第58話
足元に現れたのは巨大なワーム……。
ミドリバッタやクロハネコオロギは何故かツノウサギやスライム、オカクラゲよりも遭遇率が高いので、とっくに飽きてしまっていたので丁度いい。そろそろ違う系統の魔物が出てきてほしいと思っていたところだ。正直、魔石は何かの役に立ちそうだからいいんだけど、バッタの脚は矢の篦――シャフトのこと――にしかならないのでなんだか嬉しくなかったんだ。
だがこのワーム、ほとんどがまだ地中に埋まっている。
恐らく俺とミミルの足音などを聞いて地面からでてきたのだろうが、太さだけでも30センチくらいはあると思う。長さはもう見当もつかないな。地球のワームと違うところは、カタツムリのようにツノが出てくるところだ。恐らく、触覚にあたる部分なのだろう。
『ヌマベワーム、かむ、ひきこむ、まく』
「――そんな気がしてたよ」
名前はもしかすると日本語に翻訳されているのかもしないが、攻撃方法の説明は見た目でわかることばかりだ。
それよりも、厄介なところがいくつもある――それがワームという生き物なんだよ。
まず、心臓に該当するところが複数あること。
種類にもよるが3から9個あるとか聞いたことがある。こいつは大きいのでもっと心臓があるのかも知れないと思うと、ひと突きで……というわけにはいきそうもない。
また、自己再生能力が高いのも特徴。輪切りに切り落としたくらいでは死んだりしないのがワームの面倒なところだ。
でも、土壌改良には欠かせない――畑の味方である。
ヌマベワームは大きく身体を反らせ、更に地中から身体を引き出した。環体の付近から下の部分には1つの節にいくつかの硬そうな毛が生えている。これを土に刺して前に進む――スパイクの役目を持っているのだろう。
もしかすると、この太めの針のような毛を使って攻撃してくるかも知れない。
泥濘んだ場所はこのヌマベワームのテリトリーだ。
いつ背後から地下に隠れている残りの部分がでてくるかわからないし、他のヌマベワームがいれば更に襲われるかも知れない。
そう判断すると、俺はそっとミミルの袖を引いて沼辺から離れる方向へと後ずさる。
だがこのヌマベワーム、動きは鈍重なので逃げようとすれば問題なく逃げられる。
地中なら俺たちが逃げ切れないほどの速度で襲ってくるのだろうが、地上であれば俺たちの方が優位に決まっている。
「こ、こんなに遅いのか……」
『おもい、おそい』
土を食って生きているんだから、重量もそれだけ増えるわな……。
『くすり、ざいりょう』
「こんなのが薬になるのか?」
『ん――』
ミミルの反応を見るに、薬の材料として欲しいということだと思う。
ミミルなら一瞬で倒すことができるはずだが、これも俺に任せたいらしい。確かにヌマベワームのような巨大な環状生物を好む女の子――女性はそんなにいないと思うので、男性としてそんな役回りを引き受けるタイミングなのだろう。
その代わり、いざ強敵が出てきた場合は遠慮なく押し付けることにしよう。
俺はヌマベワームの頭の部分に右手の人さし指を向ける。
――マイクロウェーブ
心の中でそう唱えると焦げたような匂いが周囲を漂い、ヌマベワームが身を捩らせながら地面にその身を打ちつけ、魔素へと還っていく。
先ほどレーザーサイトを使った時に気がついたのだ。
”赤い光線”と口に出さずに唱えただけで、思った通りの――いや、自分の力でイメージするよりも細く真っ直ぐな光線がでたのである。
これは映画などで見たレーザーサイトのイメージが強くでているのだと思う。
そして、”マイクロウェーブ”は最初に電子レンジをイメージして電磁波をだしたのと同じ――英語圏での電子レンジの呼称を使っただけだ。ただ、”マイクロウェーブ”の場合はこれまでに俺が調べ、学んできた周波数と出力なども反映されているようだ。
”まほう、そうぞう。ぎのう、たいとく。おぼえる、ちがう”
はじめに加護を得たとき、ミミルが言っていた内容だ。
これはスキルとして体得したことを示すのか、それとも創造した魔法に名前をつけたことで安定して事象を発現できるようになったのか……。
ドロップした琥珀色の魔石をミミルが拾い、俺に手渡す。
『しょーへい、どうした?』
「あのさ……」
言葉にするのが難しいが、いま確認しておくほうがいい。
「これまでイメージをつくって発動していた”チン”あるだろ?
あれに名前をつけたら発動時間が短くなって、効果もアップしたんだ。
そんなもんか?」
『ん、そう。なまえ、つける、はやい』
ミミルは俺にそう伝えると、何もないところに向けて右手の人さし指を向ける。
「――ホコエ」
ミミルが声にだすと、いつもと同じ衝撃波が指先に発生する。心做しか、威力が強い気がするな。
魔力弾を打ち終えたミミルはこちらを見て、ドヤ顔を決めている。
見た目が幼いので頼りなく、じつに可愛らしい。
ともあれ、これからは積極的に名前をつけていくようにしよう――。






