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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第53章 メニュー完成

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第526話

 空間魔法Ⅴによる転移は、転移先にあらかじめ魔力の糸を繋いでおくようなイメージが必要になるとミミルは言っていた。

 実はこれには問題がある。魔力の糸は、本人がダンジョンの他の層に移動してしまうと切れてしまう。つまり、地上で俺の車や借りたマンションに糸を繋いだところで、ミミルが昼間にダンジョンに入ってしまうと使えなくなってしまう。だから、ミミルがダンジョンに入れるのは建前上、学校が休みになる土日だけということになる。

 ここまで学校にいろいろと制限を受けるのなら、いっそのこと本当にミミルがインターナショナルスクールに通うとどれだけ楽なんだろうと思うが、ミミルに国籍や戸籍が無い以上は入学できない。つまり、どうにもならない話だ。


 帰りに少し遠回りをして、出町柳の商店街によって買い物を済ませると、車を走らせて店の前に停めた。


「ミミルは先に入って待っててくれ」

「ん、にかい、もどる」


 静かに隠し階段を上がっていくミミルを目で追った後、厨房の中を確認すると田中君がこちらを覗いていた。


「ん、どうかしたのか?」

「い、いえ。なんでもないですよ」


 田中君はどこかにまにまと笑みを見せ、オーブンの前に戻っていった。

 明後日オープンを迎えるというタイミングで直接俺に相談しないといけないようなトラブルでもあったかと少し心配になったが、杞憂だったようだ。


 とりあえず車を駐車場に預け、戻ってくるとちょっと遅めの休憩時間になっていた。


「2人とも、休憩しないか?」


 俺がミミルを迎えに行っている間もずっと仕込みを続けていた2人には頭が上がらない。


「あ、はい。ありがとうございます」

「ほな、お言葉に甘えて休憩さしてもらいますわ」


 2人の返事がきたところで、駐車場近くの自販機で買ってきたお茶を2人に差し出し、出町柳で買ってきたものを調理台の上に置いた。


「あ、豆餅」


 田中君が袋の中を覗き込んで言った。よく考えると、田中君の実家は製餡所だから、他所の餡子が入ったものを喜ばないかも知れない。


「ああ、すまん。他に思いつかなくてな」

「豆餅って、出町柳の?」

「うん、俺はもう20年近く食べてないけど、前を通ると食べたくなってね。ちょっとミミルを呼んでくる」


 言って俺は厨房を出て2階に向かって、念話でミミルに話しかける。


『皆で休憩するから、ミミルもおいで。さっき買った『マメモチ』を食べよう』

『そういえば何か買っていたな』

『しょっぱくて甘いものだけど、いらないのか?』

『食べるに決まっているだろう』


 ミミルから返事がくるや否や、自宅の扉が開いてミミルが出てきた。息を切らしたりはしていないが、相当慌てたのか、サンダルを左右逆に履いている。


「そんなに焦らなくても豆餅は逃げないぞ」


 俺がミミルの足下を指さして言うと、ミミルは慌てて左右のサンダルを入れ替えた。

 ミミルと2人で階段を下り、厨房に戻ると裏田君、田中君の2人は律儀にも手をつけずに待っていてくれた。


「これ、ミミルの分な」

「ん」


 短く返事をしたミミルは、ペットボトルに入ったお茶を受け取り、「じぶんであける」と言って栓を回そうとした。しかし、うまくいかない。以前はペットボトルの紅茶を飲ませていたが、よく考えると俺が栓を開けてから渡していた。

 さすがに小学5年生くらいの身体をしていればペットボトルぐらいは開けられると思っていたが、案外ミミルには力がいるのかも知れない。


「指でしっかりと蓋を持って、容器の方を回すと開けやすいえ」


 田中君がミミルに助け舟を出した。確か、中学の理科で学ぶ()()()()()だ。直径の大きい容器の方を回すと、直径が小さいキャップを少ない力で回すことができる。支点、力点、作用点が棒状になっているか、筒状になっているかだけの違いで、実質的には梃子の原理と同じ理屈だ。


 キャップが開く音がして、ミミルの頬が緩んだ。


 その間に俺は小皿を用意して、豆餅を配った。


「悪いね、気が利かなくて」

「いえ、うちもこれは好物なんです。そうや、なんで豆大福と違うか知ったはります?」

「確かに、()()()じゃないんだよな」

「僕は知ってますよって、教えませんよ」


 最後になったが、ミミルに豆餅を置いた皿を差し出すと奪うようにして取られた。


「いただきます」


 ミミルが行儀よく手を合わせて言ったのを見て、大人3人組も声を合わせて続いた。

 ミミルは大きく口を開け、豆餅に齧り付いている。表面を覆う餅が伸びて、とても柔らかそうだ。それを見て、俺は思ったことを率直に言ってみる。


「餅屋だからか?」

「ブブーッ、違いますよ」

「ええ、前にあそこの社長が『うちは餅屋ですよって……』って言うたはる雑誌を見たで?」

「元々は石川県に伝わる神饌(しんせん)で使う豆が入った餅に餡子を包んだのが始まりなんやそうです。裏田さんが言うたはるのは、味付けのことですよ。餅が美味しいように餡子を作るって言うてはりました」


 どこか得意げな田中君の言葉に、やはり製餡所の娘だけあって餡子のことはよく知ってると俺と裏田君は感心した。


京都の人にとって、豆餅といえばこれです。


挿絵(By みてみん)




この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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