第516話
メダルを嵌める前から薄く光っているところを考えると、ここの転送石は守護者を倒すだけで転移できるようになっているようだ。そして、管理者の部屋に行くためにはヴァルキリーが落としたひと回り大きなメダルが必要ってことらしい。
ミミルが転移を終えたことを確認し、俺は転移石の台座にある窪みにヴァルキリーのメダルを嵌めた。転移石はそれまでぼんやりと光っていたが、明らかに明るさが変化した。
「よしっ、行くか!」
少し気合を入れ、俺は目を閉じて転移石に触れた。
いつものように軽い浮遊感のあと、足が地面についた感覚で重力が戻ってきたことを感じ、俺は目を開いた。
洞窟のような湿った感じの冷たい場所で、とても薄暗い。
目に入るのは大きなテーブルがひとつ。その傍にミミルが立っていた。
〈しょーへい、こっちだ〉
〈ああ、いま行く〉
時間の流れがダンジョンの階層によって異なるのだから、ここでも俺はミミルを待たせていたのだろう。
慌てて俺はミミルの近くまで駆け寄った。
〈まず、しょーへいには管理者になってもらおうと思っている〉
〈ミミルが管理者じゃないのか?〉
〈2人目の管理者、という意味だ。私の身に何かあったらどうする〉
どうすると言われるても、そういうことがないように俺はミミルに寄り添って生きていくことを決めた。だから、俺ひとりが残されるような事態は考えたくもない。
ただ、俺が裏田君に店を託すようなお願いをしたのだから、ミミルが言いたいこともわからないではない。
〈ま、まあ、そういう意味なら仕方がないか。どうすればいいんだ?〉
〈管理者の再登録をする。指先を少し傷つけるが、許してくれ〉
ミミルが石で出来た大きなテーブルの中央にある黒い石を撫でると、その中心から一筋の白い光が天井へと伸び、徐々に大きくなっていく。直径40センチほどの大きさになると、円の中に正三角形が2つ浮かび上がり、クルクルと回転して6つの頂点が正六角形をつくりあげた。
白い光が外周の円をクルクルと回り、6つの頂点はそれぞれ異なる光を放っている。
〈すごいな……〉
まるでホログラムのように展開される何かが、俺にそう呟かせた。
〈管理者になると、さまざまなことができる。本来なら出口、入口の場所を決めることができる。残念ながら固定してしまうと、元に戻すことはできないのは以前話したとおりだ。他の機能をいくつか紹介するとすれば、まずは層の入れ替えだな。第21層以外は組み替えることができる。例えば第19層を第15層と入れ替えるだとかいうことができる〉
〈へえ、第1層も入れ替えできるのかい?〉
〈できる。その際、第1層になった場所の魔物たちは、第1層なりの強さへと徐々に変化する。理由は魔素の質や量が第1層になった時点で変わるからだろうと言われている〉
〈例えば、第1層と第5層を入れ替えたとして、第1層の魔物たちはどうなるんだい?〉
〈第5層の魔素の質、量に応じて強くなる。たまに定期的に各層の入れ替えが起こるダンジョンがある。変わった直後の第1層に当たるというのは不幸でしかない。まあ、機能や操作方法は追々教えることにして、まずは管理者の追加だ〉
ミミルが紫色に光る頂点に触れると、各頂点が水色、黄色、土色、緑色、白色に光り出した。続いてミミルが緑色の頂点に触れると、盤上の光がすべて消えた。
人知の域を超えた操作方法に少し呆気に取られていると、ミミルが俺に声を掛けた。
〈指を出せ、少し血を貰う〉
〈痛くしないでくれよ〉
〈何も切落すわけではない。大袈裟だな……〉
俺が右手の人さし指を出すと、ミミルは空間収納から取り出したナイフで小さく傷をつけた。チクリとくる痛みに一瞬だけ俺は怯んだが、大した痛みではなかった。指先の傷からジワジワと血が出てきて、雫として落とせるくらいの大きさになったとき、ミミルは俺の手をとってテーブルの黒い石に血を垂らす。続いて自分の指先にもナイフで傷をつけ、黒い石に一滴だけ血を垂らした。
再び、黒い石の上に光が戻り、ミミルが緑の頂点に触れる前の状態に戻った。それを確認し、ミミルは再び緑の頂点に触れた。
6つの頂点がそれぞれ異なる色に輝き、それらを結ぶ円状の線の上を白い光がくるくると回る状態に戻った。
〈これでしょーへいも管理者になった。おめでとう〉
〈ありがとう?〉
意図せずに管理者にまでなってしまったので、俺は戸惑いを隠せない。
管理者で何ができるのか、何ができないのか、そのあたりをもっと教えてもらわなければいけないだろう。
〈予定をかなり過ぎてしまっているからな。しょーへい、チキュウに戻るか?〉
〈そうだな、予定していたこともいろいろあるし……戻ろうか〉
〈部屋の入口にある転移石から自由に出入口、各層へと移動できる。チキュウにある出入口から直接ここに来ることもできるから、まずは出入口に戻ることにしよう〉
そう述べるとミミルは転移石に触れて転移を済ませた。俺もそれに続き地上へと転移した。
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次回の投稿は8月31日(水)12:00を予定しています。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






