第十五話(裏)
「依り代?」
マリアの言葉から出てきた単語にシャルは思わず反芻していた。
「そう。《写し鏡》って法具は人の肉体にしか保管できない。そして依り代となった人間の肉体は普通の人間より老化の速度が極端に遅くなる。けれど不老不死になるわけじゃない。前の依り代の命が尽きる前に新しい依り代に《写し鏡》を移動させないといけない。それで私が新たな依り代に選ばれた」
マリアは淡々と《写し鏡》とその依り代との関係をつらつらと話す。
「本当の名前を聞いたばかりですが今はマリアさんと呼ばせてもらいます。なぜマリアさんは依り代となろうとしたのですか?」
シャルが先程のマリアの話を聞いて一番気になっていた事を尋ねた。
マリアが長生きしたいだけで《写し鏡》の依り代になりたいとは到底思えない。それに国宝である法具の《写し鏡》の依り代に選ばれる選定理由がないとは考えづらい。
「先代の《写し鏡》の依り代の方と直接会うためよ」
マリアはシャルの質問に素直に答える。その時、マリアはシャルの目を見ながらどこか神妙な表情を浮かべた。
「それはどうしてですか?」
マリアが依り代になる理由を聞いて余計マリアの真意が分からなくなったシャルは先程より率直な質問を投げかけた。
シャルに質問を投げかけられたマリアは神妙な表情を浮かべたまま口を開いた。
「先代の《写し鏡》の依り代の方が《写し鏡》の依り代になったのはもう五百年前の事よ。私は五百年前と今の世界の違いを知りたい」
マリアが《写し鏡》の依り代となる理由、五百年前と現在の世界の違いを知る目的をシャルに伝えた。
「世界の違い、ですか?」
「そう。今の世界は聖典の教えによって平和となったとされている。けどそれが本当ならなぜ同じ聖典を崇拝している異なる宗教の聖典の内容の一部が異なっているのか。疑問に思った」
「⁉」
マリアの発言にシャルは驚愕した。
二年前にシャルが悪魔に教えられた聖典の内容の虚偽の片鱗にマリアも感付いていたらしい。
「だから私は先代の《写し鏡》の依り代の方と会って直接五百年前の世界と聖典の内容を知りたい。もし五百年前と今の聖典の内容が違えば宗教の違いで聖典の内容が違う理由がはっきりする」
シャルはマリアの知りたがっている聖典の虚偽について知っている。けれどそれを話すには自分がこの世界を掌握しようとしたと聖典に記されている魔王と手を組んでいる所から話さなければならない。
この事は魔王と悪魔から関係者以外には他言無用と言われている。
マリアが次に話す言葉はシャルは予想できていた。それはシャルを含めた魔王側の者達も知りたがっている事だから。
「聖典を書き換えた何者かだ存在する。そしてその何者かが聖典を利用して人々を自分の人形として操ってるってこと。私はその真相が知りたい」
シャルが予想していた答えをマリアは真剣な眼差しをシャルに向けて口にする。
「そうですか。まだ聞きたいことはいっぱいありますが、今はこれくらいマリアさんの本心が聞ければ十分です。また後日聞きたいことを聞きます」
シャルはそう言うとマリアの目の前に手を伸ばした。
シャルが目の前に差し伸べた手にマリアは視線を向けた。
「その手は?」
「何って友好の証です。であったばかりの時はマリアさんからしてきたことじゃないですか?」
シャルの差し伸べた手を見たマリアは一瞬眉をひそめたがそのマリアにシャルは微笑みを向けた。
「今度は私に呪いをかける気だったらお断わりするわ」
「まさか、マリアさんでもあるまいし。やっと本当の事を話してくれたマリアさんのこのを少し知れたのが嬉しかったんです。いつか腹を割って本当の想いを話せる関係になれればいいと思ってます。その約束の握手です」
シャルの目を見たマリアは何か企んでいる人の目ではないとすぐに気付いた。それに差し伸べた手にも呪術の類の術式は浮かんでいなかった。
「約束のことは保留にするけど私もあんたの本当のことを知りたくなったわ」
マリアは目の前に映るシャルの手を握った。
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