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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第54章 レセプションそして開店へ

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第537話

 賄いという名のレセプションの残りものを食べる会が終り、それぞれが帰宅の途についた。

 食事が終った時間が22時ということもあり、小学校4年生の陸くんは途中で眠ってしまった。お姉ちゃんの陽菜ちゃんも眠そうにしていることだし、裏田家はタクシーで帰宅してもらった。


「駅前に自転車置いてますねん」

「そう言われてもなあ……」


 赤い顔をして、自転車に乗って帰ると言い出す裏田君を納得させるのに少し苦労した。自転車であっても飲酒運転なので切符を切られるぞと言ったら大人しくなった。次になにか違反切符を切られると免停になるのかも知れない。

 バイト2人組もいい感じで酔っていたが、タクシーは不要だと断られた。

 まあ、岡田君は徒歩圏内だし、本宮君も駅から近いらしいので良いのだろう。

 問題は田中君だった。帰国後、仕事にも慣れてない状態で疲れが溜まっていたことや、レセプションの司会という大役からの解放というのもあって一気に酒がまわったようだ。少量で出来上がると、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。

 うちにはミミルがいるので俺が変なことをするという心配は誰も持っていなかったので、仕方なく、本当に仕方なく俺の部屋で寝かせつけた。

 お姫様抱っこをしても、ダンジョンで最適化された俺の身体なら全然問題なく部屋まで運ぶことができた。


「電車がある間に起きてくれればいいんだけどな」

「ん、しょーへい、きけん」

「俺は別にそんな気分にはならないさ。とりあえず、風呂を入れるとするかな」


 俺が立ち上がると、何故かミミルがついてきた。

 風呂はいつものように出る前に洗ってあるので、ボタンを押すだけだ。


「すぐに風呂は沸くと思うぞ」


 俺は先に1階の客席へと移動し、カウンターでまたビールを1杯注いで入れると、縁側にあたる場所に腰を掛け、庭を眺めた。


「しょーへい、ずるい」

「ああ、ミミルも飲みたい……よな、何がいい?」

「ほそい、ながい、しゅわしゅわ」

「んあ、カヴァか。ちょっと待ってろ」


 仕方がないのでビールが入ったグラスを置いたまま、俺はカウンターへと移動してシャンパンフルートを取ると、空間収納から取り出したカヴァを開けて注ぎ入れた。ビールはいいが、店のカヴァを開けて半端に残すわけにはいかない。

 そのまま、また窓際に置いたグラスのところへと移動し、俺はまたどっかと座り込んだ。なぜかミミルが真似するように俺の横にきて座った。


「なんだ?」

「しょーへい、監視する」


 確かに2階には俺よりもひと回り若く、胸も大きな女性が眠りこけているが、俺にはそんな気が全く起こらない。ダンジョン内では精子、卵子が死滅してしまうと言っていたが、それだけではないと思う。少なくとも、俺の場合は性欲まで抑え込まれている。


「だから、そんな気は全く起きないから気にしなくていい。だいたい、日本ではそういうのをセクハラ――性的嫌がらせと言うんだ。俺が警察に逮捕されたりしたら、ミミルも困るだろう?」

「ん、困る」

「だからそういうことはしない。安心していいぞ」

「モモチチがする」

「こんなおっさんに彼女が魅力を感じるわけがないだろう。さあ、それ飲んだらお風呂に入っておいで」


 なんだかミミルが不満げな顔をして俺を見つめている。言いたいことがあっても、まだ日本語で伝えられない……そんなもどかしさを感じているのが見てわかる。


『何か言い足りないことがあるのか?』

『しょーへいはいいのか?』

『なにがだ?』

『その、つ、(つがい)はいらんのか?』


 一瞬、ミミルは何を言っているのだろう、と俺は思った。

 俺はダンジョンに最適化されたことによって、不老不死に近い身体をもつ唯一の地球人になった。その結果、俺とミミルは田中君や裏田君をはじめ、出会った人たちが老いて召されていくのを見送り続けなければいけなくなった。

 それはとても辛いことなので、俺とミミル、2人で支え合って生きていこうと約束したのだ。

 でも、()()()()()()()という手段があることでその前提条件が崩れていることに俺は気が付いた。

 俺とミミルが互いに支え合うというのは、あくまでもエルムヘイムにミミルが帰れないことが前提だ。


『もしかして、エルムヘイムに帰ることができたときのことを考えてるのか?』

『それもある。モモチチはチキュウの男から見ればとても魅力的ではないのか? 今日、来ていた他のニンゲンの男たちから何度も声を掛けられていたぞ』

『まあ、独身男性から見ればかなり魅力的だろうな』

『しょーへいはどうなのだ?』

『俺にとって田中君は部下であり、仲間だ。それ以上の感情はない。それよりも、これから長い時を共に過ごすミミルの方が大切だ』

『いや、そ、そうではなくだな……』


 ミミルが頬を赤らめて俺の二の腕を殴った。もちろん痛くもなんともない。


『エルムヘイムに帰る手段があるというのに、それでいいのかということかい?』

『そ、そうだそれだ』

『それはその時に考えるさ』


 ダンジョンの種を得るにもどれだけの残飯が必要かさえわからないし、残飯で良いのかもわからない。俺は焦っても仕様がないと思うんだ。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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