第518話
〈そ、そのダンジョンの種というのはどうやって入手するんだ?〉
数回深呼吸をして落ち着いた俺は、ミミルにたずねた。
〈ダンジョンは宇宙樹の残滓を使って作られたという話をしたが、魔物を狩る一方ではダンジョン内の魔素が減るばかりだ〉
〈そうだな、宇宙樹だって無限ではないと思うよ〉
〈そう。無限ではないから、ダンジョンの外から補給する必要がある。つまり、ダンジョン外の生命体を吸収させれば良い〉
〈ちょ、ちょっと待て、それは……他のニンゲンにもダンジョンに入らせるということか?〉
〈早とちりするな、ちゃんと話を聞け。いいか?〉
一瞬、他の人間にもダンジョンに入らせて、死んだらダンジョンに吸収させる……そういう意味かと思ってしまった。ダンジョンに入って不老不死に近い身体を手に入れたからといって、魔物の手にかかってしまえば死んでしまう。
魔物にやられて死ぬということがないにしても、俺と同じように不老不死に近い身体を得て、身近な人を見送りつづけないといけない人が増えるというのもいただけない。
そこはミミルも理解しているはずだ。
〈魔素で作られていない生命体が必要だということだ。チキュウにも繁殖能力の高い動物がいるのだろう?〉
〈ああ、そうだな、ムースの類は多産で出産までの周期が短かい。でもミミル、ムースは飲食店にとっては天敵なんだ。病気の元になる微細な生物を運ぶからこの建物の中に入れるということ自体ありえない〉
〈別に生きた状態で連れて行くことはない。どうせ死ななければダンジョンはその生物を取り込むことができないからな〉
〈なるほど。だったら、骨だとか、捨ててしまうような内臓だとか、そういうものならいいのか?〉
〈ふむ……それは店をしていれば出るモノなのか?〉
〈そうだ。でも、魔素で作られていない生命体って、具体的にどれだけの量が必要なんだ?〉
〈昔の記録があるだけで、具体的なことはわからん。生命の数なのか、大きさなのか、それとも違う何かなのか……まったくわかっていない〉
〈まあ、言葉は悪いが残飯でよければ提供できる。そのために何かを買ってきて……というのは勘弁してほしい〉
とりあえず、俺の店で出る――ジャガイモの皮だとか、ブロッコリーの葉だとか、ラムラックやポークスペアリブの骨の部分でよければ協力できる。
それでダンジョンの種ができ、ミミルがエルムヘイムへ帰る術を見つけるのなら、それはそれでいい。だが、他にも問題は出てくるわけだ。
〈それでダンジョンの種を手に入れたとする。どこに埋めるんだ?〉
〈そ、それは……どこかいい場所はないか?〉
〈すまん、まったく頭の中に浮かんでこない〉
いまあるダンジョンは偶然にも俺の店の奥庭、しかも客席からは見えない場所にできた。それに、階段を下りた先にある部屋もまあ、俺の家の敷地にだいだい収まっているはずだ。言い換えると、俺の家の敷地内にはもう場所がない。
ならば、他に土地を買えばいいではないかと言われると、大きな穴ができて、更には地下に結構な大きさの空間ができてしまうこと、人目につかないことを前提と考えると、場所を選ぶのも難しい。
例え山や無人島を買っても、そこに通うことを考えると近隣の人たちに不審に思われると思うし、最近だと衛星写真でバッチリと撮影されてしまう。
〈そうか……〉
ミミルが肩を落として、元気なく呟いた。
俺は隣に座っていたミミルの頭に手をのせた。動かすと怒られそうなので、そのまま手を肩におろして、引き寄せた。
〈まあ、ダンジョンの種ができるまでどれだけかかるかもわからないんだ。もう、種ができてから考えてもいいんじゃないか?〉
〈そ、そうだ、そうだな!〉
落ち込んだ表情をしていたミミルは、俺に花が咲くような笑顔をみせる。
表情がコロコロと変わるが、やはりミミルの笑顔は可愛らしい。
〈それまでに妹たちが迎えに来るかもしれないんだろ?〉
〈チキュウは広いのだろう? いつ、どこに現れるかわからんぞ?〉
〈俺と同じように、突然穴が開いてミミルの妹が現れる……ということか。それはかなり危険だな〉
〈フレイヤなら大丈夫だ。剣を持たせれば右に出る者はいない〉
〈いや、そうではなくてだな……異世界から来た妹さんを、放っておかないニンゲンがいるということだよ。
前にも話しただろう? ミミルが異世界人だとわかると、必ず研究機関に連れて行かれるだろうって。フレイヤだっけ、妹さんも同じことだ。特に不老長寿に近い身体の秘密を解き明かすためなら何でもしそうな国もある。そんな国に見つかるとたいへんだぞ〉
〈大丈夫だ、フレイヤは剣聖とも呼ばれる剣の達人。そう易々と捕まることはない〉
〈いやそうではなくて、もうニンゲン兵器……エルム兵器みたいなのが現れたら軍隊が出て大騒ぎになる。何人ものニンゲンが死んで、フレイヤは射殺される……なんてことになるんじゃないか〉
正直、場所によってはミミルでもそうなっていたかも知れないんだよな。
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次回の投稿は9月3日(土)12:00を予定しています。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






