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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第54章 レセプションそして開店へ

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第535話

「そういえば、人を連れて来てくれるとか言ってなかったっけか?」


 藤田にたずねると、少し残念そうな表情で藤田は返事をした。


「さすがに急すぎたみたいで、来られへんって言うたはったわ。でも、昼間とかやったら自転車にのってブラブラと店探しとかしはる人やさかい、営業開始後に来はるんちゃうか」

「へえ、気さくな人なんだな」

「うん、むっちゃええ人やから付き合いがある方がええよ」

「すまんな、気を遣ってもらって」

「いや、ほんまかまへんから。それより、秦さんとは既に知りおうてたんやな」

「そうなんだよ。店の前で偶然会って、そのあと三条の喫茶店で会ってってしている間にミミルを気に入ったみたいなんだ」

「それはまた……」


 少し呆れたような口ぶりで話す藤田を俺は肘で小突き、続きを促した。

 藤田は少し小声になった。


「重鎮とパイプができとるがな」

「そうなのか?」

「市場の刃物屋とかは500年近い歴史があるさかい、秦さんとこは老舗と呼ぶにはまだ歴史の浅い印象があるけど、この辺りでは有名な店やで」

「確かに……」


 俺は藤田から目線を外し、椅子に座ってミミルと一緒にパンナコッタを食べている秦さんを見た。

 少なくとも、いまの様子を見る限りは人の良いおばあちゃんにしか見えない。


「あの子が高辻の娘とはねえ……全然似てへんなあ」

「ほんまや」


 俺と藤田の会話を聞いていたのか、松本と佐々木が俺を揶揄うように言う。


「ほんまに似んでよかったな」

「しみじみと言うの、やめてくれないかな」


 わざとだと思うが、藤田も俺を揶揄(からか)った。ミミルの母親のことも少し話しているので、本当にこの場を盛り上げることを狙って言ってるのがよくわかる。


「高辻、ピザがあらへん」


 長谷川が眉尻を下げて残念そうな顔をしていった。普通は遠慮して少し食べてから来るものだが、食べる気満々で来たようだ。


「じゃあ、2枚ほど焼いてくるよ。みんなゆっくりしていってくれ」


 返事として長谷川に声を掛け、調理師学校仲間全員へ目を配る。

 仕様がないという顔をする残りの3人だが、長谷川だけが期待を込めた目で俺を見ていた。

 この食いしん坊な感覚はミミルに通じるものがある。


 俺は厨房に戻ってピッツァを焼いた。1枚はマルゲリータ、もう1枚はクワトロフォルマッジ。焼けたら給仕用の木製パドルの上に移し、ピザカッターで12等分にカットして客席へと運んだ。

 俺が厨房に入っている間、学校仲間の四人は思い思いに料理を食べていた。


 開始から二時間が経ち、そろそろレセプションパーティも終わりだ。

 田中君に呼ばれ、俺から再度出席者の皆さんに謝辞を述べる。


「皆さま、本日はお忙しい中、当店のレセプションパーティにご参加くださり、本当にありがとうございました。ここにいる友人たちと共に調理師学校で学び、卒業後は10年ほど南欧を渡り歩き修行してきました。昔から続く古い町並みを大切にする南欧の人たちを見て、いつか自分も故郷の町で町家を改装して店を持ちたい……そう思うようになりました。

 そして、皆さまのお力添えにより、いよいよ明日、開店を迎えることができます。ここに改めて感謝申し上げますと共に、末永くお引き立てを賜りますよう、よろしくお願いします」


 俺が話を終えると、パチパチと拍手が起こった。

 緊張していたせいで視線が定まらなかったと思うが、緊張している俺のことを見てニヤニヤと笑う藤田や長谷川の顔だけは忘れない。

 最後に司会進行をしてくれた田中君から、閉会の挨拶が行われるとレセプションはお開きとなった。


「今日はありがとうございました」

「いえいえ、美味しかったです。今度はお金払って食べに来ますよって、よろしゅうお願いします」


 ベランダに避難梯子をつけてくれた林さんが赤い顔をして挨拶に来てくれた。お土産の入った紙袋を手渡し、返事をする。


「はい、ありがとうございます。お待ちしてます」


 嬉しそうに手を振って出て行く姿は、酔っていても相変わらずだ。

 他にも挨拶に来る人たちにお土産を手渡し、軽く雑談をするとみんな気分よく帰っていった。


「なんや、もうお終いどすか」


 ちょっと寂しそうに、でもいつもの張りのある冷たい声が聞こえた。

 目線を向けると、そこには秦さんがいた。


「ええ、楽しい時間というのはすぐ過ぎてしまいますね。ミミルの相手をしてくださって、ありがとうございます」


 ミミルに聞かせると、相手をしてやったのは私の方だ、と言い出しそうだ。


「うちもそれが楽しみで来たさかい、それはええんよ。ほんで、明日の開店は何時どす?」

「11時半のランチタイムから営業する予定です」

「お昼過ぎやったら毟りに来てもええんかいな?」

「毟る?」


 一瞬、何のことかと思ったが俺もすぐに気が付いた。


「そうですね、お昼過ぎてからならいいと思います」

「ほな、楽しみにしてるわ。えらいおおきに」

「こちらこそ、遅くまでありがとうございました」


 秦さんや他の招待客、同窓生4人組など皆が帰った頃には、21時をとうに過ぎていた。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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