第二十一話(裏)
寮の部屋に戻ったマリアはシャルから受け取った、破られたページに刻まれている古代の神聖術の解読に勤しんでいた。
自室の机の上で黙々と術式の解読を進めていると窓が独りでに開く。
「何の用かしら?」
マリアが解読を進めていた筆を止めると独りでに開く窓の方を見る。
「その言葉はないんじゃないか?ミラー・ガブリエル?」
独りでに開いた窓の近くには全身純白の服に純白の仮面を被る白髪の人物が立っていた。
「何も言わずに部屋に入ってくる人に言われる義理はないわ」
開いた窓の近くに立っている人物を冷たい視線を向けた。
「それに昨日、シャリスティア・セイレーンと会ったそうじゃない?それほどこれが欲しかったの?」
マリアは古代の神聖術の術式が刻まれた破られたページを白髪の仮面に見せつけるように持った。
「その通りだよ。でもこの術式を使えたとしても解読できないとどんな効果があるのか分からい以上、不用意に使えない。だから結局は君に解読してもらう予定だった。過程はどうであれ結果的に君の手元に届いたのであればそれでいい」
白髪の仮面は仮面の下に見える口元が不敵に笑っていた。
「少し勘違いしてるんじゃない?私はあんたから古代の術式を渡されたら解読して解読書と元の術式を渡すとは言ったけど、私にこの術式を渡したのはシャリスティア・セイレーンよ。だからあんたに解読書を渡す義理はない」
不敵に笑う白髪の仮面と対峙しているマリアは依然と冷たい視線を向ける。
「最初から信用されていないとは思っていたが、ここまで信用されてないと流石に悲しくなるよ」
白髪の仮面は身振り手振りで悲しさを表現するが仮面の下の口元は不敵な笑みを浮かべたままだ。
「誰のおかげで《写し鏡》の依り代として選ばれたのか、それにマリア・エヴァンテインという偽名で学園に入学できたのか忘れてないよな?」
マリアに話す白髪の仮面は急に身振り手振りを止めて鋭い口調で問いかけた。
「その手引きをしたのがあんた達でも《写し鏡》の依り代として選ばれたのも、学園に入学できたのも私の実力よ。それにあんた達が欲しいのは私じゃなくて、私の古代神聖術の解読技術と依り代としての肉体だけでしょ?」
白髪の仮面の鋭い口調にマリアも鋭い口調で言葉を返す。
マリアの言葉に白髪の仮面は仮面の奥から覗かせる純白の瞳が睨んでいた。
「出会って数日しか経っていない少女に随分と心を開いているようだね?」
「信用するところが全く見つからないあんた達よりは心を開いてるかもね?」
白髪の仮面が嫌味を混ぜた質問にマリアも嫌味を混ぜた返事を返した。
「そういうミラーはシャリスティア・セイレーンの本性を知っているのか?」
白髪の仮面が数日の付き合いで本人の素性すら知らないシャルの事を話題に挙げるとマリアは鼻で笑った。
「あんたに良いことを教えてあげる。友達っていうのは相手が本心を言いたくなるまで待つ事ができる人らしいわよ?」
鼻で笑ったマリアから告げられた発言に白髪の仮面は無表情になった。
「本当に詰めの甘い考えよね?人間なんて誰でも言いたくないことを抱えて生きている。あいつだって他人に言いたくないことを抱えているはずなのに、そんな綺麗事をさらっと言えるバカな奴よ。けどこんな私と友になりたいと言ったバカは初めてよ。そんなバカだからあんた達より信用できるし、私もあいつが本心を言えるまで待つつもりよ」
マリアが長々と話す言葉は白髪の仮面には響いてなかったようで表情一つ変えなかった。
「それはこちらを裏切るという意思表示でいいのか?」
「裏切る?私は最初からあんた達に組した覚えはないわ」
白髪の仮面の威圧的は声音の質問にマリアは鼻で笑って白髪の仮面の質問を一蹴する。
「それに今ここで私を殺せばこの術式を誰も解読できない。そして新たな《写し鏡》の依り代を探さないといけない。どのみちあんた達が私を殺せばあんた達にはデメリットしかない。そうでしょ?」
マリアの発言に白髪の仮面は何も言葉を返さなかった。
「自業自得ね?あんた達が御爺様を殺さなければ他に古代神聖術の解読ができた。それに私の妹を殺さなければ新たな《写し鏡》の依り代を用意できたのにね?あんた達みたいなあのバカ以上に詰めの甘い罪人に私は絶対に従うつもりはない」
マリアは白髪の仮面に鋭い眼光を向けて自分の意志を示す。
「そうか。確かに我らは詰めが甘かったようだ。強制的にでも君を操ってでも従わせるべきだった。でも今からなら間に合いそうだ」
鋭い眼光を見せるマリアに白髪の仮面は抑えていた力を解いた。
白髪の仮面が力を解いた瞬間、周囲の空気が震えるような錯覚を覚える程の威圧感を放った。
「残念ね。私はあんたと戦う気なんて毛頭ないわ。けど——」
マリアが話を進める途中で白髪の仮面が傍に立つ窓とは別の窓が割れた。
窓を割ってマリアの部屋に侵入したのはマリアと同じ制服を着た少女だった。
「——ここにいるバカはあんたに話があるみたいだから、精々このバカに潰されてくれる?」
「助けに来た友達にバカはひどいと思いますよ?マリアさん」
マリアの部屋に侵入したシャルは言葉を紡ぎ続けたマリアの発言に指摘した。
「あら?人の部屋に入るのに窓を蹴破って助けに来る友達にバカって言って何かおかしい?」
マリアは苦笑しながら友達のシャルに口を挟む。
「確かに窓を蹴破ったのは悪かったです。けどマリアさんの言ったように警戒してて正解でしたね?」
シャルは友達のマリアの言葉に反論できずに素直に謝った後、白髪の仮面の方を見た。
「やはりミラー・ガブリエルの企みか?」
シャルの発言を聞いた白髪の仮面はシャルとその後ろにいるマリアを睨む。
「気付くのが遅かったわね?私が負けると分かってる相手に丸腰のままで喧嘩を売ると思ってるの?」
マリアの挑発的な発言に白髪の仮面は表情を変えずに殺気のみを放つ。
「そこまで殺気を放っても結果は変わりません。あなたから本当のことを吐いてもらうだけです」
殺気を放つ白髪の仮面にマリアは気後れせずに悠然と述べた。
その直後、シャルと白髪の仮面が互いの間合いに入るために駆け寄った。
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