第二十話(裏)
白髪の仮面が現れた次の日。
講義を終えたシャルはマリアと共に屋上へ足を運んだ。
「昨夜、そんなことが」
屋上に着いたシャルは同じく屋上へ着いたマリアに昨夜シャルの前に現れた白髪の仮面との一部始終を話した。
「単刀直入に聞きます。マリアさんに見せた術式には何の仕掛けが施されているか教えて下さい」
シャルは破られたページをマリアの前に出してページに刻まれている術式の正体を問いただす。
シャルに訊かれたマリアは見せられたページを見た。
「もっと時間をかけて解読しないと具体的には分からないけど、その術式はどこかの鍵よ」
「鍵?」
マリアが口にした鍵という言葉をシャルも復唱した。
「何を開けるか、どこに繋がる鍵なのか分からないけど、その術式は今の神聖術が確立する前の古代の術式で、発動できれば何かを開けらるはずよ」
「とても抽象的ですね?」
説明するマリアにシャルはあまりにも抽象的な情報に呆けた。
「仕方ないでしょ?その術式をちゃんと解読したわけじゃないんだから」
呆けてしまったシャルに術式を一見しただけのマリアは抗議する。
「だったら、あと一週間以内で解読できますか?」
シャルは手に持っている破られたページをマリアに渡す。
「これくらいなら三日あれば解読できるけど、私に渡してあんたはいいの?」
シャルから受け取ったおエージを受け取ったマリアはシャルに質問する。
「どうしてって、私はこれを解読できません。マリアさんが解読できるなら適任者に渡すのは当たり前だと思いますが」
「そうじゃなくて。解読するだけならあんたのいる場所でもできる。それなのに術式本体を渡す意味が分からない。なんで?」
シャルはマリアの質問に答えるがマリアは質問の真意を伝えてさらに質問する。
「そういうことでしたか。それはマリアさんが言ってたじゃないです?この術式を解読できても使うことはない。って」
マリアのさらなる質問に答えたシャルにマリアは余計に困惑する。
「昨日の今日でよく私を信じられるわね?あの時にあんたは私の言葉だけしか聞いていない。力を使って私に本当の事をさらけ出させてない。それなのにどうして私を信じることができるの?」
あまりに無防備なシャルの言動にマリアは警戒心の他に今まで感じた事のない感情が心の奥でざわつく。
「そんなの決まっています。昨日マリアさんから聞いた言葉が本心だと思った。だからマリアさんに任せられると思った。それだけでは足りませんか?」
シャルは真っ直ぐな瞳でマリアを見る。その瞳を見たマリアから困惑の色が薄くなった。
「確かにマリアさんの言う通り私の力ならマリアさんから本当のことを吐かせるなんて簡単です。でも私とマリアさんは互いの利害関係のために動く協力関係ではなく、ただの友達になりたいと思いました。本音を話すまで待つのが本当の友達と私は思っています」
シャルの口から紡がれる言葉はあまりに綺麗事な発言なのはマリアも理解できる。
シャルもマリアのように騙している可能性もある。
マリアは人を騙すのも得意だが人が騙しているのを見抜く方が得意だ。
人を騙す時の気配をすぐに感じ取れる。けれど、シャルの言葉には人を騙す時特有の気配が感じられなかった。
「マリアさんが本音と、本心を話したい時まで私は待ちます。私に本当のことを話したくないと思うのなら私達はそれまでの関係だったと受け取ります」
シャルが目を瞑りマリアに本心を言いているというのはマリアに伝わった。
「本当にあんたは詰めの甘い所は直した方が良いわ。最後に自分自身の首を絞めるわよ」
マリアはシャルから受け取った破られたページを見ながら鼻で笑う。
鼻で笑われたシャルは目を開いてマリアを見た。シャルの瞳に映るマリアは今までにないほど緊張感の解けた表情だった。
「三日後に術式を解読した情報を伝えるってことでいいわね?」
マリアはシャルに口約束をするとシャルは少し間をおいて返事をする。
「分かりました。三日後に屋上でその術式の詳細を教えて下さい」
互いに口約束をした二人は最初に協力関係を結んだ時と違う普通の少女のような表情を見せた。