第488話
キュリクス肉やファルの肉を集めた際、ミミルの空間収納から半分の食材を受け取り、俺の空間収納に仕舞った。それの配分を見直せばなんとかなるだろう。
〈じゃあ、食料の配分を見直すか?〉
〈い、いや……それには及ばん。それなら、多めに料理を作って欲しい。出来上がった料理を私の空間収納に仕舞っておけば、別に食材を再分配する必要がないではないか〉
〈それはそうだが……〉
つまりは自分が料理ができない、又は料理が苦手だったり、面倒なので俺に作って欲しいってことだろう。まったく、ミミルは素直じゃない。
呆れたようにミミルを見たあと、前に視線を向けた。その視線の先にヴァンリィの姿が見えた。今度は5頭もいる。
〈おっと、お客さんだ〉
俺はミミルに声をかけ、すぐに2本のナイフを抜いた。
先ほどは初対戦ということもあって、1頭を相手にするにも少し苦労をした。1頭でも面倒な相手なのに、5頭がまとめて来るとなると厄介だ。
〈ちょっと多いな〉
〈離れている間に魔法を使え。蹴りに注意するんだぞ〉
少し不安げに言ったつもりなんだが、ミミルはそのまま空へと飛びあがった。
確かに跳ねるように飛んでいる間、ヴァンリィは魔法攻撃に対して無防備になるはずだ。それに、腕は太いが、ヴィヴラなら切り飛ばせる太さだ。
先ほどと同じように数秒でヴァンリィたちが近づいてきた。やはり1歩で10メートル以上は跳ねてくるのだが、速度そのものはルーヴの方が速い。それに、滞空時間が長い分、直線的な動きになりがちだ。
「――ストーンバレット」
ナイフを突き出すように向けた右手の周囲に4センチほどの石礫を複数呼び出し、順に発射する。速度は秒速200メートル、時速720キロだ。
上下に跳ねて向かってくるヴァンリィは狙いをつけにくいが、この速度なら射程距離の20メートルくらいは一瞬で到達する。
うち1発が先頭にいたヴァンリィの右目を抉り、次の1発が眉間へと突き刺さった。ピィッと笛のような短く小さな声をあげて、1頭目が倒れる。と、その後ろにいた1頭の左目の下に石礫が当たった。当たった石礫と、ヴァンリィの骨が砕ける音がした。その激痛に、ヴァンリィは悲鳴にも似た鳴き声をあげる。
これで2頭が離脱したのだが、残りの3頭が10メートル以上離れた場所から跳んだ。飛距離を調整し、自在に飛び跳ねてくるのがヴァンリィの嫌らしいところだ。
俺は両腕のナイフに魔力を込め、ヴァンリィの脚を狙ってヴィヴラを何発も飛ばした。魔力でできた不可視の刃が、5枚、6枚と宙を舞い、3頭のヴァンリィの脚に突き刺さる。魔力強化したナイフから飛び出すせいか、ヴィヴラの刃はエアブレードよりも殺傷能力が高い。そのヴィヴラでもヴァンリィの太腿を切り飛ばすことはできなかった。だが、確実に後ろ脚にダメージを与えているようで、突き刺さるたびに痛みに鳴き声をあげた。
3頭目のヴァンリィは俺を蹴り飛ばそうとしているのか、両足を前に突き出してきた。俺はそれを右に身体を移動しながらナイフで切り飛ばし、わざと右肩をヴァンリィの太腿あたりにぶつけて、受け流した。少々無理に受け流すことで俺の身体は1回転し、バランスを崩す。
爪先がなくなった3頭目のヴァンリィは、上手く着地できずに地面と熱いキッスをする。
視界には、残り2頭のうちの1頭の脚が、目の前に迫っているのが映る。
「――くっ!!」
かなり無理な体勢になっていたが、俺はなんとか1歩踏み出して、地面を蹴ってその場を離れようとする。
爪先に衝撃が伝わり、身体の向きが強制的に変えられたが、俺は地面に落ちて転がった。真横に跳んだはずが、身体の向きが変ってしまったので思うほど転がらなかった。
足を切り飛ばしたヴァンリィは立ちあがることができずに藻掻いている。
残りの2頭のヴァンリィは、俺を仕留められずに跳びながら減速したのだろう。20メートルほど離れたところまで移動していた。
俺は急いで立ち上がると、2頭のヴァンリィに向けて両手を向けた。
「――ストーンバレット!」
左右の手から1個500グラム近い石の塊が続けて飛び出し、秒速200メートルという速度で2頭のヴァンリィの体に突き刺さっていく。
ホイッスルのような鳴き声が少し悲し気だが、容赦はしない。
「――ストーンバレット!!」
眉間、眼球、喉、心臓、肝臓……地球のカンガルーならば弱点だろうと思える場所に何発も打ち込んでいくと、2頭は弱弱しく鳴き声を上げて倒れた。
俺は爪先を切り飛ばされて上手く立ち上がれずに藻掻いているヴァンリィの近くまで行くと、頭と心臓があるであろうあたりを狙ってストーンバレットで止めを刺した。
2番目にストーンバレットが当たったヴァンリィは、眼窩下壁が砕かれて眼球が飛び出し、顔が腫れあがっていたが生きていた。だが、視界がままならないのだろう……立つことができても満足に動けない状態で、痛みを耐えるように鳴いていた。
生かしておくのも可哀想だと思った俺は、至近距離からのストーンバレットをヴァンリィの頭に向けて放った。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






