——


「何でその事を隠す必要があるんだよ?」


 それだけなら何も隠す必要なんてない。隠す必要があるのはその真実がノクトに対してデメリットがあるからだ。


「そんなの簡単です。魔王様の存在は人間風情の下等な思考しかもたない者達から敵視されているからです。魔王様の崇高な考えを理解できず、それを絶対の悪と宣う劣等な者達は魔王様の偉業に反旗を翻しました」


 ノクトに隠していた理由——世界の反逆者の末裔であるノクトは存在するだけで忌むべき存在。


 その事から守るためノクトには秘密にしていた。


 それ自体は決して悪い事ではない。ノクトを守るためだからだ。


「しかも人間共はノクト様の力を恐れるどころか逆に利用して魔王様の復活を阻止し、魔王様とノクト様諸共討ち滅ぼす気だったのです」



 えっ?今なんて言った?



 ノクトはイプシロンの話にあった魔王諸共自分を討ち滅ぼすという言葉が耳を疑った。


「おい、今俺諸共討ち滅ぼすって…」


「そうです。その証拠にあの男から本当の力を封印されているにもかかわらず魔術を習っていた。それが証拠です」


「あの男ってジジイの事か」


「その通りです。現にあの男はノクト様を魔王様を討つための道具としてノクト様を育て、もしノクト様が人間達の敵と見なしたら殺すよう国から命令されていました」


 イプシロンの言っている事は今のノクトにとって夢物語のように決定的な根拠がない。しかしなぜか合点のいく事もあった。


 エドワードがアンリやシャルに教えていた神聖術より何倍も難易度の高い高等魔術を教えていた。

 今まで何も考えなかったがイプシロンが言ったように魔王を討つために育てたのなら子どもに教えるものでない高難易度の魔術を教えていた理由も納得がいく。


 ノクトはまとまらなかった脳内がすっきりしてきた。


 そして同時に国のため、世界のために魔王と相討ちになるために生きてきた真実を受け止めきれなかった。


「そしてあの男は王都から招集がかけられていました。ノクト様には内緒にしていたようですが。その内容は——」


 正直ノクトはイプシロンの言葉をこれ以上聞きたくなかった。


 これ以上聞いたら後戻りでいない。

 直感がそういっている。


 しかし体が動かない。


 ノクトはイプシロンから告げられた。聞きたくなかった真実を。


「——国はノクト様が近い未来、人間に仇名す存在と予見したのでノクト様を殺す命令をあの男に下しました」


お疲れ様です。

tawashiと申す者です。

今回も読んでくださり誠にありがとうございます。

本日も二話連続投稿をします。

続けて読んで頂けると幸いです。

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