ミミル視点 第40話(上)
風呂から出ると、しょーへいが腹が減ったと言って何かを持ってきた。先ほど買ってきたカップメンというやつだ。
『ミミル、たべる?』
「そうだな、確かに腹が減った。いただくとしよう」
しょーへいは同じ大きさ、形のふたつの容器を卓の上に置いて、部屋を出て行った。何やら辛子色で文字の書かれたものと、赤文字で書かれたものだ。
これはなんだろう……。
持ち上げてみるととても軽い。振ってみるとカラカラ、カサカサと乾いた音が中から聞こえてくる。
文字が読めれば中に何が入っているかわかるのだろうが、読めないので中身を想像することもできない。
しょーへいが戻ってくると、何やら壺のような形をした大きな容器を持っている。素材は金属でできているようで、黒くて太い紐が伸びている。
しょーへいはその黒い紐の先を壁にある穴に差し込んだ。
『これなに?』
『これ、ポット。ゆ、わかす』
これで湯を沸かすというのか?
壁の穴に差し込んだということは、恐らくデンキで動くものなのだろう。デンキというのはすごいものなんだな。
説明を聞いたときは雷も同じデンキなのだとか。
雷が自然現象であることくらいは私も知っているが、なぜ雷が起こるのかがわからん。これも是非教えて欲しいものだ。
『ミミル、こっち。いい?』
「ああ、問題ない」
私には赤い文字の方を食べさせるつもりらしい。辛子色の文字の方との違いがわからんが、まとめていくつか買っていたのでまた食べられるだろう。
お湯が沸騰する前にしょーへいは容器を包む透明な包装を剥がし、蓋を半分程度開いて準備している。
なにやら辛子色の容器の方は香辛料が効いたいい香りがする。
「これ、なに?」
『カップメン。これ、カレー、あじ。それ、とり、あじ』
しょーへいの方はカレーというものの味なのか。
私の分は鳥の味ということだな。
いや、ちょっと待て。
しょーへいは全部声に出すから、言葉は私の耳と頭の両方に聞こえるのだが……。
『それ?』
『ちかい、これ。とおい、あれ。だれ、ちかい、それ』
おお、そうか。ということは……。
『これ』
自分の目の前に置かれた赤い文字のカップメンを指さして言ってみる。
『それ』
しょーへいの前にある辛子色の文字で書かれたカップメンを指さす。
『ただしい。ミミル、えらい』
「私は大人だからな。これくらいすぐに理解できる」
そう、私は大人なのだ。
しょーへいから見れば、見た目は子どもなのかも知れんが、そこだけは認めて欲しい。
だが、また何やら温かい視線で見つめられている気がする。
あ、口が尖ってしまっているではないか。これが原因か!?
そうしている間にもポットから轟音が聞こえ、止まった。湯が沸騰したのだろう。
しょーへいは、私の分から先に湯を注ぎ、蓋を閉めると、ポケットから小さな板を取り出してまた突付いたり、撫でたりしている。
『おと、まつ』
首肯して返事を済ませるが、そもそも何をしているのだ?
これは湯を注ぎ、時間が来れば食べられるものなのか?
粥を作るにも煮込まねばならんだろう。味付けは……何やらいろんな香りがしていたから既に済まされているのかも知れんが、湯を入れただけでは米も麦も硬くて食えぬはずだ。
『これ、なに?』
『カップメン。ゆ、いれる。まつ。たべられる』
やはり、湯を入れるだけで食べられるものなのか?
確かに蓋の隙間から漏れ出てくる香りは素晴らしい。しょーへいの容器のものは香辛料の香りが何故か食欲を唆るし、私の分からは鳥やエビの香りに何やら芳醇な――たぶん調味料の香りがする。
それに、その小さな板は何なのだ?
やはり気になって仕方がない。
時計になるようなことを言っていたが、時間が来ると音が鳴るのか?
しょーへいのポケットに入っていた小さな板が音を立てる。やはり時間がきたら音が鳴るようになっているんだな。丁寧にもしょーへいが蓋として貼られていた紙……のようなものを剥がして、カップメンをそっと差し出してくれた。
赤く丸いのは小さなエビ、黄色いのは卵か。
四角く切られた……肉のようなものが二種類入っている。あとはネギの類。
その下にはうねうねと丸めて固められたものが入っている。
しょーへいを見てみると、2本の木の棒でグリグリと混ぜ合わせてから食べるもののようだ。もちろん、私もしょーへいの真似をして2本の棒を握って捏ねくり回すように混ぜ合わせる――汁が跳ねるな。
なにやら、先ほどよりもいい匂いがする。特にしょーへいの分は甘さや辛さ、酸味などが想像できない香りがして魅力的だ。
くそう、違うものを食べると気になるではないか……。
私が食べにくそうに2本の木の棒と格闘していると、それを見たしょーへいが立ち上がり、部屋を出ていった。
隙を見せたのが悪いのだよ……。
木の棒を駆使して、2本ほど紐状になったものをしょーへいの容器から奪い、口の中にいれて――。
辛いっ!
口の中が痛いというわけではないが、辛い。
辛いものに慣れていない私には辛すぎる……。
欲張って食べるんじゃなかった……。






