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第六話(裏)

 シャルはマリアとの協力関係を組んでから一日が経過した。

 シャルが教室へ向かう途中にすれ違う女学生達はシャルを見ると周囲にいる女学生と小声でひそひそ会話している。


 学園中に昨日マリアを壁に押しつけた事が学生全員の耳に入っているようでシャルを見る女学生の視線は昨日までと違う好奇の視線だった。

 シャルは朝から変な噂が流れている事に精神的に疲れてしまい教室までの道のりが昨日よりも長く感じた。


 シャルが教室に入ると教室にいた女学生達はシャルが教室の扉を開けた途端にシャルの方へ視線を向けた。

 シャルはこちらを見てくる女学生達を見るとなぜか一ヵ所だけ周りの学生と微妙な距離の空いた女学生がいた。


 周りと微妙な距離が空いているマリアはシャルと視線が合うと隠し切れない苦い表情を見せた。それとは逆にシャルとマリアの視線が合った周りの学生はどこか声を高くして周りの学生と会話していた。


 もうすぐ講義という事もあり学生はほとんど席に座っており開いている席がほとんどない。シャルの視界に入る空席は一ヵ所しかなかった。マリアの隣の席だ。


 ただの偶然かBクラスの学生が気を回してわざとマリアの隣の席を空けたのか分からないがシャルとマリアにとってこれ以上変な噂が流布されるのは勘弁だ。けれど空いている席が見る限りマリアの隣しかないとなるとシャルに選択肢はない。


 シャルはあくまで平然を装ってマリアの隣の席へ進む。シャルがマリアの隣の席に座るとシャルはマリアの方を向いた。


「おはようございます。マリアさん」

「……おはようございます。セイレーンさん」


 シャルとマリアが互いに名前を呼んで微笑んで挨拶した直後、周りの女学生は小声で話しているつもりなのだろうがシャルとマリアに筒抜けの黄色い歓声が聞こえてくる。


 シャルも表情には出していないが心の中で火が無視を噛み潰した感覚になる。おそらくマリアも同じ気持ちだろう。マリアはシャルよりも感情を隠すのが下手らしく昨日のようなほくできた微笑みが微妙に屈辱で歪んでいた。


 その時講義開始を告げる鐘の音が教室まで鳴り響く。その少し後に学園の講師が教室に入り講義を始めた。




 講義の終わりの鐘が響くとマリアは真っ先に席を立った。


「セイレーンさん。ちょっとついて来て下さい」


 マリアはシャルの手を掴み引っ張るように教室を出た。二人が教室を出るまでの間周りの女学生は再び黄色い歓声を上げていた。


 マリアは昨日とは別の人気のない校舎の一角にシャルを連れていく。二人は人気のない校舎の物陰に着くとマリアは指をシャルの前に差した。


「どういうつもりなの!」


 教室にいた時とは全く別人のような言葉と雰囲気でシャルに怒りを向ける。


「仕方ないでしょ。マリアさんの隣しか席が空いてないんですから」


 シャルも他の学生がいる時の外面の態度から肩の荷を下ろした態度でマリアに話す。


「そんなの私にも分かってるわ!そうじゃなくてなんで私を名前で呼んだのかってことよ!」

「そこなんですか?」



 マリアが怒っている理由を聞いた途端シャルは正直どうでもよい事で拍子抜けする。

「確かに他の場所ならどうでもいいことかもしれないけど、この学園じゃ名前で呼ぶのは敬愛以上の意志を示す表現なの!しかも周りにたくさんの学生がいる場所で私の名前を読んだ時点で私達がそういう関係と間違われてもおかしくないのよ!」


 マリアの怒っている理由の根幹を知った直後シャルは自分のしてしまった墓穴に今更後悔する。


「この学園の学生は全員女子しかいないから同じ女同士で恋愛感情が芽生えることもあるの。学生の中にはそれをアピールする人もいるみたいだけど。ただでさえ昨日の噂のせいでややこしいのにあなたが私を名前で読んだせいで私とあなたがそういう関係と勘違いする学生が余計増えたでしょうね」


 マリアはシャルを指差していた手を戻して自分の頭を押さえた。

 シャルはただマリアの名前で呼ぶ方が楽という理由でマリアと呼んだが、それが噂の内容を助長する事になるとは思わずただただ後悔した。


 たさであえシャルとマリアは学園のどこかに保管されている《写し鏡》を探さなければならないので周りの学生に魔立つ事はしたくない。しかし浅野シャルの軽率な挨拶で周りの学生は昨日の噂以上にシャルとマリアの仲を知りたくなり気にするようになるだろう。


「過ぎたことはどうしようもないわ。今から名前で呼ばなくなるのも逆に変な勘繰りをさせてしまうからあなたは私を名前呼びしてもいいからこれからは軽率な言動はしないで」


 マリアは頭を抱えながらシャルに忠告した。


「分かりました。これから気を付けます」


 シャルもこれ以上周りの学生から好奇の視線を向けられたくないのでマリアの言葉にしっかり返事をした。


「それにしてもマリアさんって他の学生と話す時って、猫被ってたんですね?」


 シャルはついさっきまでの言動と周りに学生がいる時の言動にあまりにも差がありつい聞きたくなってしまった。


「あなたが余計な言動を起こすから猫を被る余裕がなくなったのよ。それに私も聞きたいことがあるわ」

「なんでしょうか?」


 マリアはシャルの言動にペースを崩されて二人でいる時くらい本性を出して放さないと疲れが溜まってしまうらしい。そんなマリアもシャルに聞きたい事があるようだ。


「昨日の今日でよく私に対して平気な顔をしているわね?」


 昨日マリアはシャルに呪いをかけようとした。マリアの呪いはシャルが解呪してしまったがそんな事があれば普通警戒する。ましてや昨日の今日だ。それにもかかわらずマリアから見て全く警戒している素振りが見えない。


「マリアさんが私にどんなことをしても私にとって些末なことですのでそこまで気にしてません。現にマリアさんがかけようとした隷従の呪いも簡単に解呪しましたし」


 シャルは余裕がうかがえる笑みを浮かべてマリアを見る。その笑みにマリアは先程のシャルの言動とは別の苛立ちを覚えた。けれど事実、マリアの呪術はシャルに敵わなかった。


「それに今からそんなに警戒してたら《写し鏡》を探す時まで気が持ちません。何事も気持ちの余裕が大事です」


 シャルは人気のない校舎の一角から元の教室へ戻ろうと歩き出す。


「マリアさんも早くしないと次の講義に遅れますよ?」

「そうね。講義に遅れてまた変な噂が立つのだけはごめんだわ」


 シャルとマリアは話し終えると次の講義が始まる前に元の教室へ速足で戻った。

お疲れ様です。

本日も読んで頂き誠にありがとうございます。

これからも投稿していきますので良ければ次話も読んで下さい。

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