第五話
アンリを攫った男が魔術師であることを告げたエドワードは無言のまま家の方向に足を進めた。
「どうしたんだよ⁉ジジイ!」
家の中に入るエドワードは書斎まで進み、手元に紙と羽根ペンを用意して紙に羽根ペンで何か書いている。
紙に書き終わると羽根ペンを戻し、書斎の机の中から翡翠色の宝石が付いたネックレスを手に取る。
書斎を出るとエドワードを追ってきたノクトとシャルと鉢合わせる。
エドワードは先程記した紙をノクトに手渡す。
「ノクト。お前は探知魔術でこのメモの魔術の術式を探知するんだ」
ノクトが手渡された紙には魔術の術式の一覧が書き記されていた。
どれもノクトは魔導書で見た事はあったが使用した事のない魔術ばかりだった。
「この術式は?」
「対象を探知する魔術を妨害する妨害魔術の術式だ。唯一、妨害魔術の欠点は妨害魔術の術式を探知する対象にすると妨害魔術に干渉せず探知ができてしまう。だからノクトは妨害魔術を探知することに専念してくれ」
エドワードは紙に書いた妨害魔術の術式の一覧を探知するようノクトに頼んだ。
「ジジイはどうするんだよ?」
ノクトはエドワードが何をするのか気になり質問する。
「俺はアンリを攫った男が魔術を使って探知範囲外まで逃走した可能性がないか、俺も魔術で移動しながら探知する。だからノクトは妨害魔術が探知できたらこれを使って俺に知らせろ」
エドワードはノクトに手に持っていた翡翠色の宝石が付いたネックレスをノクトに渡した。
「これは俺に遠隔で通信できる魔法具だ。これがあれば俺が探知魔術の範囲外の遠距離でも魔力を込めて頭の中で念じれば会話ができる」
魔法具の使い方を説明するエドワード。ノクトは手渡された魔法具を首にかける。
「私は何をすればいいの?」
シャルはエドワードに何かすることがないか質問した。
「シャルはさっきノクトが言ったように家で帰りを待つんだ」
「なんで私だけ何もしないで待ってなきゃいけないの⁉」
エドワードの意見にシャルは反論した。
シャルがエドワードの言った事に反論したのはこれが初めての事で傍にいたノクトは少々驚いた。
「じゃあ、シャルはこの状況で何ができる?今のシャルの力では正直、足手まといだ」
これはノクトが直接言わずシャルが傷つかないようにした事をエドワードははっきり伝えた。
今のシャルでは何も力になることはできない。今のシャルが一緒にいると邪魔になる。
シャルはエドワードが告げた現実を呑み込むしかなかった。シャルも心の奥では薄々分かっていた。
今の自分では二人の足手まといになる。それが嫌でエドワードに反論した。
しかしエドワードは冷静に現状を判断しシャルに現実を突きつけた。
シャルは静かに頷きエドワードの意見に了承した。
「それじゃあ俺は範囲外まで移動して探知し直す。だからノクトは妨害魔術を探知次第魔法具で俺に通信するんだ」
エドワードは家を出るため玄関に向かう。
「分かった。気を付けろよジジイ」
「気を付けて。お養父さん」
ノクトとシャルがエドワードに伝えるとエドワードは家を出た。
外に出たエドワードは転移魔術を発動させ魔法陣が足元に描かれた。
描かれた魔法陣が光を発し光の柱が立つ。
そして一瞬にして光が消えるとそこにはエドワードの姿はなかった。
妨害魔術を探知するため外に出ようとするノクトはふと視界に入ったシャルが唇を噛んでいるところを見てしまった。
今の自分では足手まといと言われ待つしかできないシャルの気持ちを察したノクトはシャルに声をかける。
「シャル。ジジイはシャルが心配でここに待機するように言ったんだと思う。ジジイは厳しいこと言ったけど、それだけシャルの事を案じて強く言ったんだ」
ノクトは優しい口調でシャルに思った事を伝える。
「だからシャルは俺達が無事帰ってくるのを待ってくれ」
シャルはノクトの胸に顔を埋めた。シャルは我慢しきれなかった悔しさの涙をノクトの胸の前で流した。
ノクトは優しくシャルの頭を撫でてシャルが落ち着くのを待つ。
落ち着いたシャルはノクトの胸から離れた。
「ごめん。ノクト時間取らせちゃって……」
シャルは赤く腫れている目元の涙を拭いノクトに謝る。
「シャルが落ち着いたなら良かったよ」
ノクトはシャルを落ち着かせるためとはいえ自分がした事に気恥しさが沸き上がる。
「それじゃあ、俺も外に出て探知魔術で探すよ」
顔に出てしまっている気恥ずかしさを見られまいと、そそくさと外に出るノクト。
「ノクト。さっきはありがとう。おかげで落ち着いた」
シャルはノクトにお礼を言う。
「礼なんかいいよ。アンリと無事に帰ってくるのを待っててくれ」
「分かった。待ってる。約束だから」
シャルはノクトに向けて微笑みを浮かべ約束を交わす。
お疲れ様です。
tawawshiと申す者です。
連続投稿の第二弾です。
今回も読んでくださり誠にありがとうございます。
次話も良ければ読んで頂けると幸いです。