第34話
『しょーへい、それ、べんり。でも、てま』
「ああ、そうだな……」
とうとうミミルに指摘されてしまった。
残念だが、いまの電磁波攻撃では動く魔物に対しては使いにくいので、とにかく動きを止める必要がある。そこから脳を破壊しても、心臓なり呼吸をとめるという作業がついてくる。
強力な攻撃なら一撃で済むことを三回に分けていることになるのだから、手間だよな。
ただ、少しずつだが発動時間が短くなっているような気がする。
これも魔力制御の練習の賜物だろうか?
それとも何度も使うことで少しずつ加護が身体に馴染んできているとか、習熟度が上がっているとか、そういう理由だろうか?
「ミミル、少しずつ発動速度が上がっている気がするんだが、気のせいだと思うか?」
『まほう、つかう。イメージ、なれる、はやい』
そうか、魔法はイメージだから何度も使うとそれだけ早くイメージできるようになってくるということなんだな。
ある意味、習熟度があがったということか。
「なるほどなぁ……ところで、この皮はどうする?」
『ぼうぐ、そざい』
ミミルに取り上げられたよ。
何か作ってくれるのかね?
確か、アメリカの寒冷地仕様のフライトジャケットでもコヨーテの毛皮が使われているはずだ。
そういう意味では、別にオオカミの毛皮を使うこと自体に違和感を感じないな。
最近のフェイクファーは本物そっくりだしな。
『つぎ、いく』
「ああ……」
短い言葉を交わし、ミミルの後に続く。
またしばらく歩いていると、俺の音波探知にツノウサギよりも小さな反応を見つけた。スライムやオカクラゲとは動き方が違う。あっちにコソコソ、こっちにコソコソという感じでとてもすばしこいのが五匹いる。
「まさか、ここにもヤツがいるのか?」
『なに?』
つい気になって声に出してしまった。
ヤツとは――俺たち飲食店を営むものにとっては、永遠の敵。
黒くてギトギトとした油を纏った羽をもつアレなんだが、ミミルに言ってわかるのだろうか?
「G……俺たちはそう呼んでいる」
『……ここ、いない。かみつきねずみ、たぶん』
「――ッ!」
そういえば、ネズミも敵だ。俺の店は特に古い家なので、奴らにとっては隠れ住むにいい場所のはず。
とはいえ、当然対策は済ませてある。
ダンジョンに棲むカミツキネズミとやらは、どんな生き物なんだろう。イエネズミに近いよりは、ハムスター系の方が嬉しいんだが……。
ちなみに、Gは三センチ未満の隙間に潜む習性がある。
俺の店は厨房機器、その他すべてに五センチは間隔をあけて置くようにしてあるので、Gの棲家がない。実はこれだけで、発生率は大きく下がる。
『わたし、いく。あと、くる』
すばしこいネズミ相手だと、俺の電磁波攻撃は通用しないことにミミルは気づいているのだろう。
先に、魔力を打ち込んでおいてくれるつもりのようだ。
何度か背後から見ているが、ミミルの攻撃は拳銃で連発するよりも早い。すごい安心感がある。
衝撃波のようなものが出ているのに、音が聞こえないのは不思議だがどういうことだろうか……また尋ねることにしよう。
ミミルの横に並んだときにはもう五匹のカミツキネズミは気絶して倒れていた。
お見事としか言う言葉がない。
「止めね、はいはい」
恐らく、より習熟度を上げさせるために俺に止めを譲ってくれているのだろう。それに、レベルのようなものがあるのなら、止めを刺して歩くだけでレベル上げにもなるのかも知れない。
昨日つくったカードにはレベルなど表示されていなかったが、もしかするとレベルという概念が存在するのかも知れないな。
脳を破壊していると時間がかかるので、心臓に電磁波を当てて止めを刺すことにした。
いままで三度手間だったのが、これで二度手間程度には改善されたはずだ。
それにしても、このカミツキネズミの顔は明らかにハムスター系だ。
やはり口の中に食べ物を大量に詰め込む習性があるのだろうか?
魔素が霧散し、消滅したときにコロリと小指の先くらいの大きさの石が落ちた。これは……
「大きな砂金?」
『ん、きん。カミツキネズミ、め、わるい。もの、くち、いれる』
習性もハムスターに似ているんだな。
奴らの場合は食べ物だと思ったらまず噛み付くし、そのあとは頬袋に詰め込んでしまう。
金は匂いはしないはずだが、他のものは匂いがするから余計に口の中に入れてしまったのかも知れない。
この大きさ――五〇センチはある――なので、これくらいの金の塊もそんなに重いと思わないのだろう。
残念だが、他のハム……カミツキネズミから金は出なかった。
毛皮が二枚出たが、これもまたミミルに取り上げられた。
『かわ、のびる。かんせつ、つかう』
なるほど――部位によって皮を使い分けるんだな。よく考えているが……それは俺の服ですかね?
だとしたらちゃんと、脂とか取ってしっかり下処理していないと臭いし、カビも生える。大丈夫なのか?
少し心配だ……。






