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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第52章 ダンジョン攻略

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第520話

 他にもライフルや自動小銃などの映像をみせるとミミルは黙り込んでしまった。

 実際に何かを殺傷する動画ではないのだが、魔法に頼ってきた文明に生きてきたミミルから見れば、遥か離れたところから音速を超えて飛んでくる銃弾など想像の範囲を超えているはずだ。


 俺は尻をずらしてミミルの傍に移動し、肩を抱き寄せた。

 ビクリとミミルの身体が硬直したが、俺は気にせず話す。


「まあ、今日や明日にもフレイヤが現れるなんてことはないと思うし、そのときにどうするかはじっくり考えよう」


 ミミルは驚いたように目を瞠り、俺を見上げて頷いた。

 そんなに焦る必要はない、という意味が伝わったのか、ミミルの表情から固いものが抜け落ちた気がした。


「それで、そろそろこちらでは夕食の時間帯なんだが、腹具合はどうだ?」


 ダンジョン第21層の時間の流れが地球よりも遅かったせいもあり、いまはもう17時を過ぎたところだった。


「ん、食べる」

「なにがいいかな……」


 今日はもう何も料理する気がしない。

 偶然にも第3層から第21層にショートカットできる鍵をミミルが持っていたというのもあって、多少はズルした気分になっていた。だが、ミミルが本当はエルムヘイムに帰る方法があること、そのための方法を教えてくれたこと、妹たちが探しに来る可能性があることなどを聞いていると、俺も大きく前進したような気になったのかも知れない。ダンジョン第21層をクリアしたという実感が少しずつ強くなってきていた。風呂上がりの解放感もあるのかも知れないが、とにかくお祝いしたい気分だ。

 だが、ミミルに相談すると「肉」と言うに決まっている――そう思うと、魚料理を食べたくなってきた。


「ミミル、寿司でも食べに行くか?」

「すし、おすし?」

「食べたことがないだろう?」

「ん、みるない。たべたもない」

「ん、そうか?」


 市場を歩いていると普通に鯖の棒寿司などを売っているし、デパートでも店頭で販売していた。いつも朝にお参りする神社の近くにも回転寿司の店がある。食品サンプルなども見たことくらいはあるはずだ。でも、単語としての「寿司」を知っていても、寿司の現物を「寿司」と認識していなければ、わからないのも理解できる。


「じゃあ、楽しみにするといいぞ」

「ん、たのしみ」


 俺は同じ調理師学校時代の友人、藤田君が営む寿司屋に電話をし、予約を入れてもらった。運よく、キャンセルが入ったということで、その空いた時間に割り込ませてくれた。

 カウンターの寿司屋なので、本来は子どもを連れて行くような店ではないのだが、ミミルは大人並みによく食べるので問題ないし、他の客に迷惑をかけるようなことはしないと言っておいた。


 予約の時間は18時なので、慌ててミミルと店を出た。


 いつもの商店街はこの時間帯になると店を閉め始めていた。人通りもかなり少なくなって歩きやすい。

 河原町通りの信号を渡り、1本北にある広めの路地を抜けると木屋町通りだ。このあたりは土佐藩邸跡だった場所である。更に北に向かうと、いくつも路地があるエリアに到着する。大人が2人でようやくすれ違えるような幅の狭い路地から、多少は余裕のある路地までいろいろだ。路地に特に地名がついていなかった頃、ここは番号路地と呼ばれていた。独特の風情がある場所だ。

 目的の店に5分遅れで到着し、中に入ると店主から声がかかった。


「いらっしゃい、高辻君。久しぶりやなあ」

「うん、久しぶり。電話でも言ったけど、小さい子がいるんだ。大人の量は食べるから、ワサビだけ気をつけてもらっていいかな」

「いや、そんなことよりもお前、結婚してたか?」

「してない、してないが……俺がヨーロッパに修行に行ってたの知ってるだろ?」

「なんや、することしとったんかいな」

「まあな。ミミルだ」


 いつものように背後に隠れたミミルを引っ張り出して、両肩を抑える。


「ミ、ミミルです」


 そこまで緊張する必要はない相手なのだが、こいつはちょっと顔が怖いから緊張するのも理解できる。


「お、えらいかいらしい女の子やな。おっちゃん、藤田っていいます。怖い顔してるけど、こわないさかいな。でも、よかったなあ、お父さんに似いひんで」

「お前なあ……」


 ひと言多いんだと言いたくなるが、他にお客さんがいる手前、馬鹿な会話を続けるわけにもいかない。


「まあまあ、久々やし許したって。ほな、一番奥の席へ」


 藤田君の「案内したってんか」という言葉で店で修行中らしき青年が席へと案内してくれた。

 白い檜の一枚板がとても美しい。


 ちょっと高いカウンターの椅子に、ミミルを抱き上げて座らせる。

 一瞬、ムッとした顔をして「じぶん、できる」と言ったが、お手洗いに行くときまでは面倒をみないので、「最初だけな」と言っておいた。


「生でいいかな? ミミルちゃんは、お茶か普通のソフトドリンクかしかあらへんけどどないしよ?」

「俺は生で、ミミルは……サイダーで」


 俺はあとで〈またしょーへいだけ酒を飲んでずるい〉と言われるのを覚悟した。


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次回の投稿は9月6日(火)12:00を予定しています。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 回転寿司しか食べたことがなくちゃんとした酢の効いた酢飯に慣れてない人増えてるらしいですよね。ミミルは食べるから廻らないお寿司屋さんはちょっと怖いです。
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