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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第54章 レセプションそして開店へ

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第532話

 1時間と少し掛けて店に戻り、まずはミミルを2階へと向かわせた。

 このあと別の用事が残っているので、急ぎそれを済まそうと思ったのだが店を出たところで女性に声を掛けられた。


「こんにちは、関西エフマガジン社の亀田と申します。オーナー様でよろしいですか?」

「ええ、私が店主の高辻ですけどなにか?」


 丁寧に差し出された名刺を受け取り、俺は自然な態度で接するように心がけた。


「弊社で発行している月刊誌に新店オープンの紹介をするコーナーがありまして、そこで紹介させていただけないかとお邪魔しました。いかがでしょう、新店の取材をさせていただけませんか?」

「ああ、ありがとうございます。取材は問題ないのですが、このあとレセプションの予定があって、明日以降でお願いしていいですか?」

「ええ、それはもう。明日にでもチラシにある電話番号にご連絡させていただきます」


 亀田という女性は丁寧に頭を下げて出て行った。

 宣伝広告はとても大事だが、お金を払わずとも雑誌に掲載してくれるというのはとてもありがたい。

 ただ、開店1日前というタイミングでやってきたところをみると、取引業者が手を回してくれたのかも知れない。よくあるパターンだと、酒造業者からの紹介で雑誌系の取材、ガス会社からの紹介でテレビ番組の取材に繋がることが多いらしい。そのあたり、意外に藤田や調理師学校時代の友人が気を配って紹介してくれたのかも知れない。


「裏田君、他にも取材の申し込みはあった?」

「電話が何本かありましたわ。17時頃にまた電話を貰えるように言うときました」


 チラシの配布はしているが、こちらから特に開店日などを伝えていないことを考えると、やはり誰かが手を回してくれたと思うのが正解だろう。


「ありがとう。悪いけど、営業許可証を取りに行かないといけないから、もう少し頼む」

「大丈夫ですよ、行ってらっしゃい」


 営業許可証の発行は検査終了から数日はかかるのだが、混みあっているという役所側の理由で検査が遅れたので、なんとか今日のうちに発行できるように少しゴリ押ししていた。その結果、今日の夕方には準備するという返事をもらっていたので受け取りに向かった。

 飲食店の営業許可窓口は店を出て、まっすぐ北に上がったところ――御池通り沿いにあるので、そんなに時間は掛からない。

 建物に入って受付で交付場所を確認して窓口へと行くと、意外に人が少なかった。飲食店の営業許可は市で一か所に集約されていて、他区で営業を始める人も受取りに来ているものと思ったが、そうでもないらしい。実際、営業は午後からだから午前中に受け取りに来る人が多いのかも知れない。

 番号札を発行する機械で予約番号を発行すると、すぐにその番号が呼び出され、受け取り手続きになった。特に指摘、改善事項もなく晴れて明日から営業できることになった。

 帰りに額縁の店に立寄って丁度いい大きさの額縁も購入して店に戻った。

 なんだかんだと1時間弱は掛かってしまったが仕様がない。


 店に戻ると時間はあと少しで十七時というところだったので、俺は店の前に並んだフラワースタンドの向きを独りで変えていった。

 普通の人だと少し苦労するくらいの重さがあるのだが、ダンジョンに最適化された俺の身体能力であれば容易いものだ。軽く地面から浮かせて手で向きを変えて下すだけの単純作業にしかならなかった。


 パンパンと両手についたホコリを払い、改めて店の外装を確認する。


 どうやら俺がミミルを迎えに行っている間にも花が運ばれてきたようで、朝よりもスタンドの数が増えていた。


 独立することを決めてこの街に物件を探しに来たのは年明けのことだった。

 いくつか京町家は売りに出されていたのだが、状態が悪くてリノベーションに向かない物件、良くても手狭で店を営むには厳しい物件、駅から遠くて収益が見込みにくい物件……色々と探してこの物件を見つけたのが4か月半ほど前のことだった。

 昔ながらの構造なので、柱の下に基礎など作られていない。束石が置かれてその上に柱が立っているだけという建物だったので、基礎からやり直してもらった。でも外観は買った当時と変わらない。そこに開店祝いの花がずらりと並ぶのを見ると、とても感慨深くもなる。


 いよいよ明日は開店だ。


 店に戻ると、岡田君、本宮君も既に出勤を終えていた。

 購入してきた額縁と営業許可証を岡田君に手渡してレジ横に飾るようにお願いすると、俺は厨房に入った。


 準備は8割方完了していて、あとは時間が来るのを待つばかりという状態だった。


「裏田君、田中君、準備ありがとう。あと1時間ほどでレセプションが始まるけれど、肩の力をぬいて気楽にやっていこう」


 俺の言葉に2人は「はい」と短く返事をした。

 その返事に既に力がはいっている感じが満載で、今から心配になってしまう。

 とはいえ、残り時間は1時間。取材の電話に出て、軽く予行演習をするだけで時間はあっという間に過ぎてしまった。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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