第7話
まぁ、別に馬鹿にするようなことじゃない。
いまでこそ蓋を開けて中に衣類を放り込んだら、ボール状の洗剤を入れてスイッチを押すだけで乾燥までやってくれる世の中だけど、100年前に国産洗濯機はなかったし、1960年代までは多くの家庭では洗濯板を使って手で洗っていたんだから。
それに、俺たちからみた異世界なら、洗濯魔法みたいなのもあるんだろう。
「生地にもよるが、洗濯機で洗えばいい。手洗いモードで洗って……靴脱いでくれよ」
俺は扉を再度開いて、ミミルを家の中に案内するのだが、土足で上がらないようにここで注意しておいた。
実際に俺がサンダルを脱いで入ったので、ここでは脱がないといけないことくらいは理解しただろう。
彼女が履いていたのは、膝下くらいまでの長さがある黒っぽいブーツだ。
ただ、見た感じかなり汚れている。ダンジョンの中にいたのだから、怪物なんかとも戦っただろうし、それで汚れた上に土埃なども被っているから仕方がない。
これはどうしたらいいものか……
両方のブーツを脱ぎ終えたミミルが家の中に一歩踏み入れた。
とても薄手の生地でできた靴下を履いている。絹やウールのようなものではないので、リネンかコットンだな。
そういや、ブーツを脱いでもらうのを待ってて、説明が止まっていた。
慌てて再度説明を始める。
「服は、ここの中に入れてこの洗剤を入れる。あとは、これを押すと全部やってくれるぞ」
「ノネッ!」
ミミルが理解できない言葉を発した。
見ると、目を大きく開いて口をパクパクと動かしている。
やはり彼女がいた世界には洗濯機がないのだろう。
俺が洗濯機のボタンを親指でぐいと押すと、ガチャッと音がして丸い扉が開いた。
「ほら、洗うものを入れてくれよ。先に洗剤、入れておくから」
すると、ミミルは顔を赤くして、なにやらもじもじとし始める。
ああ、下着があるんだから見られたくないってことね。そりゃそうか。
『きかい、なに、うごく?』
「洗濯機は、電気で動くんだ。それよりも、先に風呂の使い方を教えようか」
『でんき……』
電気がわからないのだろうか?
やはり何でも魔法でやってしまうぶん、科学が発展していないのかな?
まぁ、まだお湯はりをしているけど、先に風呂の使い方を教えないとな。
「これがシャンプー」
俺は風呂場にあるシャンプーを手に持って見せると、髪を洗う仕草をする。
髪を洗うためのものだということは伝わっただろうか?
ミミルがこくりと頷いた。
髪を洗うための石鹸だと伝わっているのかな?
「こちらがコンディショナー。シャンプーのあとに使うものだ」
シャンプーを置いて、隣にあった乳白色のペーストのようなものが入っているものを持ち上げて見せると、ポンプを押して中身を手に取る仕草をしてから、髪に塗って流すようなジェスチャーをしてみせた。
『なか、ちがう?』
見た目は同じような容器だし、仕草は同じなので違いがわからないかな?
「シャンプーは石鹸のようなもの。コンディショナーは石鹸をキレイに洗い流すためのものだな」
ミミルは唇を少し尖らせてシャンプーとコンディショナーをじっと見つめる。
左右のどちらがシャンプーで、どちらがコンディショナーなのかを覚えようとしているのだろうか?
「あと、これがボディソープ……液体石鹸な。身体を洗うやつ」
『えきたい、せっけん……』
固形のものしか見たことがないなら、この反応も理解できるな。
やはり、異世界の方が科学文明の発展は遅れているのかもしれない。
ちなみに、俺が使っているシャンプーやコンディショナー、ボディソープは特に男性用というわけじゃない。
大手のメーカーが作っている一般家庭用のものばかりだ。
「ここを捻れば、温かいお湯がここから出る。髪を洗ってから身体を洗うといい。
あと、バスタオルは……これな」
シャワーの使い方を教え、最後に畳んで収納してあったまだ新しいバスタオルをとりだして洗濯機の上に置いた。
風呂からあがってすぐに手に取れる位置にある。
ミミルは俺の方を見て、こくりと頷く。
これも名詞と動詞だけになって伝わっているのかも知れないが、頷いた以上は大丈夫なのだろう。でも、一応は質問を受け付けないといけないだろうな。
「お風呂まわりは以上。何か質問あるか?」
『ん、ない』
ミミルからの返事が頭の中に直接届いた。
よし、あとは、洗濯機だけだな。
「洗い物を入れたらこの蓋を閉めて、ここのボタンを押すんだ。いいな?」
『しめる……ここ、おす……』
「じゃ、ゆっくりしてていいぞ」
最後にそう伝えると、俺は脱衣場から出て扉を閉めた。
まだ厨房が使えないし、晩めしは外食のつもりだったのだが、ミミルの分も必要だろう。
連れ歩くには目立つから、どこかで弁当でも買ってくるとしよう。