第七話
ノクトは小屋に近づくと気付かれないように空間把握魔術を小屋周辺のみに集中して展開した。
空間把握魔術を展開した後聴覚鋭敏化魔術で自身の聴覚を鋭くした。
目を閉じて小屋の中の状況に集中する。
口を塞がれ縄で手足を縛られ身動きが取れないアンリは大男に強引に担がれたまま移動していた為呼吸が浅くなっていた。
小屋の片隅に放り投げられたアンリは先程まで自分を担いでいた男を睨みつける。
アンリが睨んだ先には外套を纏った大柄の男とは別に外套で顔を隠す人が三人いる。
体格からするに大男とは別の人達も男だろう。その男達は不気味な笑い声を零ている。
アンリは男達の不気味な笑みに恐怖を覚える。瞳の奥も恐怖心で少し潤んでいる。
しかしそれを見せまいと気丈な態度を見せる。
「さすがアニキ!依頼通り金髪の双子の一人を捕まえましたね!」
大男の後ろにいる外套を被った長身痩躯の男が大男に称賛の声を上げる。
「そんなに褒めてもお前の取り分は変わらねえからな」
「アニキもケチ臭いっすね」
大男と長身痩躯の男が取り分の話をする中アンリは小屋の中の状況を確認した。
小屋の外か漏れる薄明りで中の概要を確認していく。
小屋の中にいる男達は外套のフードで顔を隠している。男達の左手の甲にナイフと雷を模した刺青が共通で刻まれている。
そして左腕には翡翠色の宝石が装飾されたブレスレットを付けている。
男達を観察をしていると大男が外套のフードを取る。
大男は口元に古い切り傷があり右耳には左腕に付けているブレスレットと同じ翡翠色の宝石が装飾されたピアスを身に付けている。
「それにしても奴はまだ来ないのか?」
大男は他の男達に質問する。
「依頼人でしたら小一時間前に現れまして目標を捕まえたらまた顔を出すと言ってましたよ」
長身痩躯の男の右隣に座っていた恰幅の良い男が答える。
「会った時から思っていたが、やっぱり胡散臭ぇ野郎だ」
大男は依頼人に悪態を吐く。
「それで、依頼人が来るまでの間どうしましょう?」
長身痩躯の男の左隣に立っている中肉中背の男は大男に質問する。
「奴は目標を連れてくるためなら多少傷つけてもいいって言ってたし、俺は金さえもらえればそれでいい」
「それって俺達がこの小娘になんでもしていいってことですよね?ギャハハッ!」
中肉中背の男がさらに不気味で下卑た笑い声を零す。
そして笑い声を零す男はアンリを見て舌舐めづりをして顔を近づけてくる。
男の目が見えたアンリ。その目はアンリを痛めつけて嗜虐する事を望む愉快犯の目だ。
「お前も趣味が悪いな。こんなメスガキ相手に欲情するなんて」
「人の趣味に難癖付けるなんてナンセンスですよ」
中肉中背の男は大男に軽い抗議をする。
アンリは男の下卑た笑い声と視線に、先程までの気丈な態度が消え去っていく。
そして恐怖が心の奥から沸き上がる。
「いいねぇ。さっきまで強気な目をしてたのに、俺が顔を近づけるたびにその綺麗な顔が恐怖で歪んでいって……俺好みの顔になってんなぁ~~~!」
男の顔がより不気味で愉悦に浸った表情に変わっていく。
男は腰に携えていたナイフを手に持ちアンリの首元にちらつかせる。
アンリは口を塞いでいる縄を噛み締めて恐怖を押し殺そうとする。
しかし押し殺そうとするも瞳に恐怖の感情が徐々に滲む。
アンリの瞳には恐怖で涙が滲んできた。
「ギャババハハーーーッ!その目やっぱりいいなぁ~~~。もっと恐怖で歪んでくれないかなぁ~~~」
男はアンリの首筋にちらつかせていたナイフをアンリが着ているワンピースの襟に刃を這わせる。
そしてナイフでワンピースを切り始める。
「~~~っっ!~~っ‼」
アンリは縄で口が塞がれ大声が出せず呻き声のみが小屋に力なく響く。
ノクトは爪を食い込み続けたせいで握り拳から出血している。
唇を強く噛んだせいで唇が切れてしまい血が出ていく。
“まだかよ!ジジイッ!”
ノクトは小屋の中の状況を魔術で把握しているせいでアンリがどれだけ恐怖を抱いているか手に取るようにわかる。
しかしノクトはエドワードと約束した言いつけでエドワードが来るまで何もせず待機しなければならない。
それはノクトにとって拷問でしかなかった。
大事な人を助けたいが敵の戦力を知らないがために行動できない自分を呪った。
「やっぱり口を塞いでるから悲鳴が出ないか~。やっぱりこういう時は悲鳴も聞きたいよねぇ~~」
小屋の中から聞こえる男の声がノクトの耳に届く。
そして空間把握魔術で小屋の中を確認するとナイフを持った男はナイフでアンリのワンピースを切り裂いて胸元をはだけさせる。
恐怖で大粒の涙を零すアンリの表情さえ把握できるノクトは苦悶の表情を浮かべる。
ナイフを握る男はアンリの口を塞ぐ縄をナイフで切る。
アンリは口を塞いでいた縄が解け先程までの恐怖と相まって咽る。
男が持つナイフはアンリの胸元に近づく。
「いやあああぁぁぁぁーーーーーー‼」
アンリは絶叫に近い悲鳴を上げた。
ノクトはアンリの悲鳴を聞いた瞬間、自身の堪忍袋の緒が切れた音も同時に聞こえた。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んでくださり誠にありがとうございます。
次回も読んで頂けると幸いです。