第二話(裏)
校舎に足を踏み入れたシャルはその足で担当教諭の教室へ向かった。
担当教諭の教室の前にたどり着くとシャルの目の前の扉が開いた。開いた扉から一人の女性が出てきた。
黒髪に黒い瞳、黒縁の眼鏡をかけて白衣を羽織った知性的な印象を受ける女性が扉の前にいたシャルと目が合った。
「おや、予定通りの時間に来たようですねシャャリスティア・セイレーン」
「名前を覚えていただけて光栄です。ネイラルグ教授」
目の前にいる白衣の女性——ネイラルグは視界に映るシャルをシャリスティア・セイレーンと呼んだ。
シャルはこの学園ではシャリスティア・セイレーンをいう偽名で編入している。魔王の幻術によってシャルが指名手配の犯罪者と認識されないようになっているが念のため名前を変えて書類を提出した。
「こちらこそ初対面の私の名前を覚えてもらえるのは光栄だよ。それでは部屋の中に入ってミスセイレーン」
「失礼します」
互いに挨拶を終えた二人はネイラルグが出てきた扉の中へ入る。
ネイラルグの部屋は机と椅子、専門書が並ばれた本棚など必要最小限の物しか置かれておらず、思った以上に部屋の中が広く感じる空間だ。
「綺麗な部屋ですね」
「私は仕事場に必要ない物を置きたくない主義でね。だからこの部屋で客人をもてなすには一苦労なんだ」
シャルは素直な感想を述べるとネイラルグは最小限主義者である事を伝える。
ネイラルグは机の上に置かれているシャルの編入手続きの書類を手に持った。
「シャリスティア・セイレーン。ここアルスタイン神聖術学園の編入試験の筆記試験、実技試験、共に神聖術の各分野をそつなくクリアした。良く言えばオールラウンドに神聖術を磨いている」
「お褒めのお言葉、ありがとうございます」
「おや、私の言葉に引っ掛からなかったかい?それともわざと聞かなかったことにしたのかい?」
ネイラルグはシャルの編入試験の結果を見てわざと良い言い方を強調した。それはシャルから悪い表現を尋ねさせたかったからだ。しかしシャルはその考えを察していたのでわざと尋ねなかった。
「聞いてしまうと編入初日から落ち込んでしまいますので今は聞かないことにします」
シャルは澄ました顔でネイラルグの挑発を一蹴した。
「そうか。私もこの成績を見て驚いたんだ。今まで筆記で神聖術の各分野に精通する学生は見てきたが実技まで各分野へそれなりに精通する者は見たことがない。まるでわざと器用貧乏を演じているようにも見えたんでね」
「実際に器用貧乏なだけです。教授が考える程大した人間ではありません」
ネイラルグは眼鏡のレンズ越しにシャルの顔を見た。腹の奥まで見通すような黒い瞳で覗くネイラルグにシャルは澄ました表情を変えずに淡々と答えた。
「そういうことにしておくよ。君の成績を考慮すると私が担当する一回生Bクラスに編入される」
「Bクラスですか」
この学園は筆記、実技の成績によりクラス分けされる。クラスはA~Eに分けられ各分野の突出した成績を基準としてクラス分けされる。
シャルは本来の目的のためにわざと器用貧乏な成績になるように編入試験を受けたが予想していたクラスより高い評価を付けられた。
「何か不満があるか?」
「いえ、まさか私の成績でBクラスにクラス分けされて少し驚いただけです」
「私としては各分野全てそこそこ良い成績を取った君はAでもおかしくないと思っているが学園の方針には一教授の意見は通らないからね」
ネイラルグはシャルのはらわたを見透かすようね視線で見るとシャルは謙遜したふりを通した。
「そういうことでこれからBクラスまで案内するから付いてきて。細かいことはBクラスへ行く道中で話す」
ネイラルグは部屋の扉へ進み扉の取っ手に手を伸ばした。
「分かりました。これからよろしくお願いします」
シャルはネイラルグに軽く会釈して扉を開けて外へ出たネイラルグに付いていく。
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