第495話
俺はミミルが飛び去った方角とは逆に向かい、グロービヨンを探した。
ヴァンリィがいる方向へ戻ってしまうと途中で日が暮れた時によろしくないので、安全地帯からそんなに離れないように歩いた。
結果、2頭のグロービヨンに会敵し、うち1頭が肉をドロップした。肉の部位は牛で言えばサーロインにあたるところ、腰のあたりの肉だ。適度に脂身がついているが、赤身には一切の脂が見当たらない。
狩猟で倒した獲物は、すぐに血抜きをして冷やすのが基本だ。昔はその冷やす技術がなかったので、鹿や熊、猪のような野生動物の肉は臭みがあるとよく言われたらしい。最近の地球の技術なら、冷凍まではいかなくとも血抜きを終えたらすぐに冷やしてことができるようになってきている。おかげで、ジビエ料理なんてものが出せるようになっているのだが、ダンジョン肉はその手間がないのがありがたい。
2頭のグロービヨンから他にドロップしたのは、皮と爪、魔石だった。
ミミルと別れた場所まで戻ってくると、遠くにグロービヨンと戦う姿を見ることができた。とはいえ、数百メートルは離れていたので、アリよりも小さいくらいだ。どんな戦い方をしているのかまでは見えない。目を凝らして遠くのミミルたちを観察しようとしたところ、グロービヨンの足下から氷の槍が突き出して、グロービヨンを串刺しにしたのが見えた。
『とりあえず、肉は1つ手に入ったぞ』
『なんと、やはりしょーへいは運がいいな』
『そんなことはないと思うが……とにかく、野営の準備をするぞ』
『うむ。エルムの木はこちら側に近い。しょーへいもこっちに来い』
『わかったよ』
ここで待っていると言いたかったのだが、ミミルのいる場所の方がエルムの木に近いと言われてしまえば、移動するしかない。
5分ほど歩いて、ミミルのいる場所に到着した。
ちょうど、ミミルが倒したグロービヨンが魔素に返ったところのようだ。足下には魔石と毛皮が落ちていた。
ミミルは手を伸ばすこともなく、それらを空間収納へと仕舞って俺にたずねる。
〈で、しょーへいは何頭倒したのだ?〉
〈2頭だ。歩いて移動しているんだから、多くは戦えない〉
〈それはそうだが……しょーへいは合計で8頭、私は12頭も倒しているのに肉がでないとは〉
ミミルが肩を落として話す。
確かにミミルが戦うとドロップ率自体が下がる気がする。これは何か原因があると思うのだが、もしかすると。
〈ダンジョンの管理者だから、っていうのが理由だったりして?〉
〈――!?〉
ダンジョンの管理者ということは、ダンジョンを守る側の立場であり、魔物を守る側の立場であるともとれる。そのダンジョンの管理者が自分のダンジョン内で暴れると、それなりのペナルティがある……そんなルールがあってもおかしくはないと思う。
ただ、これまで全くドロップしなかったわけでもないので、ドロップ率が下がるという程度なのかもしれない。
俺の言葉にミミルは俺を見上げた。その表情で明らかに驚いていることがわかった。
〈い、いや。そんなことはない〉
2秒、3秒と同じ顔のまま固まったように俺を見ていたミミルだが、スイッチが入ったかのように動き出した。
〈管理者がいないダンジョンでも、私が魔物を狩ると肉などが出る確率が下がる。しょーへい以外の……妹たちと共にいたときも同じだ〉
〈それじゃあ、やっぱり火力が強すぎるのかな〉
オーバーキルをすると、魔物が死んだ後に残るべきものまで損傷してしまう……なんてことが考えられる。第2層でミミルが覚えたての雷魔法を使って大量にキュリクスを殺戮していたときがそうで、黒こげの炭状態になった魔物は魔石以外のドロップ品を残さなかった。
〈む、これでも手加減しているぞ?〉
〈全力を出さなくても倒せる相手ってことだろう。それだけ力量に差があれば多少の手加減ではだめなのかも知れないぞ〉
〈むう……〉
ミミルは再び唇を尖らせ、拗ねたような表情をみせた。
何も言い返してこないところを見ると、多少は心当たりがあるのだろう。
安全地帯の柵のように、2メートルを超える萱のような草が生い茂ったところに足を踏み入れ、草を掻き分けて進んだ。
2分ほどで安全地帯に出た俺たちは、100メートルほど先に見えるエルムの木の下に移動した。
少しずつ、茜色に変わっていく西の空を見ながらひと息つく。
〈しょーへい、技能カードを見てみろ〉
〈そうだな、色が変わっているといいんだが……〉
俺はミミル特製のズボンの尻ポケットからカードを取り出した。
結構、激しく動いたりしているのだが、尻に入れていても大丈夫なものなのか心配だ。これはどこに仕舞うべきか、あとでたずねよう。
取り出したカードを見ると、カードの色が銅色に変わっていた。普段見かける10円玉のような色ではなく、新しい10円玉やビニールを剥いだ時の銅線のような色をしている。
〈お、色が変わってるぞ〉
俺はなんだかレベルアップしたような気分になり、弾むような声でミミルにカードを見せた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






