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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第48章 ファングカット

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第475話

 指先から飛んで行った石礫は、結局どこまで飛んだのか、どこに着弾したのかなど全然わからなかった。これまでウォーターバレットやウォーターボール、アイスバレット、アイスボール、ストーンバレット、ロックキャノンを試す中で、大きさに関わらず二十メートルほど飛ぶと一気に勢いが落ちてしまったことを考えると、例え秒速二百メートルで飛ばしても同じくらいしか飛ばないのだろうと思う。おそらく、いま飛ばした石礫も二十五メートルあたりの場所に落ちているはずだ。


〈ん? 実験とやらは終ったのか?〉

〈うん、半分の速度にしたら音は鳴らなかった。たぶん、音の速度を超えたときに起こる現象が原因だと思う〉

〈音の速度、それはどれくらいだ? しょーへいが測ったのか?〉


 ミミルが目をキラキラと輝かせてたずねてきた。

 どのようにして測定したのかなど、学校で習った記憶がない。とにかく、摂氏十五度で一秒間に三百四十メートル進むということを覚えるように言われただけだ。


〈俺は測ってない。でも、チキュウの賢い人が測ったんだろう〉

〈そ、それで、どのくらいだ?〉

〈温度によって変わるが、だいたい一シクで三百四十ハシケだな〉


 エルムヘイムでは一秒が一シク、一メートルが一ハシケだ。地球の環境と同じなら、音の速度も変らないはずだ。だが、エルムヘイムやダンジョン内は地球にはない()()がある。


〈あくまでもチキュウでの話だからな。ダンジョンの中だと多少は違うかも知れない〉

〈ふむ。魔素の影響は確かにあるかも知れんな〉


 既に俺自身が音波探知という方法で魔物の存在を探知する方法を使っているが、音が戻ってくるまでの時間に加え、頭の中で音像を組み立てる時間もあるので正確に地球と同じだという自信がない。

 理屈で考えれば、魔素があってもなくても関係ない気がする。いや、地球の物理学が通用しないのがダンジョンの世界だから、やはり慎重に考えた方がいいだろう。


〈で、どうして音の速度を超えるとあんな音が鳴るんだ?〉

〈それはだなあ……戻ったら動画を見よう〉

〈なんだ、知らんのか〉

〈俺は学者じゃないんでね〉


 あくまでも俺は料理人だ。高校は物理の授業があったから知識はあるが、覚えていることは少ない。料理に微分積分や三角関数などは出てこないから既に覚えてもいない。いや、ピザ窯が温まるまでの時間を微分積分で算出することができるはずなんだけど、薪の量や燃え具合で変わってくるし、実際はそこまで厳密に何分かかるか計算する必要なんてない。


〈とにかく、一シクで二百ハシケくらいの速さなら大丈夫なんじゃないかな〉

〈ふむ……〉


 そういえば、ミミルが魔力弾を使うところをみていたが、射出する瞬間に指先に衝撃波が発生していたはずだ。俺の場合、コラプスと名付けていたが、まだ衝撃波が出るほど上達していない。


〈ミミル、ちょっと魔力弾を打ってくれないか?〉

〈なんだ、藪から棒に……〉

〈いいから、一発撃ってみてくれ〉

〈ふむ……〉


 俺が魔力視を目に纏うのを確認し、ミミルは少し面倒臭そうに右手を上げ、指先から魔力弾を放った。

 特に激しい音はしなかったが、発射の瞬間に指先の空間が円形に歪むのが見えた。

 魔力の塊が飛び出すのが一瞬なのでよく視認できなかったが、おそらく発射される瞬間の速度は音速に近いので、衝撃波が出る。音がしないのは、発生した衝撃波で魔力の塊が射出される速度が落ちるのが原因か……いや、よくわからない。


〈で、なんだ?〉


 ミミルが放った魔力弾を見て、俺はそのまま黙り込んでしまっていた。

 俯いて考えていた俺の視界に顔を突っ込んで、ミミルが俺に「何か言え」とでも言いたそうな顔をしている。


〈ミミルが魔力弾を撃つとき、一瞬だけ指先の空間が丸く円を描くように歪むんだ〉

〈確かに、指先に円が浮かぶことがあるな。結構好きな現象なのだが、そうれがどうした?〉

〈音の速度に近づくと発生して壁のようになるんじゃないかな、と俺は思っている。それで、その音の壁を突き抜けるときに音が鳴るんだと俺は予想してる〉

〈予想、か〉

〈すまん、本当に俺の知識では限界だ。やはり、自宅に戻ったら動画で説明があるか探してみよう〉

〈しようがないな〉


 残念そうに言葉を漏らすミミル。

 吉田にある国立大学に通えるほどの学力があれば違っただろうが、残念ながら俺の学力は中の下くらい。語学だけは現場に飛び込んで覚えることができたというていどの人間なので申し訳なくなってくる。


 気が付けば周囲は安全地帯に入っていた。

 この先は確かファングカットの領域だ。地球では絶滅したサーベルタイガーに似た魔物のはずだ。

 先日は、「既に絶滅したとされる生物を見ることができる」となって俺も少し興奮していたのを覚えている。


〈この先にいるのは、ファングカットだ。メスのルーヴほどの大きさで、上顎から二本の長い牙が生えている。奴らは群れで行動する。魔法の練習もしながら進むとしよう〉

〈了解だ〉


 秒速二百メートルに進化したストーンバレットの練習相手になってもらうことにしよう。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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