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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第3章 ダンジョンと生活

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ミミル視点 第28話

 いろいろな店を回ったせいもあり、帰り道では既に日が沈んでいた。

 それでも道を歩くのに困らないのは、あちこちに設置された明かりの魔道具のおかげだろう。


 この明るさのおかげなのか、夜になっても人通りが減ることがない。

 実にすごいことだ。

 エルムヘイムなら日が沈むとほとんどの人が眠ってしまう。


 ただ、とても残念なのは明るすぎて空の星が見えないこと。

 空は青黒く、大きな衛星らしきものが見えているが、それ以外に見える星がほとんどない。


「文明が発達するというのも実は寂しいことなのかもしれんな……」

『なに?』

「いや、なんでもない」


 しみじみと思ったことを何故かしょーへいとの念話に流してしまった。気をつけよう。


 どうやら、家の前に到着していたようだ。

 しょーへいが鍵を取り出して扉を開けてくれた。


 そして、家に入るなりしょーへいが発した言葉はこれだ。


『へや、ばんごはん、たべる』


 あちこち歩き、いろいろと買い物をしたせいもあって、しょーへいもお腹を空かせていたのだろう。

 その言葉に私は首肯することで返事にした。

 実は声を出すのも疲れるほど私も腹が減っているのだ。



    ◇◆◇



 部屋に戻り、しょーへいが卓の上に先ほど買った〝べんとう〟を置く。


 椅子に座って見ていると、しょーへいがすべて準備をしてくれるので実に楽だ。

 これくらいは私にもできることなのだが、いまは未だどこに何があるかを知らないし、どれが何の目的のためにあるものなのかもわからない。

 少しずつ慣れて覚えていくしかないが、しばらくは見て覚える――それでよかろう。


 次に卓の上に白い匙が出てきた。

 どうやら同志が私に気を使って木の棒ではなくこの匙を選んでくれたようだ。

 それにしてもこの匙、今朝の〝ホットケーキ〟を食べる際に出てきた白いフォークとナイフを思い出させる。同じ素材で作られているのだろう。


 そして、しょーへいがベントウの蓋を開けてくれる。


 まだ温かいベントウから一気に白い湯気が立ち上ると、タマネギや肉を煮た甘い匂いが辺りに広がる。


 この匂いを嗅いでいるだけで口の中が涎でいっぱいになる。

 実に美味そうな匂いだ。


 それにしても、買って少し時間が経っているというのに、こんなにも湯気が出るというのはすごい。恐らくこの容器に秘密があるのだろう。


 そこにしょーへいが透明な袋の一部を破り捨て、その中身を振りかけた。

 何やら薄紅色に染まったものだ。


『からい、たべる?』

「いや……やめておこう」


 他にも上から振りかけるものがあるようだが、辛い物は苦手だ。

 いや、苦手というよりも耐性がない。

 エルムヘイムには砂糖を使った甘いものがあまりないが、辛く料理したものも少ない。

 辛さのもとになる唐辛子はあるのだが、それを好んで食べないので耐性がつかないのだ。

 ちなみに、唐辛子もダンジョン内で手に入れることができる作物だ。


 しょーへいは自分の分のベントウに薄紅色のものと、小袋に入った赤っぽい粉を振りかけると、木の棒を持って両手を合わせた。


エトドケモス(いただきます)――」


 何を言っているのかわからなかったが、しょーへいは木の棒を二つに割って食べ始める。


 押し切る、千切る、挟む、摘まむ、掬う、集める――たった二本の棒が様々な動きをしてみせる。


 実に器用なものだ。


 しょーへいはよほど腹が減っていたのか、ガツガツと口の中に掻き込むようにして食べている。


 その食べ方も美味そうだ……。


 どれ、私も食べてみることにしよう。


 白い匙を持って、ベントウの上に突き立てる。

 木の棒を持とうが、白い匙を持とうが右手に握ってしまっているのでつい突き刺すような動きになってしまうのだ。

 表面の肉を押し込むように匙は入っていく。どうやら肉の下には米を水で煮たものが入っているようだ。いい感じに煮汁を吸って茶色く染まっている。

 この肉の横にあるのは飴色になるまで煮汁で煮込んだタマネギ。トロリとしていて美味そうだ。


 適度な量を掬うように調整し、匙と共に料理を口に入れる。


 実にいい香りだ。少し甘さを感じる煮汁の風味が堪らない。

 それに、じっくりと煮込まれた牛の肉は柔らかく、煮汁をしっかりと吸っている。肉がほんの少し獣臭いが、さきほどしょーへいが袋から出した薄紅色の――これは生姜だな。この生姜が匂いを消すと共に、爽やかな香りと酸味、シャクシャクとした歯ざわり等を加える。実にいい仕事だ。

 それに調味液に肉の旨み、タマネギの甘味がたっぷり染み出した煮汁を吸った米は――。


「美味い!」


 この料理は絶品だ。

 料理を持ち帰ることをベントウと呼ぶのならこの料理には別の名前があるはずだ。


『これなに?』

『これ、ギュウドン』


 そうか、ギュウドンだな……覚えたぞ。


「これは実に美味い。だからまた買う。いいな?」


 しょーへいは口の中にいっぱい食べ物を詰めたまま、ただ頷いてみせた。


 なんだ、この男も食いしん坊だな――。

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