第三話(裏)
「ここアルスタイン神聖術学園はかつて魔王の手から世界を救ったとされる勇者の一人が設立した由緒正しい学園だ」
Bクラスへ向かう道中、ネイラルグは後ろに付いてきているシャルに学園の歴史を話し始める。
「学園の卒業生の多くは王宮専属神聖術師として活躍している。他にも各地で神聖術師を養成する施設の教員などで活躍している」
「ネイラルグ教授もその一人なのですか?」
ネイラルグがシャルに学生の卒業後の進路について語るとシャルはネイラルグも自身が語った教育に携わる道を選んだのか尋ねるとネイラルグはシャルの目を見て「ご明察」という一言を呟いた。
「まあ、私は王宮に勤められるような立派な身分でないのから消去法で教育の世界に入ったんだがね」
ネイラルグはどこか遠くを見るような目で前を見た。
ネイラルグが言ったように王宮専属神聖術師になるには神聖術の実力だけではなく身分の高い家柄でないとなることは不可能とされている。
どれだけ神聖術の才能や実力を持っていたとしても家柄が良くなければ王宮専属神聖術師にはなれない。
ネイラルグの話を聞いたシャルは話の本質を深読みして王宮への苛立ちを心の中でふつふつと煮えたぎっていた。
「世の中って理不尽ですね」
シャルは心の中に苛立ちを隠して平然を装いながらネイラルグに聞こえる声で呟いた。
「君の言う通り世の中は理不尽だ。しかしそれで世の中を恨むのは別の話だ」
ネイラルグはシャルの呟きに賛同するも異なる見解を話し出す。
「私に王宮専属神聖術師の道に縁がなかったということだ。それに今も楽しく仕事ができてる。これは理不尽を呪っているだけでは得ることのできない考えだ」
ネイラルグは再びシャルの目を見て微笑んだ。
シャルはネイラルグの考えを聞いて唖然とした。理不尽の大小は別として理不尽に対してシャルは理不尽を呪い理不尽な事象を壊して道を新しく生み出すという考えだ。しかしネイラルグは理不尽が立ちはだかれば別の道へ変更するという考えにシャルは今まで考えてこなかった考えだった。
「どうやら君はこの考えに賛同できないと見た」
「⁉」
シャルを見ていたネイラルグはシャルの細かい表情の変化に気付いてシャルの心を見透かした。
シャルは心情を表情に出さないように心掛けていたのだがどうやらまだまだのようだ。
確かに考えの違うシャルにとってネイラルグの考えは理解できなかった。おそらくその原因は立ちはだかる理不尽の大小が影響しているのだろう。シャルに立ちはだかる理不尽はシャルのものだけではない。家族のよう大切なノクトやsンりの前に立ちはだかる強大な理不尽をシャルは抱えている。
「けど人の考えを否定するのはナンセンスに尽きる。考えが違うから人は人なんだ」
ネイラルグはシャルを見ていた目を進行方向に戻してシャルの考えを否定せず寛容な態度を示す。
「話を戻そう。この学園の学生のほとんどは貴族出身。しかも神聖術の適性が高い女性のために設立されたこともありこの学園の学生は女学生のみだ」
話を戻して学園の学生の概要についてシャルに話す。
「まあ何か困ったら他の学生に聞いてくれ。私はこれでも忙しい。話を聞いている時間がない」
「分かりました。学園に馴染めるよう頑張ります」
ネイラルグが自身が多忙なためシャルの悩みを聞いている時間がないことを伝えた上で他の学生に頼るように伝える。シャルもネイラルグの話を理解して了承の返事を返した。
「分かってくれたのなら良かった。もうすぐBクラスだ」
ネイラルグと話をしながら進んでいるといつの間にか目の前に大きな教室が見えてきた。
「まあ、すぐに学生と馴染めることを祈るよ」
ネイラルグは何か引っかかる言葉を使ってシャルへ話して教室の中へ入った。
ネイラルグが教室に入ると教室内から聞こえるざわめきが消える。
「みんなおはよう。今日は先に編入生の紹介をする」
一度静まった学生の声が再びざわめき出した。
「静かに!」
ネイラルグは声を張ってざわめく女学生達を静める。
「それでは紹介する。入ってきて」
ネイラルグは教室の扉の傍に立っているシャルを見て中へ入る合図を出した。
シャルはネイラルグの合図を見て教室の中へ入った。
シャルが教室の中に入ると女学生全員シャルに目が釘付けになった。
「ほら、挨拶して」
ネイラルグはシャルに小声で目の前の学生に挨拶するように伝える。
「シャリスティア・セイレーンと申します。よろしければ気さくに話しかけて下さい」
シャルは自然な笑顔に見える愛想笑いで目の前の女学生達に挨拶をした。
お疲れ様です。
tawashiです。
本日も読んで頂き誠にありがとうございます。
これからも投稿していきますので良ければ次話も読んで下さい。