第二十話
レイノスが地下室から去って三日が経過した。
収監されている独房の中でノクトは床に座り頭を抱えていた。
ノクトは地下室から去る前の言葉を聞いてから今までエ年と頭の中で反芻していた。
ノクトにはレイノスを殺す覚悟が未だにできなかった。
ノクトにとってレイノスは師匠であり大事な人の一人だ。その大事な人を殺してまで逃げ延びる事に納得できないでいた。
レイノスの言う通り、ノクトが脱獄した後にレイノスと殺し合いをしてレイノスを殺せば勇者以外にノクトと相手できる人間はいなくなる。
そうなれば国は最強の存在であるレイノスを殺せる程のノクトを連れ戻すために戦力を避けなくなる。
師匠を殺して逃げ延びて師匠の頼みを叶えるのか、師匠に殺されるのか。
「……何で俺に頼むんだよ……?」
床に座るノクトは苦渋に満ちた表情を浮かべて呟いた。
以前、レイノスが言っていた、『勇者を聖母教徒は殺す事はできない』という聖典に記されている法でレイノスを含めて王宮の人間はノクトを嫌でも殺す事ができない。
三年前にノクトが処刑されそうになった時にレイノスはいち早く勇者の紋章に気付きノクトを処刑から免れた時とは全く逆の状況だ。
ノクトが苦渋の決断に悩んでいるといきなり地下室の出入り口の扉が吹き飛ばされた。
地下室の扉が吹き飛ばされた轟音が響き渡ると、ノクトは独房の格子越しに地下室の出入り口の方を見た。
ノクトが独房の格子越しに見た光景はすぐに理解できなかった。
地下室の扉から黒く濁った粘性のある液体が扉を押し退けて地下室に侵入していた。
地下室に流れ込む黒く濁った液体は大量に地下室へ流れ込みノクトの独房の床まで流れていく。
床を伝って流れる黒い液体はノクトが収監されている他の独房の中へ侵入して鉄格子を溶かしていく。
鉄格子を溶かした黒い液体は他の囚人にまとわりついた。
黒い液体にまとわりつかれた囚人は現状を理解しきれず気が動転している事に加え、まとわりつく黒い液体が鼻を曲げる程の異臭を巻き散らして肉体を溶かしていく。
黒い液体にまとわりつかれ肉体を溶かされていく囚人は悲痛な絶叫を上げて黒い液体に呑み込まれて溶かされた。
ノクトは花をつまんで黒い液体が放つ強烈な異臭から身を守る。黒い液体がノクトの独房の鉄格子を溶かしてノクトの独房に侵入していく。
ノクトは流れ込んでいく黒い液体から少しでも離れるために鉄格子から離れようとするが繋がれている枷によって移動範囲が制限されていた。
他の囚人を見る限り、目の前の黒い液体に触れれば体を溶かされる。溶かされてしまえばレイノスとの頼みを聞くのか断るか以前に死んでしまう。
ノクトの足元のすぐ近くまで黒い液体が流れていくと、ノクトは魔力を練った。
ノクトが練った魔力は手と脚に付けられた枷によって封じ込めようとするが、ノクトの魔力の質と量に耐え切れず枷から火花が散りながら枷が腐食していき崩れ落ちた。
今まで拘束していた枷から解き放たれたノクトは独房の天井を風の魔術で突き破り穴を開けた。
ノクトが魔術で開けた天井の穴へ浮遊魔術を使い自身の体を浮かせて天井の穴から逃げる。
お疲れ様です。
本日も読んで頂き誠にありがとうご冷ます。
これからも投稿していきますので良ければ次話も読んで頂けると幸いです。