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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第53章 メニュー完成

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第529話

 ミミルは日本語の勉強と、皮の鞣しなどの作業があるので第19層へ行くことを選んだが、特に俺がついて行く必要はないと言われた。

 俺はそのあと1人で風呂に入り、久々にベッドを占有して眠った。

 なぜかなかなか寝付けなくて困ったが、ダンジョンを攻略したことでまだ俺の中では興奮しているのかも知れないし、店のレセプションが不安なのかも知れない。

 不思議なのは朝、目が覚めるとベッドの左側のスペースが大きく空いていたことだ。そこはミミルの定位置だった。


 俺もミミルとの生活にだいぶ慣れたってことだ。


 実際にはこのベッドで寝たのは数回しかない。ダンジョンから出てきたら朝だというのが普通だったからだ。

 時計を見るとミミルがダンジョンに入ってから6時間ほど経っていた。俺は顔を洗って一旦着替えを済ませ、朝食の準備に取り掛かった。

 昨日と同じように野菜のブロードを仕込む。様々な料理に加えるだけ美味しくなるのでとても便利なスープストックだ。


 この後、ダンジョンの第19層にミミルを呼びに行けば、ミミルは食事を終えた直後かも知れない。いや、第19層は夜かもしれないので、朝食を食べるという感じではない可能性もある。

 一方、南欧では朝食はとにかく甘いものを食べる。日本でも流行したマリトッツォはカプチーノと共に朝食として食べるモノだし、チュロスとホットチョコレートなんかも良い例だ。

 だから、今日の朝食は甘いものにしようと思う。もしミミルが既に食事を済ませたあとであっても、ドルチェがわりに甘いものを食べてもらえばいいから問題はないはずだ。


 俺は麺打ち台の上にセモリナ粉、卵、塩を混ぜて練り上げた。これを30分ほど寝かせておく。


 その間に、ピッツァ生地の仕込みに入る。

 今日のレセプションの招待客は約50人。全員が出席しないにしても、30人分は用意しておかないといけない。パスタ生地も念のため50人分は打っておきたいところだ。


 流石に麺打ち台の上で1つひとつ生地を作るわけにいかないので、人数分の分量をボウルに入れてミキサーで混ぜ合わせるところから始める。とはいえ、1回で15人前くらいの量が限界だ。

 材料を混ぜ合わせた塊ができたら、それを手で棒状に伸ばし、スケールで量りながら1枚分の大きさに切り分けていく。

 ここからが大変な作業で、1人前ずつ麺打ち台に叩きつけ、練り上げる。表面がつるつるとしてくるまで叩きつけ、練ってを繰り返す。

 普通の人にとっては重労働だが、ダンジョンで身体能力が向上している俺からすれば大した作業ではなかったりする。


 15枚分のピッツァ生地を丸め終わったところで、先ほど寝かせた朝食用の生地を取り出し、麺打ち台の上で麺棒をつかって平らに伸ばしていく。

 厚さ1ミリ程度で均等に伸ばしたところで、切ったペコリーノ・ロマーノを並べ、上にレモンの皮を載せたら、残った生地で蓋をしてラビオリ型で抜いていく。


 時計を見るとちょうど1時間ほど経っていたので、俺はミミルを呼びにいくことにした。


 ダンジョン第19層にある転移石がある入口部屋にミミルはいた。管理者でも直接出口の方に行くことはできない(次の層の入口から移動することになる)ので、ミミルも気を遣っているのだろう。


 部屋の中にはいくつか大きな(かめ)のようなものがあった。

 植物性のタンニンを用いて作る鞣し液は煮た樹皮の匂いがする。タンニンというと柿渋を思い出す人がいると思うが、皮革製品には主にミモザの木を使って鞣し液をつくる。

 鞣した皮革が乾いてしまうと硬くなるので仕上げに加脂材を用いる。例えば羊脂であるラノリンなどは甘い香りがする。それらが混ざってあの皮革製品特有の香りを生んでいる。魚油を使っていたり、古くなった鞣し液を使いつづけているところの製品は臭いらしい。

 第19層の入口部屋は、その鞣し液の匂いが充満していた。ダンジョン内なので腐ることがなく、ファルの皮から作っただろう加脂材が甘い香りを振り撒いている。


「ミミル、朝めしを食べないか?」

「ん、食べる」


 声を掛けると、すぐに返事が返ってきた。

 皮を鞣している瓶や大きな砂時計、テーブルや椅子代わりの丸太を仕舞い、ミミルが準備を終えるのを見ていた。


 真面目に皮を鞣すには1か月くらいかかるので、こうして中断するならミミルにも時計がある方が良いのかも知れない――と考えながら先に地上に戻った。


 厨房に戻ると、鍋にラードを入れて型抜きしたラビオリを入れてキツネ色になるまで揚げる。

 油を切って、皿に盛りつけたら蜂蜜をたっぷりと掛ける。サルディーニャ島を代表するお菓子、セアダスの出来上がりだ。


 熱々で湯気の出るセアダスが載った皿をミミルに差し出し、俺もナイフとフォークでセアダスを切って口に頬張る。

 パリッと揚がった熱々のラビオリ生地の中から、トロリと山羊乳のチーズが溶け出す。チーズの塩気が強く、独特の匂いが口の中に広がるのだが、蜂蜜がそれを包み込んでしまう。

 ふと目を向けると、ミミルも幸せそうにセアダスを頬張っていた。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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