第496話
〈おおっ、あと1回だな〉
〈うん、次はどんな色か楽しみだ〉
〈魔力を流し込んでみてくれ〉
俺は頷いて、カードを摘まんで魔力を流し込んだ。
カードが輝き、文字が浮かび上がってくる。
――◆◇◆――
氏名:高辻 将平
種別:ヒト
所属:地球 日本国
年齢:36歳
職業:無職
スキル:
料理Ⅳ、目利き(肉Ⅳ)(魚Ⅲ)(野菜Ⅳ)、包丁術Ⅳ、狩猟Ⅱ、解体Ⅱ、皮革加工Ⅰ、短剣Ⅱ、弓術Ⅱ、身体強化Ⅱ、魔力強化Ⅱ、魔力操作Ⅱ、魔力探知、無我
基礎魔法(無Ⅱ)(風Ⅰ)(土Ⅱ)(火Ⅰ)(水Ⅱ)(氷Ⅱ)(雷Ⅰ)(生命活性Ⅰ)(空間Ⅱ)
空間収納
四則演算
加護:
波操作、エルムヘイム語Ⅲ
――◆◇◆――
特に変化したところは……と、眺めていると裏側に表示されているエルムヘイム共通言語の表示を見てミミルが言った。
〈無我というものと、生命活性が生えて、土と水、氷属性の魔法が1つ上がっているな〉
〈あ、本当だ。土と水、氷の属性魔法は速度を上げたことが関係しているのか?〉
〈それだけ熟練してきたということだ。ただ、風と雷も使えるようになる方がいいぞ〉
〈ああ、わかった。生命活性がⅠになっているが、ⅡやⅢとの違いはあるのかい?〉
〈あくまでも治療できるまでの時間の差だと思えばいい。その魔法の習熟度が高いことは自慢にはならんからな〉
生命活性の習熟度が高いということは、それだけダンジョン内で怪我をした証拠になる。確かに褒められることではない。
〈ま、そうだな。あと、風と火はどうなんだ?〉
〈風は地道な練習が大切だ。火は使うと危険な場所が多い。第12層や第16層あたりまでは使わないようにしてくれ〉
〈そこまでは草木の多い場所ってことか〉
〈そのとおりだ〉
ダンジョン第1層から、いまの第3層までは草原。次の第4層は森だとミミルは言っていた。
第12層あたりまで似たような環境が続くということだ。あまり単調なのも飽きてしまいそうな気がする。できれば第12層まで変化に富んだ環境を楽しめると嬉しいが、それは無理な願いというものだろう。
〈無我というのは?〉
俺は、何となくそれが何か予想しながらミミルにたずねた。
〈自分で身に着けたのだ、どのようなものか気付いているのだろう?〉
〈うん。戦っているときに、時間が引き伸ばされる感覚が何度かあった。魔物の動きがとても緩慢に見えるんだ〉
冬の寒い日に橋の上を愛車で走っていて、凍結していたことがある。前の車がスリップして対向車線に飛び出し、前から来たトラックに正面衝突して俺の車の前に跳ね返ってきたことがあった。
車間距離はかなり空いていたのだが、そのときは異様に時間が流れるのが遅かった気がする。とはいえ、路面が凍結しているので避けるなんてことはできなかったが……。
すると、俺の話を聞いたミミルが少し悔しそうに言う。
〈魔法主体の私には身につけられない技能だが、剣聖の称号を持つ妹のフレイヤも同じようなことを言っていた。魔物の動きを紙一重で避けて斬りつける、ということができると言っていたな〉
剣聖という称号もあるのか。北欧神話のことを考えると、日本刀のような刀ではなく、西洋剣のようなものを使って戦うのだろう。そのような称号がつくほどの達人なら、自由に無我を発動できるだろうな。
〈俺はまだ自由に発動できているわけじゃないぞ〉
〈それだけ集中が高まることが大事なのだろう。フレイヤも自由に発動することはできなかったと思う〉
無我のことなどを話ながら数分歩き、エルムの木の下に到着した。一応、確認したが、ラウンはいなかった。
30分ほどで野営の準備を済ませた。もちろん、昨夜作った石窯も取り出し、既に燃焼室には火が入っている。
〈夕食は試食を兼ねて、ヴァンリィとグロービヨンの肉を焼くつもりだけど、それでいいか?〉
〈むしろ、それがいい〉
俺がたずねたことに、返事をしてミミルは折り畳みの椅子に座った。どこか期待に満ちた目で俺を見ているところを見るに、おそらく料理ができるまでの間に食べるものを出してもらえるのではないかと期待しているのだろう。
〈ドルチェは出さないぞ?〉
〈むう……〉
ミミルは拗ねたように唇を尖らせた。
食事の前に甘いものを食べるという癖はよろしくない。だが、ミミルは買ったケーキ類を空間収納に仕舞っているので、そのケーキまでは制限することができない。取り上げておくべきだっただろうか……。
案の定、ミミルは空間収納からケーキが入った箱を取り出した。どうやら、今日はイチゴのショートケーキを食べるらしい。
だが、ミミルがケーキを食べ始めたことで、俺も真剣に料理に向き合うことができるようになった。俺は簡易テーブルの調理台の上に食材を取り出して並べて考える。
今回はヴァンリィの肉、グロービヨンの肉を使う。石窯に火をいれているので、今回もオーブンのようにゆっくりと火を通す料理にしたい。
厚めに切ってスキレットを使って石窯で火を通すのもいいが、ステーキというのは表面にグリルの焼き目をつけた方が美味そうに見える。しかし、流石にグリルパンまでは持ち込んでいない。なんかいい方法はないものか……。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






