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第七話(裏)

 本日全ての講義が終了するとシャルとマリアは無言で席を立ちすぐに教室を出た。

 教室を出た二人は廊下に出ると別々の方向へ進んでいった。ひとつ前の休み時間の炉気に《写し鏡》を探すために手分けして探す事をシャルが提案するとマリアもシャルの意見に賛同した。


 二人で探すと見つかった時に二人共マークされてしまう。それに現在二人が恋仲という身に覚えのない噂が学生の間で流布されている。二人で行動していると周りの学生からまたおかしな噂が流布しかねない。それを踏まえて二人は別行動を取営後で情報交換をする事にした。


 シャルはようやく一人になると学園の屋上へ進む。普段屋上はカギがかけられていて立ち入り禁止になっている。

 シャルは鍵がかけられている屋上の扉まで到着すると扉の取っ手に触った。扉の取っ手を握った瞬間シャルは魔法陣を展開して鍵のかかった扉を開錠した。

 かけられた鍵をを開けたシャルは音を立てないように慎重に屋上の扉を開いた。

 

 屋上に足を踏み入れたシャルの視界に広がるのは石積みの床に周囲を格子で囲われたそこそこ広い空間の屋上だった。

 鍵がかかっていたとはいえ初歩的な魔術で開錠してしまう場所に学園の大事な物を保管するとはシャルも思っていなかった。シャルは誰も来ない場所を探していた。まして普通の学生が開けられない鍵がかかっていた屋上なら誰も来ないだろう。

 シャルは意識を集中させて脳内でシャルを護衛しているはずのタウと意識を共有する。


『どうしましたか、シャルロット?』


 シャルの脳内にタウの意識が聞こえてくる。


『やっと一人になったわ。悪いけど透明なままで私の方まで来て』

『これは珍しい。シャルロットの方から私を呼ぶなんて。何かあったのですか?』


 シャルは共有している意識の中でタウを学園の屋上まで呼び出すとタウは少し喜んでいるような雰囲気でシャルの脳内に語り掛けた。


『それはこっちに来た時に話す。だからすぐに来て。早く要件を済ませたいの』


 シャルはタウにすぐに屋上へ来いと催促すると『分かりました』とシャルの脳内で返事を返す。タウが返事を返すと共有していたタウの意識が途切れる。

 シャルはタウが屋上へ来るまでの間、屋上の格子から見える夕陽を見ていた。橙色に輝く夕陽とじきに夕陽が沈む茜色の空が哀愁の混じった美しさを彩っていてシャルは久しぶりに夕陽を見た事を思い出した。


 悪魔と出会ってから二年半が過ぎたがそのほとんどが人気の少ない夜や悪魔達の根城にしているアジトにいたためこれほどゆっくり夕陽を見たのは本当に久しぶりだった。それこそノクトとアンリと一緒に暮らしていた時以来だろう。

 美しい夕陽に見惚れているとわずかにシャルの傍の空気が不自然な流れが起きたのを感じた。


「やっぱり来るのが早いわね。タウ」


 不自然な空気の流れが起きた場所には透明化しているタウがシャルの傍に現れた。


「シャルロットが早く来るように呼び出したんです」


 透明化しているおかげでシャルの視覚ですらタウがどこにいるのか分からない。けれど悪魔の力を宿すシャルはタウの存在を人間の五感以外の第六感で感じる事ができる。


「昨日私に隷従の呪術を施そうとした学生がいたの」

「何ですって⁉」


 シャルの言葉を聞いて姿の見えないタウは驚きの声を上げた。


「もちろん呪術にかかる前に解呪したから何ともないけど、その学生も私達と同じ《写し鏡》を探していた。そして隷従の呪術を施した私と一緒に《写し鏡》を探そうとしたの。おかしいと思わない?」


 シャルは姿の見えないはずのタウの顔を見て語り出す。


「確かにそうですね。わざわざ編入初日の学生に呪術をかけて従わせるメリットが大きいとは思えません。それにシャルの成績が良かったとしても学生の実力などたかが知れている。そんなものを従わせて学園が保管している《写し鏡》を探すなど無謀な作戦です」


 タウの言う通りたとえシャルが優秀な成績だとしてもそれはシャルが周りの学生と同じくらいまで手加減した時の成績だ。それで毛の情報の相手を隷従させるメリットがない上その程度の相手では学園が厳重に保管している《写し鏡》を探し出す前に見つかってしまう。


「もしもの話だけど、呪術を施そうとした学生が私の本当の力を知ってたらタウの話の前提が崩れると思わない?」


 そう。シャルは昨日から考えていた前提条件が違っていたらという話をタウに話した。


「もし私が素性を隠して学園が厳重に保管している《写し鏡》を探していて奪おうとしていることを知っているとしたら私に呪術をかけるメリットは大きい。それなら私に隷従に呪術をかけようとしたことも納得がいく」


 シャルが可能性の話をするとタウは驚愕と納得の混じった表情を浮かべる。


「確かにそれなら腑に落ちます。けれど私達悪魔の動きを把握している者がいるとなると厄介ですね。私達のアジトは悪魔の力がないと出入りもできません。そうなると悪魔の中の誰かが外の誰かに情報を流しているということも注意しなければならなくなるのですね」


 悪魔達のアジトは悪魔の力がないと出入りのできない異空間にある。その中で作戦を立てて次の行動を話し合っている。

 つまり今回のシャルの行動が外に漏れてマリアがそれを知ってシャルに呪術を施そうとしたのなら悪魔の中に情報を漏洩した裏切り者がいるという事になる。


「あくまで私の考えた可能性の話だから完全にそうと決まったわけじゃない。けどタウに直接話せばこの事は悪魔全員の意識に共有される、だから裏切り者がいたとしたらこれ以上そいつは下手に動けない」

「だから私を呼び出したのですか」


 シャルも外に情報を漏洩する裏切り者がいるとは信じたくないが可能性がある以上予防線を張る事は今のところ最善の手だ。


「それと私にかけようとした呪術なんだけど、何か変だったのよ」

「変と言いますと?」


 シャルはマリアと握手した方の手をタウに見せた。タウに見せた手からマリアが展開した術式が浮かぶ。


「私の力なら解呪できる呪術式なんだけどこの呪術式今まで見たことがないの。かけられそうになったときは力技で解呪したけど本来の解呪方法が私でも分からない」

「確かに魔法様から生み出されて随分と長い時間を過ごしましたが見たことのない呪術式です」


 シャルはマリアが展開した呪術の術式を破壊しただけでなく複写もしていた。しかし今まで見た事のない術式で複写はできたが実際に複写した術式を発動できない。


「だからこの術式を調べてほしいの。長くこの世界にいる悪魔でも見た事のない術式があるとなると予想以上に厄介なことになるかもしれない。これは魔王にも伝えないといけないわ」


 シャルは透明化しているタウに手に浮かび上がった術式をタウに渡した。


「確かに預かりました。この件は魔王様にも伝えておきます。それでは十分に気を付けて下さい。シャルロット」


 タウはシャルに注意するように告げると今度は本当に姿を消した。

 シャルはタウに言われた事を心の片隅に置いて地平線に沈みかけている夕陽を眺めた。

お疲れ様です。

本日の読んで頂き誠にありがとうございます。

これからも投稿していきますので気が向いたら次話も読んで下さい。

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