第十八話(表裏)
オミクロンと名乗る悪魔はノクトに恭しくお辞儀をした。
「そのオミクロンがここに何の用だ?」
お辞儀をするオミクロンにノクトは睨みを利かせて質問する。
「簡潔に言えばノクト様の容態を見に来た、と言ったところでしょうか?」
ノクトの質問にオミクロンは元の体勢に戻って返事をした。
「私達も、魔王様ですら意図しない状況で心配していたのです。一部とはいえノクト様の体内に魔王様の魔力が入ったのですから」
オミクロンの話を聞いたノクトは一層険しい表情をした。
「けれど、その様子なら魔王様の魔力にも肉体が順応しているようですね。安心しました」
オミクロンは胸を撫で下ろして本当に安心したような様子を見せた。
その時医務院の扉や窓を蹴破りぞろぞろとオミクロンを囲う騎士達が聖剣を向けている。
扉や窓を蹴破る音や突入する大量の足音にベッドに上半身を預けていたホホは体をびくっとさせて起きた。
「なぜ王宮へ侵入した。悪魔?」
騎士達の先導して医務院に突入したレイノスは威圧的な声音でオミクロンに質問する。
「ノクト様にも言いましたが魔王様の魔力を体内に入れてしまったノクト様の容態を窺いに来ただけです」
質問したレイノスにオミクロンはノクトに説明した時と同じ事をレイノスに言うとレイノスは聖剣の切っ先をオミクロンの方へ向けた。
「もっとまともな嘘を吐けないのか!」
「貴方達も私が多勢に無勢の状態で嘘を吐く愚かなことをすると思っているのですか?」
レイノスのさっき交じりの言葉にオミクロンは呆れたような声音で言葉を返す。
「今はシャルロットがいないので私は貴方達と戦う気など微塵もありません。それに偶然ですがノクト様は魔王様の魔力に順応した。これ以上ない収穫です」
オミクロンは嬉しそうな声音と口角の上がった表情を見せてノクトに視線を向ける。
「どういうことだ⁉」
オミクロンの発言にノクトは声を荒げて尋ねるがオミクロンは何も言葉を返さなかった。
「それではノクト様。またいつかお会いできることを楽しみにしています」
そう言うとオミクロンは黒い外套から黒い炎を全身に纏った。纏った炎がオミクロンを包み込むと黒い炎が鎮火するとともにオミクロンの姿が消えて行った。
姿を消したオミクロンに騎士達から張り詰めた緊張感が解けた。
「ノクト。あの悪魔とは何を話した?」
レイノスはノクトの方を見て質問した。レイノスがノクトに向けた視線の眼光はいつも以上に鋭いものでノクトの傍にいたホホは恐怖で鳥肌が立った。
「あの悪魔が言った通りです。あの悪魔はシルフィーの姿に化けて医務院で寝ていた俺に話しかけました」
ノクトがオミクロンと会ってからの状況を説明するとレイノスがノクトの元へ歩き出す。
ノクトの元へ着いたレイノスはノクトの目を見た。
「すまないがノクト、お前を地下牢へ拘束する」
そう言うとレイノスは握っていた聖剣をノクトに向けた。
レイノスから聖剣を向けられたノクトはレイノスの意図が理解できず驚きのあまり声が出なかった。
「これは聖母教皇及び元老院の命令だ。従ってもらう」
聖剣を向けたレイノスの声はいつもと違う、どこまでも冷たい声音でノクトに告げた。
聖剣を向けられたノクトの傍でレイノスの威圧感に怯えているホホはノクトの服を強く掴んでいた。
その時ノクトが座っているベッドから魔法陣が瞬時に浮かび上がりノクトとホホを魔法陣から漏れ出る光が呑み込んだ。
「転移魔術⁉」
ノクトとホホを呑み込む転移魔術にレイノスは目を腕で隠して光を遮る。
ノクトとホホを呑み込んだ光が消えると転移魔術の魔法陣ごと医務院から跡形もなく姿を消した。
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