第五十話
数日後。ノクトの魔術により襲撃を受けて破損した箇所の大部分が修復された頃、ホホはノクトの前に現れた。
「先生。これを見て下さい」
ホホはノクトに分厚い紙の束を手渡した。手渡した紙の束にはびっしりと文字が書かれている。
「ここ一週間近くで行った調合手順をまとめました。その中で収率が三割を超えた手順だけをこの紙に書かれています」
ホホがノクトから与えられた難題の一つである特級魔力回復薬の収率の向上手順を見つけられなければノクトと旅の同行を許可しないという条件でホホは期限通り収率を三割以上の収率になる手順を見つけ紙にまとめてきた。
「読ませてもらうぞ」
ノクトはホホから受け取った手順をまとめた紙を読み進める。ノクトが黙々と読んでいる間、ホホは緊張で指先が冷えているのに心臓が早鐘を打っている。
黙々と読み進めるノクトは紙の束を捲りながらホホが一週間近く検討した調合手順を読み進めていく。
ノクトはホホからわつぁれた調合手順を読み終えるとホホの目を見た。ホホはノクトに見られて心臓が強く新にゅくするような感覚を覚える。
「未熟のクルプルの果汁で有効成分だけ反応を速くする考えは確かに新しい考えだ。だができた結晶から不純物を除去する工程がホホの書いた手順では不十分だ」
ノクトはホホが書いた新しい特級魔力回復薬の手順に不十分な点を告げる。ノクトから不十分な点を告げられた直後ホホは顔に陰りが見える。
「ホホ。今から一番収率の良い調合手順で調合できるか?」
「……え?は、はい試薬を揃えればすぐにできます」
ノクトから突然調合ができるか聞かれてホホは朧機で答えるのに間が空いた。ホホは試薬を揃えさえすればすぐに開始できるとノクトに伝える。
「ならすぐに試薬を揃えてくれ」
ノクトが試薬を揃えるようにホホに伝えると、ホホは小走りで試薬を集めに行った。
小一時間が経ちホホは調合に必要な試薬をすべて揃えた。
ホホが調合に必要な道具の前に座っているとその後ろでノクトが座りながらホホを見ていた。
「今から収率の一番高かった手順で結晶ができるまで調合してくれ」
「分かりました」
ノクトからの指示を聞いたホホは調合を始めた。
ホホは真剣な表情を浮かべて無言で調合していく。ノクトはホホの調合をする所作を見て随分と調合をしていると感じさせる最初に会った時より無駄の少ない動きで調合している姿に努力したのが伝わってくる。
ホホは全ての薬草を適切な処理を行い緑色の液体と紫色の抽出液ができてその二つを混合して湯煎を始めた鍋からクルプルの酸味成分が飛んでいきノクトの距離でも鼻につんと来る刺激臭が漂う。
ホホは鼻を押さえつつゆっくり酸味成分を飛ばしていくとしばらくして刺激臭がしなくなる。その代わり鍋底に青い結晶ができてくる。ホホは結晶ができ始めると湯煎から外して常温に放置する。
鍋から熱が逃げて常温になると青い結晶が鍋底に密集していた。
「先生。結晶ができました」
ホホは湯煎をした鍋にできた青色の結晶ができるとノクトを呼ぶ。ノクトはホホが持っている鍋にできた青色の結晶を見た。
「確かに今まで以上に有効成分の結晶が多くできてるな。ホホ。まずその結晶をすり鉢とすりこぎで荒めに砕くんだ」
「分かりました」
ノクトは鍋にできた結晶かき集めてすり鉢に移してすりこぎで砕いていく。結晶が砕かれ砂粒場まで砕かれた。
「まずはその状態で乾燥させるんだ。その後植物性の油でその粒上の結晶を浸けるんだ」
ノクトの指示通り粒上の結晶を乾燥させた後ホホは植物性の油を用意して小さな陶磁器製の容器に油と粒上の結晶を一緒に浸けた。
「ホホが調合して作った有効成分の結晶は油には溶けないが有効成分以外の不純物は溶けだす。その後にアルコールで結晶に付着した油を洗浄すれば不純物が除去できる」
ノクトが不純物を除去する方法を教授するとホホはノクトの指示した通り油に浸けて不純物を除去した結晶をアルコールで洗浄して自然乾燥させる。
自然肝臓させた結晶を薬包紙に包んだら天秤に乗せて分銅を使い計量した。
「これで収率はどれくらいだ?」
ノクトは計量して収率を計算しているホホに収率を聞いた。
「四割三分です」
ノクトの質問にホホは少し静かな声で答えた。
「まあ、確かホホがまとめた手順ではこの手順だと収率は五割三分。一割下がればそんな気持ちになるよな」
ノクトの言う通り、ホホは一割分も不純物が混ざった結晶に大喜びしていた事に悲しくなっていた。
「これで分かっただろ。最後の最後で気を抜いてはいけない。不純物が混じった魔力回復薬を飲んでいたらどうなっていたか。気付いてくれる人がいて良かったな」
ノクトの言う通りホホが作った魔力回復薬を飲んで何か体の異変が起きては遅い。ノクトが気付いてくれて本当に良かった。
「でもホホは約束通り収率三割の壁を越えた」
「え?」
「約束通り俺達の旅についてくるならついて来い」
ノクトはホホがノクトと交わした約束を守り難題の一つである特級魔力回復薬の収率の三割の壁を越えた。約束を守ったホホにノクトは旅に同行する事を許可した。
ノクトから旅の同行を許可されたホホは少し呆然としたがノクトから認められたのえお理解できると心の中で喜びが沸き上がる。
「……やった。やったーーー!」
約束通りノクトに自分の意志を証明できた事にホホは歓喜を上げた。
「村の建物ははほとんど魔術で復旧させた。この村は明後日に出るからそれまでに旅の用意をしておけ」
「分かりました!先生!」
いつも通りの元気な返事を返すホホはノクトが避難所の中央へ歩き始める。ホホはノクトが避難所の中央へ進んでいく後ろをついていく。
お疲れ様です。
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これからも投稿していきますので良ければ次話も読んで下さい。